ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章11話 挑む聖剣使い、そして迎え撃つ錬金術師(5)
3章11話 挑む聖剣使い、そして迎え撃つ錬金術師(5)
「飛翔剣翼!」
ロイは落ちてくる檻を避けられないと判断した。ゆえに、檻の蓋の部分に飛翔剣翼をぶつける。結果、檻の蓋は壊れてロイは拘束を免れた。
しかしその程度のことを、フィルが予見できないはずがない。
「――渦巻け、【絶対支配領域の君臨者】――」
「……ぐ、ァ……!?」
ロイがフィルから距離を置こうとするよりも先に、彼の腹部に風の大砲が撃ち込まれる。
人間の頭部程度に圧縮された嵐のごとき暴風に飛ばされたロイは先刻同様、大木に背中を打ち、地面に落ちて倒れてしまう。
「先ほど君が察したとおり――私の【絶対支配領域の君臨者】は一定領域内のなにかしらの散布を操作する能力だ。領域そのものを100%として、その中に存在する液体や気体や、最終的には魔力までを、領域内を占める存在の割合が変わらない範囲で、密集しているポイントや、散在しているポイントを私は弄れる。つまり――」
「まさか……っ!?」
よくよく思い返せば戦況は絶望的だった。
なぜならば、未だにロイはフィルに一撃もクリーンヒットさせていない。否、それどころかロイはフィルに、掠り傷1つ負わせられていないのだから。
「今の不自然に強い風は……対流か!? 一瞬、背中の方がすごく冷たくなって、正面が燃えるように熱くなった。いやいや……っ、気温さえ掌握できるってチートすぎでしょ……ッッ!」
「本当に驚かされる。正解だ。大気中で熱に偏りが発生すると、暖かい方から冷たい方に向けて風が発生する。これを弄れば今のように風の大砲を生み出すことも可能だ」
フィルは未だ、戦いの途中だというのに優雅に、服に汚れ1つ付けずに立っている。
対してロイはもはや満身創痍であった。
ここからの逆転は不可能。ロイがフィルに勝つのは絶望的。
そう認識して錬金術を使い、フィルが束縛用の縄を即興で作るが――、
「あなたに……ボクは、殺せない……ッ」
「戯言を」
「戯言じゃない。なぜなら【絶対支配領域の君臨者】が錬金術であるのならば当然、錬金術のルールを無視することはできないはずだ」
「……っ、まさか、この少年、ここまでとは」
ロイはやはり先ほどと同じように、エクスカリバーを杖のように地面に立てて、身体を起こした。
ギラついた双眸からは闘志がまだ消えておらず、燃えるような熱意を込めた目を、ロイはフィルに向ける。その目はまだ、死んではいなかった。むしろ、貪欲に勝利を目指そうとする獣のように獰猛である。
「【絶対支配領域の君臨者】を使えるあなたが本気でボクを殺すつもりなら――酸素をボクの周りから奪ったり、逆に単体で取り込めば猛毒でしかない酸素だけをボクの周りに配置したり、細胞内の浸透圧を弄ったり、圧力を調整して血液を沸騰させたり、数えきれないほどの手段がある。でも、現実はそうなっていない」
「手加減しているだけ。本当に死んでしまわない限り、私なら君を生かすも殺すも自由自在ということだ」
「確かに、それはそうかもしれません。ボクとあなたの間には、どう足掻いても埋めることのできない絶望的な戦力差が存在する」
「自明だな」
「ですが、ボクは考えた。あなたの言葉を借りるならば今、ボクたちがいる領域っていうのは、100%として完成されているモノだ。そして、この世界には主に魔王軍が使う死霊術がある。ひいてはその対象である魂も間違いなく存在する。つまり――ボクが死ねば、ボクの魂がこの完成された領域から失われる。まるで宇宙のように静的なモノとして外部から区切られている領域に乱れが生じる」
「魔術の大原則、魔術を使ってもこの世界の物質やエネルギーを増減することはできない。これからヒントを得たわけか」
「当然、錬金術は外部からの介入なく100を101にすることはできない。けれど、100を99と1に分けることはできる。だからボクの霊魂が領域から失われそうになっても、今の例でいうところの1として切り離せばいいだけだ。ここまでは問題ない」
「――――」
「問題なのは、100%あった領域の中身が99%に落ち込んでしまったら、減ったあとの内部を100%として扱わなければならないこと。ところで、あなたは真空について知っていますか?」
「あぁ、宇宙空間さえ至らない、酸素や窒素を含めて、なにも物質が存在しない空間のことだろう?」
「そう、そして宇宙空間のような
「――よくぞ、そこまで頭が回るものだな。敵ながら、少しは見習おうという気持ちになってくる」
「えぇ、だから、あなたにボクは殺せない! 100あったモノを99にしてしまえば、減少した分の1を埋めようとして、99の存在が膨張する! 科学じゃまだ説明できない魔術的、概念的なリスクだ。正直、どのぐらいの影響が発生するかはわからないが……あなたはこの自分の小宇宙とも言える領域を乱すような真似はできない!」
ただ単に人を殺せないのではない。
このような魔術原理で、キチンと人を殺せない理由が説明できる。
実際、【絶対支配領域の君臨者】は凄まじい錬金術だ。
なにかしらの散布を掌握するというこの錬金術の性質上、敵の周りの魔力を自分の周囲に集めて、敵の魔術を封殺することもできるし、先ほどのように、普通なら失敗が怖くて実行不可能な人体錬成を応用した空間転移も可能になる。
しかし、ロイが指摘するように殺人は不可能だ。
というよりも、厳密には殺人ではなく、静的なモノとして完成されている領域を乱すことが不可能だった。
想像を絶するほど戦闘を有利に進められるメリットと、多少だが戦闘に制限が付くデメリット。
フィルは2つを比べてこの錬金術を使用したのだが――、
「まさかこのような少年に、デメリットを一点の曇りもなく暴かれるとは、な」
「そして――」
「そして?」
「――せっかく会話で気を逸らしたんだ。この領域、壊させてもらうよ」
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