ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章10話 内政チート、そして結婚制度(2)
4章10話 内政チート、そして結婚制度(2)
目を逸らさず、真正面を見据えながらヴィクトリアは告げた。
ウソを吐いてはいけない。誤魔化してはいけない。ヴィクトリアは心の中で繰り返し強く想いながら、自分の恋心を、自分でも否定できないほど誠心誠意、正々堂々と伝えたつもりだった。
この気持ちにウソはない。だから、躊躇う必要はどこにもない。
それを伝える相手がシーリーンとアリスでもだ。
今のヴィクトリアは誰の目から見ても、本気が伝わるような
一方で、それを聞いて、意味を理解して、想いを受け止めると、シーリーンは静かに目を伏せて、アリスはヴィクトリアのことを真正面から見つめる。互いに視線を逸らさない。
また、マリアは全てを察して成り行きを見守り、流石にイヴだけは驚いている感じだった。
そして数秒後――、
「そう。まぁ、驚いていないって言ったらウソになるけれど――私も以前、シィに同じことをしちゃったから、ヴィキーさんのことを咎める権利なんてないわ」
――と、アリスは優しく呟いた。
怒っている感じも悲しんでいる感じもそこにはない。
ただ、強いて言うならば、逆に穏やかな感じである。まるで聖母のようにヴィクトリアの告白をそっと包み込むような相槌で、そして次の瞬間には慈しむように微笑んでくれた。
「怒りませんの? わたくしのことを」
「だって、ヴィキーさんの気持ち、私にもわかるもの。私はロイが好き。ヴィキーさんもロイが好き。思うところがなにもないわけじゃないけれど――そんなの、私がウソを吐くことをやめた時のシィだって一緒だったはず。ここまで一緒なのに、これでわからないなんて方がおかしいじゃない」
微笑んだあと、少し照れくさそうにはにかみながら、アリスはヴィクトリアを認める。
そしてシーリーンも、ヴィクトリアに対して頷いてみせた。
恐らく――否――絶対に、ヴィクトリアはロイの外側だけで彼を好きになったのではない、という確信が、なぜか2人の中にはあった。
ロイの肩書きではなく中身を好きになったヴィクトリア。シーリーンもアリスも、そんな彼女とならば、いい関係が築けると思えた。
それに、だ。
仮にまだロイが生きていた場合、彼女なら、ヴィキーなら、自分たちとは別のナニカをロイに与えてあげられる、とも思ったのだった。
そして最後にもう1つ。ヴィクトリアには人を見る目がある。そんな彼女がロイを見て、今まで接してきて、彼を好きになったのだ。彼を認めたのだ。
そんな一国の姫に認められるロイの恋人2人である自分たちが、ここでヴィクトリアを拒むなんて、カノジョである自分たちと連動して、カレシであるロイの女の子を見る目までマイナス評価がいくこと必至だろう。要するに、ロイはこんなダブルスタンダードな女の子を選んだのか、と。
(なら、もう――)
(――これで異論はないわね)
と、ここでレナードが区切りの良さを覚えて再度、話を続けた。
その話の内容とは――、
「なら、話は早ぇなァ! 早いところロイとお姫様を結婚させて、【聖約:生命再望】を発動してロイのヤツを生き返らせようぜ!」
「ほえ!?」「ふぇ!?」
「ぅん!?」「えっ!?」
「およ?」「先輩を……っ」
「生き返らせる、でございますか!?」
発言の順番はシーリーン、アリス、イヴ、マリア、リタ、ティナ、クリスティーナの順番だったが、最後にクリスティーナが締めくくると、レナードは好戦的に笑いながらさらに続ける。
「混乱するのも無理ねぇ話だけどよォ、そうじゃなかったら今までのお姫様の告白に意味がねぇだろ。ちなみにだが、アリスたちに通達できなかった理由は至ってシンプル、この作戦が機密事項だったからだ」
「ま、まさかシィたちよりも、レナード先輩がロイくんを生き返らせるために必死だったなんて……」
「ハッ、悲しみに暮れてアイツが帰ってくるならいくらでも悲しんでやるが、そうじゃねぇだろ? で、だ。話を戻すが王族が亡くなった時、国民の混乱を回避するために、条件付きではあるが亡くなった王族を生き返らせる【聖約:生命再望】って魔術が存在する。チビッ子たちはともかく、アリスとロイの姉貴、メイドは知っているだろ?」
実を言うと3人の他にシーリーンも知っていたのだが、それは本題に関係ないので、シーリーンは黙っていることにした。
「待ってください、先輩! それはつまり、ヴィキーが、いえ、ヴィクトリア王女殿下という一国の姫が、ロイとはいえども死体と結婚するということですよね!?」
「察しが早くて助かる。そのとおりだ。ロイを生き返らせるにはロイを王族にしないといけない。しかし、当のロイはすでに死んでいる。なら、お姫様には死体と結婚してもらうしかねぇ」
「ひぅ……っ」
「ちなみに事実と異なるところもあるが、筋書きはこうだ。あまりいいことじゃねぇが、ある日、王女殿下はお忍びで外出なされた。そんな彼女が追っ手から逃げている最中に出会ったのが、ロイ・モルゲンロートという聖剣使いである。彼の前では王女としてではなく1人の女の子として過ごせて、王女殿下は恋に落ちてしまう。しかし現実は残酷で、ロイは戦争に行かねばならず、そこで殉死してしまった。しかし最後の最後で輝かしい戦果を挙げて、しかも彼が死んでもなお、王女殿下の愛が尽きることがなかったため、ロイはまるで物語のような生還を果たすのだった、と。言っちゃ悪いが、プロパガンダの一環でもある」
そのあまりに常軌を逸している発想に、気弱なティナが小さいとはいえ悲鳴を上げた。
一方で、シーリーンとアリスはロイの恋人として、ヴィクトリアの覚悟を知ろうとする。
「本気なの、ヴィキーちゃん?」
「当然ですわ。むしろ、シーリーン様とアリス様こそ、この作戦に不満がありますの?」
「えっ?」
「――――っ」
「死んだからといって、お二方のロイ様への愛が消えるわけではないではありませんか。シーリーン様も、アリス様も、ロイ様の外見ではなく、心を好きになったのですわよね?」
「~~~~っ、当然!」
「えぇ、そのとおりよ」
「わたくしも同じですわ。だからこそ、周りからおかしいと思われるのは百も承知、それでも、わたくしには結婚したい相手がいるのですの」
そこで話は二度目の区切りを迎えた。
しかし、すぐに話は再開を迎える。具体的には、リタの発言によって。
「でも――水を差すようで本当に心苦しいけど、死んじゃった人とどうやって結婚するんだ?」
「安心しろよ、ワン子。よく思い返してほしいんだが、死者と結婚してはならないなんて、誰が法的に決めたんだ?」
「えぇ~~? う~~ん? 明確に誰がっていうよりは、みんなの総意的な?」
「出所不明で明文化もされてねぇ匿名の群衆の意見なんて、総意じゃねぇだろ。さて――すでに俺がこの国の結婚制度で、間違っていないにしても言及しきれていないところをまとめて、論文にして、大臣に提出した。これで俺もロイと同じぐらい、王国の歴史に名を残せるかもなァ」
「「「「「「「は?」」」」」」」
レナードが言うと、今まで控えていたエルヴィスがシーリーンにとある紙束を手渡す。
「これは……?」
「オレも正直驚いている。レナードはロイから聞きかじった知識だけで、ロイの前世の水準の結婚制度を言語化して、論文にしてみせたらしい。で、ロイの前世のフランス? や、タイワン? というところでは冥婚と言って、死者と結婚することも条件付きではあるが認められていて、それを参考に我が国でも認めることになった。無論――」
「――余も国王としてこれを認めた。別段、憲法、あるいは既存の法律を破っているわけではないからな。むしろ王国の社会水準、社会学的な成長を一気に押し上げてくれたがゆえに、大義ですらある」
「ロイ曰く、こういうのを内政チート? って言うらしいが、まぁ、それはいい」
ふと、レナードはアルバートに試すような視線をやる。
「――最後の確認はアリスでもシーリーンでもお姫様でもなく、国王陛下にしたいのですが、よろしいですか?」
「かまわん」
「俺が訊くのも大変おかしな話ですが、確認のためご容赦ください。国王陛下から見て、王女殿下が勝手に結婚相手を選ぶのはいかがなものでしょうか? 相手が死者ということは関係なく、そもそも、王女殿下という身分なのですから勝手は許されません、という意味で」
「問題ない」
即答だった。アルバートはまるで悩んでなんていないのだろう。
一応、レナードはあとで問題が発生するとややこしいので、しつこいとは知りながらアルバートに追求することにした。
「理由は?」
「余には国王として人を見る目が宿っていると自負している。そして、余の人を見る目を凌駕する、さらなる人を見る目を宿しているのがヴィクトリアだ。なら、親としても、そして当然、国王としても、ヴィクトリアの判断に異論はない。ロイ・グロー・モルゲンロートと結婚すれば、ヴィクトリアは1人の人として幸せになれる上に、国にとっても有益と、余は判断している」
「一石二鳥ってヤツですね。よし、ならこれで、確認すべきことは全て確認できたなァ」
ニヤッ、と、レナードは笑ってみせる。
瞬間、シーリーンの目から一筋の涙が頬を伝った。
アリスは感極まって口元を両手で押さえ――、
イヴはレナードになにを言われたのか、嬉しすぎて逆に理解できず――、
マリアはその場で笑みを浮かべながらへたり込んで――、
リタは満足そうに目を伏せて――、
ティナは盛大に泣きじゃくりながら服の裾で目元をこすり――、
クリスティーナはみんなにバレないように鼻をすすった。
そして最後にアルバートが厳かに口を開く。
「件の魔術【聖約:生命再望】には、七星団の精鋭魔術師が100人以上必要だが――問題ない。今回の大規模戦闘では前線に出なかった分、『彼女ら』にやってもらおう」
そして数秒後、止まった時の中で動くことを許されていたシーリーンたちがもとの席に座りなおしたところで、アリシアが魔術を解除して、再び、時は動き始めた。
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