ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章9話 挑む聖剣使い、そして迎え撃つ錬金術師(3)
3章9話 挑む聖剣使い、そして迎え撃つ錬金術師(3)
「2つ、指摘したいところがある」
意にも介していない。
ロイの指摘に対してそう言わんばかりに、フィルは至極落ち着いた様子で指摘し返した。
「まず1つ、錬金術ぐらい、子どもでもなければ誰でも知っている魔術のカテゴリーだ。それぐらいで自慢げになられても困る」
これについてはフィルの言うとおりだった。実際、イヴたちが通っている中等教育下位でも錬金術の講義があるのだから。
無論、そこでは錬金術の基礎中の基礎である複数の大原則、原理上絶対に突破することのできない制限も学ぶのだが――、
「そしてそれ以上に重要なことだが――錬金術の大原則には『複数のモノを1つにしない限り、重量を増やすことはできない』というモノと、『同じく複数のモノを1つにでもしない限り、材質を変えることはできない』というモノがある」
つまり、たとえば10kgの鉄の塊があったとしても、それを100kgの鉄の塊にはできないし、同じ10kgでも水に変えることはできない。
可能なのはその10kgの鉄の塊が球体だった場合、立方体に形を変えさせるなどの、いわゆる変形だ。
これを念頭に置くとなると――、
「とある属性の魔力を他の属性の魔力に変えることは不可能だ。属性が異なるということは、違う材質に変化しているということ。科学に置き換えるならば、水素を炭素に変えるようなものだぞ。これだと錬金術の大原則に背くことになる」
「――魔術はなにかを達成するための手段だ。とある属性の魔力を他の属性の魔力に変えたければ、別の方法で同じ結果に辿り着けばいい」
「なに?」
「確かにあなたの言うとおり、錬金術に等価交換のルールがある以上、基本的に可能なのはその対象の変形だけだ。でもきっと、あなたにとってはそれだけで充分なんだ」
「――――」
「惑星そのものを少しだけ別の形に変える。もちろん、星の中身を少しだけ別の形に錬成すると言っても超々局地的で、地形を変えるレベルの変形ではないかもしれません。――でも! それならボクの周りから無属性の魔力や炎属性の魔力が消滅した説明が付く!」
「それは?」
「なにかしらの『物体』ではなく一定の『領域』を錬金術の対象にする! そうして、あとはその内部に存在する魔力の属性ごとの比率さえ守れば、好きな箇所になんらかの属性の魔力を密集させたり、逆になんらかの属性の魔力を散在させたりすることも可能! それがあなたの魔術、『偏在性』を弄る錬金術の正体だ!」
ロイが言い終えると、フィルはふと、手の平で顔を隠しクツクツと笑いを堪え始める。
自分ほどの錬金術師になれば、過ぎた謙遜は逆に失礼に値する。ゆえに一切の傲慢を排除した上で、フィルは自らのことを優秀だと認識していた。
そしてまだ若いこの少年は、その自分の錬金術の正体に、数少ないヒントで辿り着いたのだ。
面白い。実力は自分の足元にも及ばないが、よくよく話を最後まで聞いてみれば、予想以上に見所で溢れかえっている。魔術だけではなく、物理学の方もある程度学んでいるのかもしれない。
特に超々局地的とはいえ、惑星の一部を錬成の対象して、その領域内の魔力の散布を弄る、という発想は本当に称賛に値する。
まさか自分以外にその発想に辿り着く者がいるとは――。
フィルは学者気質の錬金術師として、内心で歓喜を覚えた。実際、学者なんかにはこの発想に辿り着く者はそれなりにいたが……まさかこのような少年がその発想に至るとは、露ほどにも思っていなかったのである。
「ロイ少年、当たり前のように聞こえるかもしれないが、錬金術とはルールさえ守ればなにをしてもいい人の
「――――」
「つまりルールを守っているならば、君の言うようなことも可能かもしれないな」
「ッッ、なら! やはり――!?」
「錬金術において一番に重要なのは対象の大きさや重さ、そして変形完了までの早さではない。対象の選択、変形のバリエーション、そして限られたルールの中で、どのぐらい頭を柔軟にして、融通を利かせるかどうかだ」
ようやく、笑いが収まったのだろう。フィルは顔から手の平を離して、ロイを真正面から見据えた。その視線にはもう、先ほどのようなつまならない仕事を無感情に片付けるニュアンスは存在しない。
今の彼から放たれるのは、純度の高い透明な殺意と、少年でありながら己の錬金術の正体を見破ったことへの敬意だ。
このような少年、本気を出さなくても余裕で勝てるが――敵ながら、敬意を抱いてしまったのだ。ゆえにそうなった以上、本気を出さないのは無礼に値するだろう。
仕事人間だったフィルの心が、久方ぶりに熱を宿した。
この少年はどこまで自分の理論についてこられるのか?
まだ時間には余裕がある。ゆえにフィルは心の内で(改めて、往かせてもらおう)と呟いた。
「この錬金術の名は
「――――ッッ」
「自分で言うのもおこがましいが――相手にとって不足はないと弁えろ」
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