ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章4話 恋人と婚約者と妹、そして戦う覚悟(4)
4章4話 恋人と婚約者と妹、そして戦う覚悟(4)
脳内を確認するアリス。
『貯蔵』は十分どころか十二分だ。各1回しか使えないとはいえ、時間と空間に干渉する効果絶大な2つの切り札も万全の状態である。そして無、焔、雷、風、水、土、光、闇、その全ての属性の魔術、それぞれ残数10は
(こちらは3人で、向こうは4人。だからまずは1人を――確実に仕留める)
詠唱の追憶は一瞬で終わる。
事実、アリスは目を瞑り、刹那よりも短い瞬間に――、
(
――回想、予めしていた詠唱の追憶を完了させた。
ストックを解放するのに時間はいらない。
たった1回の手抜きもなく、慢心もなく、だというのにわずか一度の勝利すら得られなかったの努力の成果を、ここに。
「詠唱、追憶」
この刹那――、
――アリス・エルフ・ル・ドーラ・ヴァレンシュタインが初めての実戦で
「――
時に干渉する魔術が発動した瞬間、アリスの魔術どおりに世界は有様を変容させる。
科学において原子とは『物質』を構成する小単位である。
ならば魔術において魔力場や、その波である魔力とは『現象』を構成する小単位であった。
当然、原子と原子が結合されたり切断されたりする化学反応だって現象の1つだ。
使用する物質を選択して、科学的になんらかの現象を発生させるなんて、できないと言う方がありえない。
しかし、だ。
魔術は現象を現象のまま、それ以上でも以下でもなく世界に発生させる。
逆に魔術を使い任意の現象を起こすことで、なんらかの物質を発生させることも可能だが――、
――原子は物質を物質のまま、それ以上でも以下でもなく世界に存在を主張させている。
物質があるから現象が起きるのか。現象があるから物質ができるのか。
しかし――こればかりは現時点での王国では、科学ではなく魔術でないと成し得ない。
時流操作。
時間とは相対的なモノで、アリスの固有時と、彼女の周囲の世界に認識できるほどの誤差はなく掛かっていた時間の流れが乖離し始める。
結果、アリスからしてみれば、自分以外の世界の全て、自分を地面に落とそうとする重力でさえスローに感じた。
彼女の体感だと、すでに5秒は滞空している。
(往くわよ、私が持ちうる、最速の一撃を――)
アリスは心の中で呟くと、2本並べた右手の人差し指と中指を、まるで止まっているようにしか思えないオークに向ける。
アリスはエルフだ。
魔術の適性も高く、遺伝的に視力も良い。エルフとして弓を嗜んだこともあるから狙いも精密の一言である。しかも、彼我の距離は50mも離れていない。
たとえでんぐり返しの最中のように頭を地面に向けて、足が頭より上にある状態だとしても、このスローモーションの世界なら――、
(――外す方が難しいわね)
ついにアリスの人差し指と中指から一閃の電撃が放たれた。
それと同時に彼女は限界を迎え、時流操作の魔術を解除する。
「ガハ……アアアアアアアアアアアアア……っっ!!!」
普通の生き物ならばまったく同時にしか思えないタイミングで、オークはアリスの電撃を喰らって気絶する。
それに、たとえ意識が回復しても脳に障害を与える威力なので問題はない。今はウソ偽りない殺し合いの最中である。慈悲を持つ余裕はなかった。
そして待ち受けていたスライムに落ちるより早く――、
「【黒より黒い星の力】!」
「はう!」
シーリーンとアリスは放物線を描くようにスライムに向かっていた。
なので、アリスは全てを融かすスライムに落ちてしまう前に、重力を操作して自ら着地してみせる。
で、アリスは華麗に着地を決めたが、事前に言う時間はなかったのだから仕方がない。シーリーンはドジっ娘を発動させて、スライムには落ちなかったものの着地に失敗して雪に転んだ。
降り積もった雪がやわらかくて大きなダメージを負わなかったのが幸いだろう。
「エルフの小娘! 今のは時流操作か!?」
「魔術を嗜んでいればわかるでしょう?」
木々に隠れてゴブリンは推測を始める。
まず常識的に考えて、この年齢の魔術師が時に関する魔術を、詠唱を零砕して使えるはずがない。
だが、よくよく思い返せば、あのエルフの小娘は今までの戦いで、一度も詠唱を行っていなかった。
【世界から見た加速する私、私から見た減速する世界】は先刻のとおりで【黒より黒い星の力】を使った時も、その詠唱を口にしていない。
そしてなによりもおかしいのは、1つ目の魔術から次の魔術、さらにそこから後続の魔術まで、一連の流れがあまりにもスムーズすぎることだ。
だとしたら、浮かんでくる答えは1つしかない。
「魔術の大量脳内ストック……ッ!」
「正解よ! 私はいつもお姉様と比べられていた。それがイヤで、何度もお姉様に模擬戦を挑んだ。たった1回の勝利もなく、代わりにあったのは無数に積み上げられた勝利に繋がらない努力。でも! お姉様に勝てない努力=無意味では、断じてない!」
「資料にあったこいつの姉……、まさか!?」
「あまり私を見くびらないことね。私には固有魔術はないけれど、一番私らしい戦い方は、もう身に付けている。――準備万端の至り。私はお姉様と何回も模擬戦を繰り返したことで、戦う前から魔術をストックできる数は、すでにお姉様を超えているのよ!」
「――――ッッ」
「小鬼風情が、覚悟しなさい。私は特務十二星座部隊のアリシアを相手に、準備万端なら3分も戦い続けることができるんだから」
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