3章3話 21時00分 特務十二星座部隊、会議する。(3)



 そもそも論というモノだ。

 意図がなければ手を加えるということはできない。なぜならば、手を加えるには誰かしらの意図が必要だから。と、それほどまでに単純な話である。


(つまり問題は意図的であるか否かではなく、意図的なのはすでに理解しているから、いったい誰がイヴさんのソウルコードを改竄したのか、ということ。二重まぶたの整形にしても、豊胸手術にしても、人のなにかの形を変えるということはえして、変化する人に加えて、変化を与える人がいてはじめて成立する話ですから)


 ふと、アリシアはイザベルを一瞥した。

 彼女は確か、自力で神様とコンタクトが取れる天才だったはずだ。そして、自分が見極めた結果、彼女が魔王軍のスパイである可能性は著しく低い。


(まず、この会議が終わり次第、タイミングを見計らってイザベルさんに、私のことも神様のもとに連れていってくれませんか、と、頼んでみましょう。そこで神様に直接、イヴさんのことを質問させていただきます。一般的にソウルコードに干渉といえば、真っ先に神様を疑いますもの。まして、ロイさんとイヴさんのご両親は正直、至って普通の生まれをしていたはず。いいか悪いかは置いておきまして、ただの事実として、娘のソウルコードを改竄する技術もなければ、技術を持っている魔術師とのコネクションも持っていないはずです)


 そして、考えることは他にもある。


(誰が改竄したのかの他に、重要なのはもう1つ。なにが目的で改竄したのか。セシリアさんが用意した資料の3ページ以降に報告がありましたが……どうやら、イヴさんの光属性魔術の適性がカンストなのは、やはりソウルコードの改竄が原因とのこと。魔王軍が1人とはいえ敵をここまで強くするとは考えづらいから、改竄は王国側の魔術師か神様が施したことになる)


 ハッキリ言って本来、アリシアは他人のソウルコードの改竄なんかに興味はなかった。

 違法か否かといえば間違いなく違法ではあるものの、流石に特務十二星座部隊が出張るほどの犯罪ではない。そもそも自分たちは外に対しての戦闘集団であって、内に対しての警邏兵ではないのだから。


 恐らく、本来ならアリシア以外の全員さえ無反応だったはず。

 それなのに、なぜここにいる全員でイヴのことを会議するようにまでなったのか。


 改めて思い返してみれば単純なこと。

 イヴの光属性の魔術適性がセシリアとイザベルとカレンさえも上回っている――否――そんな生易しい言葉ではなく、超越、凌駕しているから、ここまで全員で干渉しようとしているのだ。


 つまり――、


(ここにいる全員が気付いているはず。イヴさんのソウルコードの改竄を研究し、体系化、そして一般化すれば、かなりたやすく特務十二星座部隊レベルの魔術師を、言い方は悪いですが量産することができますからね。無論、量産できずとも、イヴさん1人の段階で、王国にとっては有益極まりないのですが)


 それこそが先刻、みな一様に『光属性の適性が10であることよりも、こちらの方が、より、ヤバイ』と、そう考えた理由である。

 付け加えるなら、仮にその研究、体系化が失敗に終わることになったとしても、七星団はイヴを放っておけない。あの領域レベルの実力者を野放しにしておくなど、王国にとって一種のリスクだ。


 当然、イヴは優しい女の子だ。

 七星団に所属した以上、敵国の軍人を殺すことがこの先に増えていくにしても、少なくとも、チカラの使い方は間違えないはず。私利私欲のために行使しないはず。より的確に言うならば、自分の才能、光属性の魔術を使った犯罪を起こさないはずである。


 しかし、現実はそう上手くいかない。

 社会というモノが、今の時代の国民でなしうる限界の、という文言が追加されたとしても――とにかく効率化、合理性を突き詰めていくモノである以上、イヴは優しい女の子だから、チカラを持っていても首輪を付けておく必要はありません! と、誰かが言ったところで、信じる人、納得する人が多少はいるかもしれないが、結局はなにか、どこかの管理下に置かれてしまう。七星団の他には、教会だったり、あるいは自警団だったり。


 そんなこと、人間としての感情や権利を大切にしているロイだって理解しているだろう。

 たとえ束縛を受けても、巨大なチカラは管理されるべき、と。それは感情ではなく理屈、リスクマネジメントの結果なのだから。


(さてさて、こうなった以上、私の役目はイザベルさんに神様との謁見をお願いしないと始まりません。他に考えるべきことといえば……)


 と、その時だった。

 ここにいた12人全員が、みな一様に『気配』を察知した。


 流石は王国最強の戦闘集団。

 流石は一騎当千、万夫不当の英雄たち。


 誰一人として『その殺気』に気付いていない愚者はいない。


「エドワード」

「わかっているよ、フィル」


 今まで座っていたエドワードが静かに、しかし圧倒的なオーラを身にまとって立ち上がる。

 アリシアは厄介事に静かに目を伏せて、ロバートは獣のように犬歯を剥き出しにして笑い、シャーリーは無表情で円卓の上に出していた荷物を淡々としまった。


 エルヴィスは溜息を吐き、セシリアは珍しく真面目な表情かおをして、カーティスは王都が危険に晒されているにもかかわらず、度が過ぎているほどヘラヘラしていた。


 召喚陣が記されている手袋をキュッ――と、ベティはハメなおす。

 すでに臨戦態勢に入ったのだろう。フィルは【介入の余地がない全、パーフェクション・つまり一、フォン・ゆえに完成品パーフェクション】を発動して、物理攻撃無効化状態に突入する。


 イザベルはポケットから念話のアーティファクトを取り出して、今にも各部署に連絡する準備を整え終えているし、ニコラスは七星団の制服の内側に手を突っ込み、ホルスターに備えていた拳銃を確かめ、カレンは一度瞑目して深呼吸する。


 この間、実に3秒にも満たない。


 そして――、

 序列第1位のエドワードが――、


「敵襲、この異質な魔力は恐らく死神のモノでしょう。各自、存分に国王陛下のために励んでください。残念ながら会議は次回に持ち越しとして、それぞれ持ち場に戻り、それ以降、特務十二星座部隊に、戦場における独断専行の権限を与えます。ご武運を」


 こうして、時は死神が現れたタイミングまで戻ってくることになる。

 そのほんの数分後、王都が炎上することになるのは言うまでもない。


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