3章2話 21時00分 特務十二星座部隊、会議する。(2)



 しかし、すぐにシャーリーは頭を横に振った。

 他の11人の反応を察するに、このソウルコードをどこかで見たことあるのは自分だけだったからだ。


 わずかとはいえ特務十二星座部隊にもスパイがいる可能性が残っているのならば、ここで長考して違和感を覚えられてはマズイ、と。

 もしくは、逆に自分の方こそアリシアとエルヴィスにスパイとして疑われる可能性もある、と。


「失敬――私めの勘違いだった。会議を続けてもらってもけっこうです」

「りょうかいっ! それでね? セッシーは考えたわけなの、これからイヴちゃんをどうしようかなぁ、って」


「で、処女ババァはどういう結論を出したんだ?」

「うぇ~~んっ! ロバートくん、ひっど~~い!」


 あまりよくはないが、セシリアは特務十二星座部隊の疑似ムードメーカーだった。

 彼女がいなくても紳士であることを努めているエドワード、そして好々爺こうこうやであるニコラスがいるが、彼らはここまでギャグ要員ではない。というより、特務十二星座部隊のギャグ要員、イジられ役はセシリアただ1人だ。


 ゆえに、本人にとってはかなり不服かもしれなくても、彼女がいるおかげで円卓会議はだいぶやわらかい雰囲気を保つことが可能だった。

 無論、この人たちにしては比較的やわらかい、というだけで、以前のロイのように、特務十二星座部隊以外の人がこの空間に混じったら、戦慄と緊張で吐き気すら催すかもしれないが……。


 そのようにロバートがセシリアをバカにしている間、エルヴィスは違うことを考えていた。


(どうする? この分だとロイだけでなく、イヴまでもが魔王軍との戦争におけるキーパーソンな気がしてならない。念には念を入れて2人を常時、監視下に置くか? 不確定要素が強い現状で、2人を放任するのはリスクが高い。しかし、オレとアリシアを除き、他の10人は転生と異世界のことを知らないはずだ。加えて、念には念を入れると言っても、いつまで念を入れ続ければいいのかも定かではない。監視下に置くにはいささか条件がハードだ……)


 ならば必定、他の隊員には黙っておき、自分1人でロイとイヴを監視――否――監視という単語を使うとだいぶ厳かさ、堅苦しさと覚えてしまうが、とにかく見守ろうとエルヴィスは考える。

 しかし、特務十二星座部隊の自分が王族と、その妹とはいえ、特定の新兵の近くにい続けるのは不自然極まりない。逆に、あの2人はエルヴィスに気を遣われているからなにかあるんだ、という逆効果さえ想定できた。


 無論、王族に気を遣うこと自体は微塵もおかしなことではない。

 大切なのはこのタイミングでロイとイヴに護衛を付けるとしても、なぜ自分である必要があるのか、という合理性だ。


 ここで重要視すべきは確実性と並ぶぐらいの穏便さ。波風を立てないこと。

 残念ながら、エルヴィスの存在は穏便さ、言い換えるなら隠密さと対極にあった。彼が動けばイヤでも目立つ。


 なにかしらの魔術を使えればよかったのだが……あいにくエルヴィスは騎士のカテゴリーに所属している。


 だが逆を言えば、魔術師のカテゴリーに属している特務十二星座部隊の誰かなら、この問題を余裕でクリアできる。

 畢竟、エルヴィスと同じぐらいロイたちの事情に詳しくて、圧倒的に魔術に長けているのは――、


(だとしたら、オーバーメイジであるアリシアにそれは任せるとして、オレがこの状況ですべきことと言えば――是非もない。少なくとも今に限っていえば、セシリアがイヴに対してどのような答えを出したかは知らないが、この会議を『ロイとイヴについてはもうこの際、別途の対応を取るような位置付けにする』という結論に持っていく)


 どのような組織であれ、特定の一員に対する贔屓ひいきは他の一員からの不平不満を引き起こす。

 ゆえに、今まで2人に対して会議を開いたことはあったものの、特別な措置(当てはまる団員は珍しいが、規則を無視しているわけではない対応というわけではなく、ここでいう特別な措置とは、そもそも規則を無視してもOKなレベルの対応)を取る、ということはなかった。ルールとは、例外的に適応される者がいてはならないからルール足り得るのである。


 しかし、幸いにもロイは王族で、しかもすでに一度【聖約ハイリッヒ・テスタメント生命ヴィダー・ダス・再望】リーン・ツァールロストを施されている。二度目はない。

 だからこそ、特務十二星座部隊でもロイのことを慎重に扱うことにした。そういうことにして、特例を作ることはギリギリ可能かもしれなかった。


 イヴに関してはロイの妹というだけで厳密には王族ではないから、少々難しいところだが、そこは自分の腕の見せどころである。

 規則を無視してもOKな2人を作るのではない。あくまでもたまたま2人にしか当てはまらない、なかなか珍しい規則ができあがってしまった、というスタンスなら、あるいは……。


(それに、なにも2人を隔離する、戦争に巻き込まれないところで一生を終わらせてもらう。オレはそういうことを考えているわけではない。むしろ、2人がキーパーソンである以上、どこか重大な局面で、必ず戦争の最前線に立って、魔王軍を相手に活躍してくれるに違いない。ゆえに、過保護になるのではなく、戦わせもするし、傷付かせもするが、安全性の確保については全ての団員より高めに設定しておく。まとめると、戦え! しかし絶対に死ぬな! と、いったところか)


 少なくともエルヴィスが考える限り、それが一番現実的な結論だった。

 ロイの王族としての役割は象徴的な英雄として戦場を駆け、王国の士気を維持、そして高めることだ。実質的な王族の仕事は純血であるアルバートやヴィクトリアがして然るべきなのだから。


 だが、だとしても一応は王族だから、安全については多少考慮されています――という体制を整える。


 ここまで考えて、エルヴィスは静かに頷いた。

 相手の立場になって考える。少なくともオレが特務十二星座部隊の一員ではなく、一般兵だった場合でも、これぐらいなら、まぁ、許容できる、と。


 そしてエルヴィスが今回の会議について、自分なりのゴールを設定した一方、彼と同じように、アリシアもまた、考え事をしていた。


(エルヴィスさんは筋骨隆々な見た目で誤解されがちですが、頭が悪いというわけではありません。ならば、ロイさんとイヴさんも見守るのは、騎士である自分より、魔術師である私に任せた方がいい、という結論に至ったはず。私も、別にそれに不服はありませんし、事実、それが一番効率的だと思います)


 次に、アリシアはエルヴィスとは別のことを考える。


(エルヴィスさんなら立派な大人、1人の人格者として、ロイさんとイヴさん、2人のこれからの対応について考えるでしょう。しかし、私は違う。それはエルヴィスさんに任せるとして、私は魔術師として、ソウルコードが改竄された原因の方に切り込んでいく)


 ソウルコードの改竄が意図的なモノなのか否か。

 これについては最初から答えが出ているようなものだ。意図的に決まっている。


 当然だ。

 あくまでも喩え話ではあるが、二重まぶたになるための整形をします。これは意図的なモノですか? あるいはとある女性が豊胸手術をします。これは意図的なモノですか? など、これらの質問に、意図的ではないと、そう答える人はまずいないだろう。それと同じである。


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