ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章17話 15日0時 第1特務執行隠密分隊、初戦闘を始める!(5)
1章17話 15日0時 第1特務執行隠密分隊、初戦闘を始める!(5)
上下も前後も左右も問わず、一瞬ごとに飛び交うのは一撃で普通なら簡単に人を殺せるクリストフの闇魔術。
それは縦横無尽に乱舞して、彼の周辺に死滅の限りを降り注がせる。まるで巨人の進軍のような轟音が空気中にズシン……ッッ、と、響いて、まさに悪魔の哄笑のように純黒の光が明滅した。
【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】も、
――ただ1人、イヴ・モルゲンロートというソウルコードの改竄者を
それを迎え撃つのはマリアの指示に従いイヴが放つ極光の魔術に他ならない。
【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】は【光り瞬く白き円盾】の
【必要悪の黒壁】に対してはその攻撃を吸収できる
イヴはまだお酒も飲めない年齢だ。
だというのに、この技量、この実力。神に愛された子どもというのは、まさにイヴのためにあるような言葉だろう。
魔王軍のスパイはもちろん、改めて間近で見て、シーリーンとアリスでさえ言葉を失う。
これは、この才能は、もしかしたらロイを超えている可能性さえある、と。
「ハッ、諸君の目的はわかっている! おれを殺すのは難しい上に、ほんの数回だけ殺してもおれは死なない。ゆえに、この戦闘の最終目標は【光り瞬く白き円盾】という空間に直接固定できる一種の頑丈な板を、おれの身体を巻き込むように展開して動きを止めることだろう! なら、【光り瞬く白き円盾】の予兆を感じ取ったら、シンプルに回避行動を取ればいいだけの話!」
肉体強化と重力操作の魔術を駆使して、跳躍してもかなり長い時間、クリストフは滞空する。
一方、イヴとマリアは肉体強化の魔術をメインに据えてして、どうしても追い付けない時には、イヴがマリアごと【光化瞬動】を発動した。
「お姉ちゃん! あいつにわたしたちの作戦が……ッッ!」
「大丈夫ですからね? 落ち着いてお姉ちゃんの指示に従ってくださいね?」
「う、うん、だよ!」
「イヴちゃん! 次はあそこに【絶光七色】を撃ってくださいね!」
マリアはイヴに指示を飛ばす。
しかし、クリストフはそれを心底つまらないモノを見るような目で内心、唾棄した。マリアの指示は常に的外れだからである。これならば、イヴと1対1で戦った方が、より、イヴも善戦できただろうに、と、溜息を吐かざるを得ない。
狙いは赤点で、なにか考え事をしているのだろうか、指示のスピードも遅い。
自分はイヴの動きに付いていくのがやっとで、挙句、【光化瞬動】の時に関して言えば、マリアはその魔術を使えないから、イヴにおまけで発動してもらっている。
つまり、興醒め。
「イヴの姉のマリアといったか! 敵ながら助言をしてやろう! 君は戦闘に参加しない方がいい! 明らかにイヴの足手まといになっている! 明らかに全分野おいて、イヴに追い付けていない! 今おれたちが行っているのは殺し合いだ! 惨めかもしれないが、姉という立場を捨て、全て妹に任せた方が上手くいくぞ?」
「お節介ですねぇ……ッッ! これからわたしの戦術にハマるというのに!」
「ほざけ! 見ろ! イヴが光属性魔術で保全したおかげで、周囲の建物には一切の被害がない! すでに察しているが、おれが【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】で倒壊させた宿の客も主人も、全員無事なのだろう!?」
「当たり前だよ! 人死になんて、わたしは許すはずないもん!」
建物の屋根から建物の屋根へ。
繰り返した数を忘れるほど跳躍しながら殺し合うイヴ、マリア、クリストフ。
イヴが【絶光七色】の
迎えるのはクリストフの【必要悪の黒壁】で、それはすぐにキャパシティオーバーして崩壊してしまうも、その前に彼はすでに別の場所に移動を完了していた。
すると、クリストフは再度、【闇の法王が下す罪の罰】の
瞬間、イヴも再度、【絶光七色】を撃ち、それを悉く迎え撃った。
「ほら、見たまえ! イヴはこれほどまでに王国の平和に貢献している! 尽力している! だというのに、姉の君はなんだというのか! 誰か1人にでも魔術防壁を展開したか? 最初の狙撃以降、おれの魂のストックを1つでも減らしたか? 否ッ! 君は足手まといでしかないのだよ、思い知りたまえ!」
「…………っ」
マリアは憤りを覚え、かすかに奥歯を軋ませた。
今日が初対面の彼に、しかも敵である魔王軍のスパイに、いったい自分のなにがわかるのだろうか、と。
自分には弟と妹がいる。
それはマリアに親しい人ならば、誰でも知っていることだろう。
弟は有名人だ。生まれた瞬間にゴスペルを授かり、あとで転生のおかげと知ることになったが、子どもの頃から大人顔負けの知識を披露していて、勉強も天才的の一言。挙句、聖剣エクスカリバーにも選ばれて、つい先日には王族の仲間入りを果たした。
ロイという弟がいた結果、彼があまりにもすごすぎて、弟以外の男性を物足りなくなってしまい、心の底では弟と結ばれることを夢見てしまうほどである。
そして、妹は弟以上の天才だ。ゴスペルは特になく、聖剣使いということもなく、もちろん王族ではないが、特務十二星座部の枢機卿が認めるほど、魔術に関して圧倒的。
ゆえに必然、弟にしろ妹にしろ、自分が2人のうちのどちらかに模擬戦を挑んでも、勝てる可能性は皆無と言って差し支えない。
だが、バカにするのも大概にしろ、と、マリアはクリストフを睨む。
弟は剣の道を進み、妹は魔術の道を進もうとしている。
ならば自分は研究者の道を往く……ッッ、と、マリアが心の中で叫びながら、イヴに再度、指を差して【絶光七色】を撃つ方向、クリストフの心臓を示した。
そして――、
「弟くんやイヴちゃんよりも早く生まれたわたしが、学院で、なにも勉強していないと思っているんですか?」
「なんだと?」
「イヴちゃん!」
「了解、【絶光七色】!」
イヴが撃つ極光。それによって瞬くような純白と閃くような黄金色の光が明滅した。まるで天地開闢を彷彿させるような圧倒的な輝きが辺り一帯に奔流する。
光を目に入れたら、涙が出そうなほど感動的で、逆に闇の住人ならば、懺悔の念で自殺を考えるほど絶望的な魔術。
撃てば光速で突き進み、当たれば身体に穴が空くのが必定だ。
しかし、それを――、
「残念、会話で気を逸らしたつもりか?」
クリストフは跳躍し余裕綽々で躱してしまった。
イヴの撃った極光は斜め上に向けて撃ったことで、遥か夜空に消えていき、残ったのは流石にそろそろ疲れてきたイヴと、今のところ指示以外なにもできていないマリアと、翻り、まだ魂のストックを残しているクリストフの3人。
が、マリアの方こそ、さらに余裕綽々な声音で――、
「チェックメイト」
「?」
マリアの発言をクリストフは訝しむ。当然だ。攻撃を躱されてチェックメイトなど、ユニークな冗談にも程度があった。
妹のイヴでさえ、姉の発言の意図を図りかねている。
しかし次の刹那――、
突如、なにもない空間が光り――、
「は!? は!? ハァ!? な、なんだこれはアアアアアアアアアア!? 【光り瞬く白き円盾】だと!? バカな!? 魔術の予兆、【光り瞬く白き円盾】の術式は感じなかったはずなのに!?」
空中で、クリストフの四肢はイヴの【光り瞬く白き円盾】の
が、魔術を使っている本人であるはずのイヴは、適当な建物の屋根に着地すると、キョトンと小首を傾げるばかり。
そんな2人に、いざ、マリアのわかりやすい魔術の講義が始まろうとする。
「いかなる時代、いかなる場所、いかなる属性でも、音や脳波を利用して大気中の魔力に波を立てて術式を組まないと、魔術は絶対に発動しませんよね? あなたの言う魔術の予兆というのは、魔力の波を立てるための空気の振動を肌で感知すること。けっこう難しい技術ではありますが、熟知している初心者向けの魔術なら、わたしでも同じことができますね。しかし――」
「な、なんだ……?」
と、生唾を呑むクリストフ。
「子どもの頃に習いませんでしたか? 『3つの媒体』と『3つの波動』を」
少し遠くでマリアの話を聞いていたアリス。彼女は味方だというのにマリアのしたことを察して、思わず身震いする。確かにアリスはロイと正式に恋人になった日……ではなく、例の騒動で偽物の恋人を演じることになった日の
即ち、『3つの媒体』とは空気と電磁場と魔力場で、『3つの波動』とは音と
「音ではなく光を利用して、空間に存在する魔力を揺らす。人間は音を出せますけど、光なんて出せませんからね。おかげで詠唱という方法よりだいぶマイナーですが、こうやって、魔術を発動することもできるんですからね?」
「まさか……ッッ! 考え事をしながら、イヴに【絶光七色】を撃たせていたのは!?」
「光を使って魔術を発動させるなんて、イヴちゃんにピッタリだと思ったんですよね。さて、とにかくこれで、お仲間の方は戦意喪失して、あなたの方は拘束完了です」
彼我の実力差をクリストフは痛感した。
いや、確かに間違いなく、イヴはもちろん、クリストフにだってマリアは勝利できないだろう。
だが、世界には適材適所という言葉があるのだ。
ゆえに、(彼女は別に、イヴの足手まといではなかったか)と、クリストフはむしろ、マリアがイヴに的確な指示を出していた、と、それを認め、言葉には出さなかったが、評価を改め称賛した。
こうして、第1特務執行隠密分隊の初戦闘は幕を下ろす。
無論――、
帰ったあとに――、
4人は呼び出されて――、
例の会議室でセシリアに――、
「にぱぁ、セッシーが言いたいこと、理解しているよね?」
「「「「…………はい」」」」
「イヴちゃんが特別に狙われていた、っていうのは理解したけどぉ……こんなの、全然、隠密じゃないなぁ♪」
「「「「…………はい」」」」
「当然と言えば当然だけどテストもどきも終了したし、これからビシバシ訓練することになるから覚悟してね♪」
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