ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章1話 19日11時 リタ、正義のヒーローごっこをする。(1)
2章1話 19日11時 リタ、正義のヒーローごっこをする。(1)
当然の帰結というモノが存在する。
なぜシーリーンは索敵魔術を発動していたのに、クリストフとの戦闘中に、彼に援軍を許したのか? 1人とはいえ援軍の存在を察知できなかったのか?
答えなんて自明だ。
マリアがシーリーンと自分に魔力反応を薄める魔術を施していたように、前回の戦いでクリストフの援軍として現れた魔王軍のスパイである彼もまた、自身の魔力反応を薄める魔術を使っていただけという話である。
加えて、魔王軍のスパイ同士はグーテランドの領土に潜伏する際、隠密行動か大規模行動かで、キチンと適切な距離、間隔というモノを保つように、マニュアルを叩き込まれている。
隠密行動の場合なら、大所帯になると存在が露呈しやすいから、いくつかある例外ケース(代表的な例としてイヴに関連することなど)を除き、少なくとも互いに3km以上離れるように、と。
たとえばテロリズム行為などの大規模行動の場合、大群は一般市民の恐怖の対象になるから、一ヶ所に集中して、と。
要するに前回の戦闘において、あの男は最初、シーリーンの索敵魔術の外にいた、ということである。
結果、シーリーンの索敵にはヒットしなかったが、クリストフの相手があのソウルコードの
ちなみに、なぜクリストフの相手がイヴだと、その男が知れたのか?
理由は単純明快で、予め合図を決めていたからだ。具体的には、空から降り注ぐ
そして――、
1年が始まって4番目の月――、
ダイヤモンドの月の19日土曜日――、
この日から2日間を、後々の歴史はブラッディダイヤモンドと呼ぶことになる。
その初日の昼間――、
王都の入り組んだ路地裏にて――、
「クソ……っ! どうなっている!? なぜ他のヤツらと連絡が取れない!?」
ここにもまた、魔王軍のスパイが存在していた。
もちろん、黒いローブを目深に被っているとか、魔王軍の制服を着ているとか、いかにも悪目立ちしそうということはない。グーテランド、特に王都の住民が好んで着るような服を着ていて、表面上、外見は完璧に、疑うことすらない一般市民のようなスパイだった。
性別は声と胸の膨らみを鑑みると100%女性。身長は高くて胸も大きくて、おしりも女性らしく丸みを帯びている美人だった。年は恐らく20代後半だろう。
が――彼女の声には今、焦燥が滲んでいる。
おかしい、おかしい、おかしい……っ!
内心でそう繰り返しながら、その女性は苛立ち交じりに地団駄を数回踏んだ。
七星団の目的がスパイの殲滅ではなく、スパイをあえて泳がせ、魔王軍の参謀指令室などと連絡した際に盗聴などをして、情報を収集すること。
ということはこちらも理解している。
ならばこちらが取る一手はわざと間違えた情報を参謀指令室に報告し、盗聴しているであろう七星団の団員にもその情報を信じさせて、あとで改めて参謀指令室に正しい情報を送る、というモノ……だったはずだ。
否、そもそも、開口一番の「こちら○○、××に所属しております」「こちらは○○です、所属は××であります」「××所属の○○であります」という挨拶の時点で、敬語の使い方や、名前や所属の言う順番を駆使して、参謀指令室にはこちらの現状が伝わるような仕組みだ。
一例として、「こちらは××に所属している、○○です」の場合、今は盗聴されている、相手に誤った情報を盗聴させて、後ほど、正しい情報を別の手段で送る、という具合にマニュアルには記載されていた。
しかし――、
「今日は王都から撤退する日だぞ……!? なぜ誰とも連絡が取れない……ッッ」
念話のアーティファクトをポケットにしまう女性。
流石に誤情報を流布させるのはいいにしても、その後も王都に滞在し続けて、殲滅作戦開始の日まで留まり、そのまま殲滅される、というのは、魔王軍としても、命がある彼女という一個人にしても、回避したい展開だった。
ゆえに、この日は王都から撤退する予定だったのに……。
(おかしい……っ! 殲滅から逃れるために、余裕を持って今日という日に撤退を試みることになった。つまり、殲滅の日は今日ではない、ということ! なのになぜ、このような殲滅を匂わせる事態に……っ!)
やはり、考えられるのはこちらこそ殲滅の日はもう少し先、という誤情報を掴まされた、という可能性だ。他には、自分が撤退に際してトカゲの尻尾切りに遭った、という可能性。さらに他には、そもそも王都派遣グループは最初から捨て駒だった、ということも充分に考えられる。
(落ち着きましょう……。殲滅の日はもう少し先、これに間違いはない。理由は今、私が生きているから。えしてこういう作戦は定石のとおりなら、全てのスパイに対して一斉に取りかかるはず。私だけ残るということは考えづらい。みんなが死んでいるなら私もすでに死んでいる。次に私がトカゲの尻尾切りに遭った可能性と、王都派遣グループは最初から捨て駒だった可能性については……嗚呼、そうだ、是非もない。それを踏まえた上で、ただ、生き残ればいい)
その思考に行き着くと、彼女は方針を決めることに成功する。
そうだ、なにをバカ正直に悩んでいたんだ。仲間を助けることは立派だが、それはまず自分の身の安全を確保してからだ。ひとまず、自分1人が生き残ればいいだけの話だろう、と。
一見、これは仲間の救援を考えない非常に冷酷な判断だと思われがちだが、その実、非常に合理的で効率的な判断でもあった。
畢竟、全ての個人が自分で自分のことをなんとかできれば、流石に味方同士で蹴落とし合う、ということは魔王軍でも滅多にないから、理論上、全てのスパイが助かるはずなのだ。
もっとも、その全ての個人が自分で自分のことをなんとかする、というのが一番難しいことなのではあるが……。
だが、味方の生死を計算から外して、自分の事情だけを考えればいい、というのは、いいか悪いかは置いておいて、とても楽だ。
無論だ。仮に100人の事情を考えて行動するより、1人の事情を考えて行動する方が、考えるべきことの数、思考すべき回数が全然違う。
そして女性が足音を立てないように路地裏を器用に走り始めると――、
「うわっ!? クレープが!? アタシのお小遣い1ヶ月分の結晶が!?」
「…………ッッ!?」
曲がり角で、女性はイヌ耳の少女と衝突しそうになる。
その瞬間、女性は目を見張った。
このイヌ耳の少女はまだ子どもだぞ……っ、と。なのになぜ、曲がり角とはいえ衝突の寸前まで、スパイということも相まって気配を察知することに長けている自分が気付かなかった、と。
足音はまず間違いなくしなかった。
クレープが!? なんて嘆いている割には、楽しそうな喋り声すら聞こえなかった。
曲がり角から影も見えなかったはずである。
十中八九、自分の進行方向に影を作らない動きをしていたはずだ。太陽と自分の位置関係を把握して。
「悪いわね、お嬢ちゃん。お金は置いていく。それで新しいクレープを買いな。私は今急いでいるから、行かせてもらっても――……」
「いやいや、行かせるわけにはいかないな! なんたって、最後の1人なんだから!」
「は?」
「イヴは七星団に入団して忙しそうだし、ティナはおじいちゃんのお墓参りに行くらしいし、暇潰しのヒーロー活動の一環だからこそ、もっと楽しませてもらわないと!」
別に敵国の人間、ではなくクーシーとはいえ、とにかく、女性にはこの子を殺す予定はなかった。
彼女は七星団と同じく、魔王軍という軍事力を持つ組織の一員だ。上層部からの命令は絶対遵守。殺せと指示されて殺すのは当然だが、それと同じぐらい、指示されていないのに敵を殺すのはNG、ということも当然だった。
まして、今はスパイ任務中なのだから。
しかし、目の前のクーシーの女の子はもはやクレープには興味がない、といった様子で女性の進行方向に立ちふさがって――、
「……最後の1人? イヴ? どういうことかしら?」
「やっぱり、クレープ食べながら正義のヒーローごっこはするべきじゃなかったなぁ~。敵を全員殺したあとにするべきだったぜ……、しょぼん……」
「…………ッッ」
と、少女はイヌ耳をペタン、と、させて、尻尾を悲しそうに下に向けて左右に揺らす。
が、スパイの女性の方はすでに戦闘態勢に入っていた。間違いなくこいつは敵だ、と。
「――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます