3章1話 21時00分 特務十二星座部隊、会議する。(1)



 時は巻き戻って王都が炎上する十数分前――、

 21時ジャスト――、


 魔王軍のスパイとの殺し合いの前に、リタは言った。

 イヴは七星団に入団して忙しそうだし、ティナはおじいちゃんのお墓参りに行くらしいし、暇潰しのヒーロー活動の一環だからこそ、もっと楽しませてもらわないと、と。


 そして墓参りに行った先で、特務十二星座部隊のニコラスからティナは聞いた。

 なぁに、21時に会議があるのじゃが、珍しく、それまで暇じゃったんじゃよ、と。


 定刻になった。

 ゆえに七星団の本部の円卓の間で、ニコラスが言ったとおり、今、特務十二星座部隊の会議が開かれようとしていた。


 円卓を囲むように席に座るのは、王国きっての選りすぐりの天才たち12人。

 入口の扉から遠い席から、序列の順に時計回りで――、



 ロイヤルガードの【白羊】――、

 〈決まれ、観測されし天体よアトミック・オービタル・ピリオド〉の保持者――、

 ――エドワード・キルヒェアイゼン。


 オーバーメイジの【金牛】――、

 【 絶滅エヴァンゲリオン・フォン・福音 】アウスステルベンの使い手――、

 ――アリシア・エルフ・ル・ドーラ・ヴァレンシュタイン。


 同じくオーバーメイジの【双児】――、

 空間にさえ容易く干渉する竜人――、

 ――ロバート・ハーフェンフォルト。


 さらに同じくオーバーメイジの【巨蟹】――、

 時を司る魔女、幻想種――、

 ――シャーリー・ヘルツ。


 キングダムセイバーの【獅子】――、

 聖剣デュランダルの振り手――、

 ――エルヴィス・ゴルトベルク・ランゲンバッハ。


 カーディナルの【処女】――、

 まだ流石にイヴより強い――、

 ――セシリア・ライヒハート。


 魔術の複合に優れた【天秤】――、

 一芸特化の化物集団にて、総合力で戦う異端者――、

 ――カーティス・バウムガルテン。


 王国最強のサモナーの【天蠍】――、

 妄想さえ現実に召喚する殺戮者――、

 ――ベティ・ディートリヒ。


 王国最強のアルケミストの【人馬】――、

 分子間の鎖さえ補強できる鉄壁――、

 ――フィル・アッカーマン。


 アストロロジャーの【磨羯】――、

 神様の領域に自力で到達しうる天才――、

 ――イザベル・モーントヴィーゼ。


 元序列第3位の【宝瓶】――、

 元序列第2位、戦友を仇を追う男――、

 ――ニコラス・フライフォーゲル。


 最後に、カーディナルの【双魚】――、

 人外の左手を持つ者――、

 ――カレン・ブライトクロイツ。



 12人がまとうのは圧倒的にして、それぞれ独特すぎる、いわゆる空気とか雰囲気と呼ばれるモノ。


 エドワードは爽やかな微笑みを浮かべているのに、その2つ右隣には、円卓に脚を乗っけていてガラが非常に悪く、注意したらその者を殺しかねないロバートがいる。


 アリシアは幼女の姿であどけない笑顔をしているのに、その2つ右隣では、まるで機械のような無表情で、会議に対して面白いともつまらないとも思っていない、普通なら気まずい空気が広まってしまうはずのシャーリーがいた。


 エルヴィスの隣には会議が始まろうとする今に至ってもぶりっ子全開のセシリアが座っているし、ヘラヘラ軽薄な態度を取っているカーティスの隣には、この12人の中で一番バカ真面目なベティがいた。


 波長なんてあわない方が日常だった。

 特務十二星座部隊の面々、彼らには各々異なっている個我があり、なにかが1つでも喰い違ったら、流石に殺し合いには発展しないだろうが、仲違いぐらいは起きそうなグループ形成をしている。


 だが、しかし――、

 ――現在の特務十二星座部隊が始まってから今まで、そのようなことは一度もない。


 最強たる自分たちが仲違いしたら、多方に迷惑が及ぶから?

 否。


 単純に労力の割に得られるモノが少ないから? 端的に言って面倒くさいから?

 否。


 自分が負ける可能性があるから?

 それも否。


 他の11人に興味も関心もないから?

 それも否。


 答えなど最初からわかりきっている。ここは王国で、自分たち特務十二星座部隊はその国で軍事力を持つ唯一の組織の一員なのだ。

 国のために生まれ、国のために尽くし、国のために死ぬ運命さだめを、自分で自分に課したのがここにいる12人だ。


 ならば必定――、


「それでは、国王陛下のため、今宵の会議を始めたいと思います」

「「「「「「「「「「「異議なし」」」」」」」」」」」


 エドワードが言うと、それに対して残りの11人はと唱える。

 勝利も、凱旋も、おのが身体も心臓も、剣の一振りから魔術の一撃に至るまで、万象は国王陛下に捧げる供物にすぎない、と。


 ここにいる12人がまとまっている理由は、ひとえに国王陛下への忠誠の一言で説明が付く。


 盲目的ではない。狂信でもなければ陶酔でもない。

 この人のためなら戦える。この人のためなら命さえ惜しくない。そういう支配者を自分で選び、国王陛下の演説の内容を自分の言葉で言い直せるほど咀嚼して、感化されたことを逐一、自己分析して、それでもなお、この身を国王陛下のため、戦争に十全に使うことを決めた。


 それこそが、ここにいる12人がまとまっている理由である。

 個我は違えど、想いは1つ、と。


「では、まずはセシリアさんから」

「おっけ~♪ ではでは、みなさん、お手元の資料に目を通してほしいなぁ」


 エドワードが促し、セシリアが指示する。

 結果、他の10人は静かに言われたとおり資料に目を通した。


 表題と制作した日付、そして制作者、セシリア・ライヒハートの名前が書いてあった表紙。

 それを1つめくった資料の2枚目には、入団時に撮影したイヴの写真と、彼女の魔術適性、加えて第3部起1章11話、セシリアが直々に魔術を使い精密検査したソウルコードの改竄かいざん結果について書かれてあった。


「まぁ~、すごい! 天才! 神様に愛されている! の一言だよね。あっ、一言じゃなくて三言か、あはっ♡ とにかく、前々から言われていたとおり、イヴちゃんのことを検査したんだけどね? ハッキリ言って、将来は間違いなくセッシーを超えるかな」

「光属性の魔術適性数値が10、ねぇ……。いや、でも――」


 カーティスが資料の2枚目の下の方に視線をやる。

 他のみんなも大半がそこに目を移していたのだが、そこには、イヴのソウルコードについての詳細が書かれていた。


 ここにいる全員が気付いている。

 光属性の適性が10であることよりも、こちらの方が、より、ヤバイ、と。


「1つ目の表が現在進行形のイヴちゃんのソウルコード、魂の遺伝情報だね。で、2つ目の表が、かなり複雑で繊細な改竄だったけど、なんとかセッシーが頑張って、改竄される前のソウルコードはこんな感じだったのかなぁ~、って、計算、予想した表になります♪ うんうん、セッシー、ちょ~頑張った、えへへ」


 彼女の説明どおり、確かに資料には、1つではなく2つの表がある。

 そして2つ目、改竄される前の表に関して言えば、ハッキリ言って、本当に普通だった。良くもなく、悪くもなく、イヴにはなにか秘密がある! と、そうかまえていた人たちにとっては、かなり肩透かしを喰らう結果になったソウルコードである。


 喩えるなら、王都の住民を100人連れてきてソウルコードを検査したら、95人以上、イヴのようなソウルコードをしているよね、というぐらい、平均的なソウルコード。一般的な魂のゲノム。特徴らしい特徴など、皆無と言って差し支えない。

 科学と魔術を安易に比較することは好ましくないが、確率を考えれば遺伝的なショートスリーパーなどの方が、まだ珍しかった。


 しかし、特務十二星座部隊の中で、飛び抜けて、イヴのソウルコードの検査結果に戦慄している女性がいた。


「…………ッッ、困惑――これはいったい……」

「? どうかしたか、シャーリー?」

「……、制止――少し待ってほしい」


 厳かに、加えて慎重にエルヴィスがシャーリーに問いかける。

 しかし彼女は少し時間がほしいと言わんばかりの様子で、資料を睨み付けるばかり。


 だが、それには理由があったのだ。

 即ち――、


(疑問&驚愕――私めはこのソウルコードをどこかで見た気がする! なのに、なかなかそれが思い出せない! 絶対に思い出せないというわけではない! けれど微妙に出てきそうで出てこない! もどかしい! 口に出せたらかなりスッキリするはずなのに、喉元まで出かかっているのに出てこないから、すごくかゆいところに手が届かない感じがする! モヤモヤ感が残る! 引っかかりがある!)


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