2章6話 混浴、そして一糸まとわぬ姿(3)



「ふふっ、シィに恋人さんができて、そのロイくんとこうしてイチャイチャできるなんて――数ヶ月前までは想像もしていなかったなぁ」


「そもそも数ヶ月前だと、ボクとシィって、出会ってもなかったしね」


「そうだよね。本当に、シィはロイくんと出会えて――幸せだなぁ」


 シーリーンは温泉に浸かりながら、ロイの右腕に抱き付いた。

 裸の状態で抱き付いてきたので当然、ロイの腕は今、シーリーンの胸に直に挟まれていている。なにひとつ邪魔な物がない状態で触れ合うと、シーリーンという女の子の本来のやわらかさをこれでもかというぐらい意識してしまう。


 とにもかくにも、彼女の胸は信じられないぐらい、天使の身体の一部と錯覚するぐらい滑らかで触り心地が良かった。

 ふにふにとやわらかくて、たゆんたゆんと大きくて、ロイは心底、彼女の乙女らしい身体のさらに乙女な部分に心臓を高鳴らせた。


「えへへ♡ ロイくん、好き好き大好き愛している♡♡♡」

「うん、ボクもシィのことが大好きだよ」

「やったぁ♡♡♡」


 緊張しているという意味でも、時と場所を弁えていてもなお、興奮しているという意味でも、胸のドキドキが凄まじい。

 まるで身体が燃えているみたいに熱くなっているのを自覚できた。


 それに気付くとロイはますますシーリーンのことを意識してしまう。

 彼女の宝石を溶かして糸にしたような美しい金色の髪からはバニラの香りがして、彼女の小さくてやわらかい身体からの少し幼げなミルクの匂いがして――頭も身体もトロトロに蕩けそうで、夢見心地とはまさにこのことだった。


「ロイっ、あなたの恋人はシィだけではないでしょう?」


 シーリーンの可愛らしさに言葉を失っていたロイ。そんな彼に自分の存在をアピールするように、アリスの方は彼の左腕に抱き付いた。

 その瞬間、彼女からは貴族らしく、かぐわしいバラのような匂いが漂ってくる。みんなの手前、当然、理性を失うわけにはいかないが、右からも左からも女の子の甘くていい匂いがしてきて、ロイでさえ頭が沸騰しそうなほど刺激的だった。


「アリスは結構そういうこと言うよね」

「なにが言いたいのかしら?」


「ちょっぴり自惚れちゃうけど、ボクをシィに取られたくないのかなぁ、って」

「少し、違うわ」


「そうなの?」

「私は3人で1組の恋人グループでしょ? だから、その……シィにロイを取られたくないのと同じぐらい、ロイにもシィを、親友を、独占されたくなくて……むぅ、仲間外れがイヤなだけよ」


 アリスがギュっと、裸なのも気にせず、顔は赤らめているものの、素直にロイの腕を抱きしめる力をさらに強める。

 無論、アリスのハリがあり、滑らかな曲線を描く形の整った胸はロイの腕に当たっていたが――彼女自身、自分から押し付けるということに満更でもなくなっていた。


 普段真面目な自分がこういうエッチなことをするのが、イヤではなく、むしろ背徳的でドキドキする。

 最愛の人に自分の胸を当てているという事実が、親密さの象徴のようでもあり、けれどエッチでもあり、クセになる。


「好きよ、ロイ。シィが伝えたんだもの。私も、改めて伝えておくわ」

「ありがとう、アリス」


「その……ロイ、は?」

「もちろん、アリスのことも大好きだよ」


「嬉しいけど……焦らさなくてもいいじゃない。バカ」

「ゴメンゴメン」


 これがアリスというエルフの性格的にありがちな反応なのだろう。

 普段はロイに素直になれなかったり、シーリーンに対してヤキモチを焼いたりするが、本当は甘えたいし、恥ずかしいことをむしろしたいのが彼女なのだ。


 要するに、みんなの前でもそういう気分になってしまったのだろう。

 ゆえに今に限って言えば、アリスがみんなの前なのにいつもよりロイに素直なのは、おかしいことではなかったのだ。


「おに~ちゃんっ、わたしは恋人じゃないけど、妹なんだからもっとかまってよ~」


 シーリーンとアリスに意識が向いていたせいか、ロイはイヴの接近に気付けなかった。

 声が聞こえてハッと周囲にも意識が戻ったのと同時に、イヴは湯船の中であぐらを掻いていたロイの足の上にすっぽりと収まる。


 イヴの小さくて慎ましやかなのにぷにぷにのおしりがロイの上に乗っかった。

 そして、なるべく無理のない座り方をするためだろう。兄妹が互いに裸で密着しているということさえ気にせずに、おしりを振るようにロイの上で動いてみせた。


「わたしは逆ですね」

「えっ、逆?」


「わたしは姉で、弟くんは弟なわけですから、ちゃんとわたしがかまってあげますからね」

「姉さん!?」


 一方でマリアはロイと温泉の縁の間に割り込んで、彼の背後に陣取った。

 するとマリアはロイを背後から抱きしめるようにして、自分が弟の背もたれになるような体勢を作った。イヴがロイを背もたれにしているように、マリアは逆に、ロイに背をもたれさせてあげたのだ。


 流石に左右から腕を抱きしめられて、イヴに座られた状態で背もたれに頼らず背中を反らし続けるのは騎士でも厳しい。

 その結果、ロイの背中は早々に悲鳴を上げて、マリアはたゆんたゆんな胸で受け止める形で彼のことを背後から抱きしめた。


「ロイくん♡♡♡ 好き、好き、大好き♡♡♡ えへへ、ロイくんと温泉にこられて、シィは本当に幸せだよ♡♡♡」

「お兄ちゃん! わたしもお兄ちゃんのこと大好きだよ! 昔約束したんだから、大きくなったらわたしと結婚してね♪」


「むっ、ロイ、イヴちゃんとそんな約束をしていたの? 私だって、いつもは上手く伝えられないだけで、ロイのこと、好きなんだし……責任、取ってよね?」

「弟くん? ずいぶんとモテモテですけど、それがお姉ちゃんを放置していい理由にはなりませんからね?」」


 四方から美少女に引っ付かれるロイ。


 女の子特有の甘い匂いがすごい。

 色で喩えるとパステルピンクで、砂糖菓子のように甘々で、今にも頭が沸騰して胸がはち切れそうなほど良い匂いだ。


 その香りに包まれているだけで、身体がふわふわしてきて、胸が切なくて、頭がトロトロに蕩けそうで気持ちいい。


 永遠にこの匂いに包まれていたい、抱きしめられていたい。この時間がずっとずっと続いてほしい。ウソ偽りなく、そう願うぐらいそこには信じられないぐらい甘い香りが広がっていた。


「ご主人様、そろそろ潮時でございます」

「えっ?」


「反応されてしまいますと、流石にリタさまとティナさまは気まずくなってしまうかと思われますが?」

「いや、大丈夫、わかっているよ!?」


「ティナ、反応ってなに?」

「さ、さぁ、……そ、れだ、けは……わたしにも、……、わから、ない、かなぁ……」


 ちなみにだが、リタの素肌は適度に日焼けをした健康的な白さで、ティナの素肌は少し外出して日の光を浴びた方がいい、と、心配してしまうレベルの白さだった。


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