ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章11話 ただいま、そしておかえり(1)
4章11話 ただいま、そしておかえり(1)
蓋が開けたロイの死体が入っている棺。
そこから少し離れた周囲には3人の特務十二星座部隊に所属する女性が立っていた。
彼女たちは今、礼拝堂に集まって着席している全員(無論、国王であるアルバートを含む)から過剰に注目され、その上で失敗が許されない上に、超々々高度な技術と知識が要求される魔術を発動させるというのに――余裕さえ感じさせるような雰囲気で、魔術発動前、最後のやり取りをする。
「いや~ん♡ セッシー、マジで頑張らばらないとな~っ! 死者を甦らせるんだから」
と、序列第6位、【処女】の称号を持つ48歳の枢機卿、セシリアがきゃぴきゃぴした感じで、他の2人にかまってほしそうな独り言もどきを口にした。
その死者を生き返らせるにはあまりにも軽いノリのセシリアに対し、反応するのはやはりロイの棺を囲むもう2人に他ならない。
「セシリアさん、もうちょいお口に気ぃ付けたらどうですん? 失敗する気はさらさらありまへんですけど、国王陛下がご覧ですよ?」
「そのとおりですぅ。――まぁ、ではぁ、そろそろ始めますかぁ」
序列第10位の【磨羯】、占星術師のイザベルがセシリアをジト目で睨み、続いて序列第12位の【双魚】、枢機卿のカレンがついに「始めますか」と口にした。
厳かな雰囲気が支配していた礼拝堂の中で唯一、主にセシリアのせいで多少は明るかった壇上に、しかし今、一瞬で張り詰めた空気が広がる。
「にぱぁ、往くよ――ッッ」
凄絶にセシリアは白い歯を、ニ――ッ、と、剥き出しにして笑う。
右の手を前方に突き出して、そして5本の指を限界まで広げるように開いた。
ここは礼拝堂とはいえども屋内だ。
だというのに彼女の周囲には風が吹き、想像を絶するほど綺麗な桜色、パステルイエロー、ライトグリーン、水色、そしてベージュのグラデーションを誇る長髪は優雅ささえ感じるほどやわらかく揺れる。
「了解やで」
「わかりましたぁ」
セシリアに倣うようにイザベルとカレンも、勢いよく、バッッ、と、右手を前方、ロイの死体が入っている棺の方へ突き出した。
刹那、可視化されるほどの魔力が渦巻き、轟々と力強く唸りながら――、
しかし見る者全ての心を奪うほど綺麗に、煌々と瞬きながら――、
――ロイの棺、並びにそれを囲む3人の特務十二星座部隊を中心に、軌跡で円を描くように動き始める。
それを見ていたシーリーンたち7人――否――そこに集まっていた全員が、自分でもよくわからないのに、強制的な感動で涙を流すほど、その魔術を発動する過程の光景は淡く、儚く、美しく、この世の現象とは思えないほど幻想的だった。
「「「――――
シーリーンも、アリスも、イヴもマリアも、リタもティナもクリスティーナも。
みな一様に放心するほどの感動を覚え、逆を言えば今の彼女たちの心の中に、感動以外、他の全てはなにもなかった。
たとえば――、
――シーリーンは目の前の光景を見て、銀世界の白夜に架かる虹を連想した。
たとえば――、
――アリスは目の前の光景を見て、晴天なのに雨が降っている世界で、朝日がその雨粒に乱反射して煌めく架空の景色を連想した。
たとえば――、
――イヴは目の前の光景を見て、夜空に浮かぶ星々の繋がり、星座が、万華鏡のように千変万化の動きを見せる想像上の夜空を連想した。
たとえば――、
――マリアは目の前の光景を見て、空が地面にあって、海が空に浮かぶような空と海が逆さまになった世界で、水平線ではなく、言うなれば空平線に夕日が沈み、空にある海が燃えるように赤く染まる現実には存在しない景色を連想した。
たとえばリタは――、
たとえばティナは――、
たとえばリスティーナは――、
そのように、彼女たちだけに限らず、ここにいる全員が、意味不明なんてレベルではない、自分の頭の中身を疑うような心象風景を連想した。
しかし、架空の景色よりも、目の前の魔術儀式が行われている光景の方が綺麗だと思い、誇張表現でも比喩表現でもなく、徐々になにも考えられなくなっていく。ありとあらゆる思考が消えていく。
架空の景色よりも目の前の現実の光景の方が綺麗。
そんな信じられない事実を
ここにいる全員が一斉に想う。
この光景が夢なら覚めないでほしい。
7色に瞬き、閃き、輝き、そして煌めく魔力は礼拝堂の空間の全てを満たして、どこからともなく癒しさえ覚える風は吹き、永遠とさえ思えた時間が一瞬で終わりを迎えて――、
――ついに、、3人の特務十二星座部隊の女性は右腕を、ゆっくりと、下ろした。
(これが――特務十二星座部隊の枢機卿と占星術師)
シーリーンが放心しながらも、しかし、懸命に眼前に立つ3人を見て思う。
あまりにも綺麗すぎる光景を目の前にして、全ての思考がゆるやかに溶けていく中で、シーリーンが最後まで考えて――否――感じていたこととは――……
(シィもあれぐらい強くなれたら――ロイくんを、いつかは守れるように、なれるかな?)
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