ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章4話 21時18分 アリシア、行動を開始する。(1)
3章4話 21時18分 アリシア、行動を開始する。(1)
カツカツ――と、硬質な床を叩き、小気味いい前に進む
もちろん早足で、かつ、会話の内容を誰にも聞かれないように。
廊下には2人の他にも
この非常事態である。高度に繊細で複雑な対応に追われているのだろう。
そんな直属ではないかもしれないが、部下を一瞥するアリシアとエルヴィス。
2人ともすでに、いつでも戦闘に混じれる心構えをしていたのは言うまでもない。
「アリシア、目的は?」
「戦争における最重要人物、ロイさんとイヴさんの安全確保」
端的に訊き、端的に答える2人。両者、張り詰めた糸のような雰囲気を漂わせている。
まるで薄氷を踏むようなやり取りだった。
「どっちに行く?」
「私はイヴさんの方に行くつもりです。エルヴィスさんはロイさんの方ですよね?」
麗しい長髪を揺らしながら、流し目でアリシアはエルヴィスに問う。
それを彼は鼻で笑って肯定した。
「愚問だな。ロイは今、恐らく
「――いくら私でも星下王礼宮城に空間を越えて跳躍することはできません」
「だよなぁ」
「えぇ、残念ながら」
前述のとおり、星下王礼宮城と七星団の司令本部の敷地は一緒というわけではないが隣接していた。
キングダムセイバーのエルヴィスが肉体強化の魔術をほんの
そして、次に発言するのはエルヴィスの方であった。
「で、だ。察していると思うが、今自分で言ったとおり、イヴの方はお前に任せる」
「必然ですね。セシリアさんは異世界のことを知りません。むしろ、イヴさんは自分さえ超える天才だから、戦力として死神にぶつけて、経験を積ませる展開さえ予想できます。ですからその前の段階で、私がイヴさんをこの司令本部に連れ戻します」
それは本来、仕方がないことであった。というより、それが普通であり、一般的な考えなのである。
むしろ七星団上層部の人間、ではなく、フェアリーだが、とにかくセシリアほど階級が高い団員が、戦力の運用をミスする方がありえない。考えられないという意味でも、ミスすればさらに惨事が悪化するという意味でも。
ゆえに、アリシアはそこになにも言わない。どうしようもないことだから。
だから、そこを変化させずにイヴを戦場から撤退させようとしているのである。
「方法は?」
「念話のアーティファクトに向こうが応答してくれるなら、素直にそれで撤退するように指示。任務で表を歩いていて、かつ、トラブルに巻き込まれていて、アーティファクトに応答できない場合、それこそ私が瞬間移動を駆使して直接用件を伝えます。いえ、用件を伝える前に強引に連れ戻すのもありでしょう」
適材適所だった。
ロイの方は居場所がわかっているから、そしてその場所がここから近いから、魔術よりも体術に長けているエルヴィスの方が。
一方で、イヴはどこにいるかもわからないし、その距離も当然わからないから、エルヴィスよりも機動力、味方にも使える索敵魔術が上のアリシアの方が。
逆に、ロイの方にアリシアを向かわせるのは彼女の魔術を中途半端にしか活かせないことになるし、イヴの方にエルヴィスを向かわせたら、アリシアが向かうよりも長い時間がかかってしまう。
そのことを死神の気配を察した段階ですでに理解していたから、このような結論に互いに至り、特に異論もないのである。
「物々しくなってきたな、この戦争」
と、エルヴィスが大雑把にだが意見を口にする。
アリシアはそれに対してすぐに返事した。花の蕾のように薄桃色の可憐な唇が開く。
「魔王軍の最上層部、あるいは魔王本人さえ、そろそろ出張ってくる可能性も、一概には否定できませんね」
あくまでそれはアリシアの直感だった。直感とは即ち根拠がない感想、意見。
しかし、具体的な根拠がないというだけで、それが歴戦の魔術師、アリシア・エルフ・ル・ドーラ・ヴァレンシュタインの意見であることには変わりない。
自分でも言葉にできないだけであり、雰囲気とか、流れとか、そういう非言語的なモノも勘定に含めた結果、アリシアは自分の直感もあながち間違いではないはず、だ、と。自分でも無自覚、無意識な部分で非言語的なモノを計算できている、と。
あまりに論理的ではないが、そう結論付けた。
だってそうだろう、と、アリシアは口元を強く結ぶ。
戦争の激化なんて、理解するモノである以上に、察するモノであるのだから、と。
で、その時だった。ちょうど2人は別れ道に差し掛かる。右に行けば七星団の司令本部の出口で、左に行けば出口とは反対方向だが、直線距離では星下王礼宮城に近付けた。
自明だった。アリシアは右に進み、エルヴィスは左に行く。そこに別れの言葉はない。
そしてエルヴィスと別れると、すぐにアリシアは魔術を使いセシリアの側近の執務室、そのドアの前に跳躍する。
景色、一変。
七星団の司令本部の廊下であることには変わりなかったが、一瞬前とは違い、左手の方にドアが並ぶ場所にアリシアは移動していた。
そしてドアノブに手をかける前に、彼女は最後の思考をする。
(残念ながら私はイヴさんのアーティファクトと念話できません。なら当然の帰結として、イヴさんと念話できるセシリアさん、あるいはその側近にコンタクトを取らないといけないということになります。でも、セシリアさんに頼むのは二重の意味で難しい。1つ、単純に多忙であるから。もう1つ、私と同じく特務十二星座部隊ということは、私が立場を利用して行動を強制することが難しいから)
その点、セシリアの側近なら彼女よりも階級が下で、イヤな言い方になってしまうが、自分の権力に物を言わせて従わせることも不可能ではない。
否――むしろ比較的簡単だ。軍事力を持つ組織に所属しているのに、直属ではないとはいえ、上官の指示に抗う団員など、いるわけがない。
そしてアリシアはドアを開ける。
が――、
「…………ッッ、血の臭い!? まさか!!!」
鼻腔の奥を刺すような生臭い鉄の臭いをアリシアは感じ取る。あまりいい匂いではない。むしろ当然不快な臭いで、慣れているとはいえ気持ち悪くもなってくる。普通に呼吸していて鼻から入ってしまい、肺にいっぱいに含んでしまったそれを、気体だとしても嘔吐したいほどだった。
戦慄するアリシア。慌てて彼女はセシリアの側近の執務室の中央まで進んだ。
そして光属性の魔術で光源を確保して――、
明るくなった周囲の様子を確認すると――、
床に鮮やかな紅を広めて――、
ソファーの裏に――、
「殺されている……っ、先を越されましたか!」
アリシアはその上品な外見からは想像しづらい歯軋りをする。
その男性は首を刎ねられていた。よほど鋭利な刃物を使ったのだろう。頭部の方も、身体の方も、それはもうシルクのように断面が滑らかで、真っ平になっている。
この男性には申し訳ないが、今は同胞の死を
アリシアは死体を動かすのはNGということを理解していたので、魔術を使い、その男性の制服のどこかにあるはずの念話のアーティファクトを捜索する。
だが、結果はアリシアの予想通りで、なおかつ期待を裏切るモノだった。
「…………やはり、念話のアーティファクトが回収されている。こちらの次の一手を読まれていたようですね……ッッ!」
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