2章7話 足湯、そして妹と姉(1)
温泉を堪能したあと、ロイはイヴとマリアと一緒に、故郷の村にいる両親へのお土産を選んでいた。
そして結果的に入浴剤(1箱6袋入り)を2箱買った後は、3人で宿の入り口近くにあった足湯で一息吐くことになった。
イヴは先ほどと似たような体勢で、ロイの両脚の間に割って入り、彼の身体に寄りかかりながら足湯を楽しんでいる。
一方でマリアの方はロイの正面で足を湯に浸けていて、対面に座る彼にニコニコしていた。
「――イヴ、姉さん」
「ぅん?」「なんですか?」
「ずっと訊きたかったんだけど、さ? 少し前にボクは転生者だ、って話したよね?」
「うん!」
「そう、ですね」
「正直に言ってくれていいんだけど……そのことについて、2人はどう思っている?」
ずっとハッキリさせてこなかったことをハッキリさせる。
ロイはこの旅で、それを1つの目標にしていた。
自分の兄は、あるいは弟は、生物学的に血が繋がっていても、その中身が別の世界の住人だった。
それは当然、実例がロイ以外に存在するのか疑わしい事象だ。ゆえにロイ本人でさえ、イヴとマリアの心境を想像できていない。
端的に言うならば、2人とも内心でとても困惑していても不思議ではない。
宇宙人が家族だった時の気持ちなんて、世界中の誰にだって推し量ることは不可能だろう。そう考えれば、イヴとマリアの心境は相当複雑なはずである。
アリスの一件を通じて、自分は転生したという事象に対して前向きになれた。だから、清々しい気持ちで秘密をイヴとマリアに打ち明けた。
だが、2人がそれを聞いてどう思うかに、ロイの清々しい気持ちは関係ない。もしかしたら、清々しさとは真逆の気分を抱いたかもしれないのだ。
ゆえに、他の誰に尋ねるよりも先に、ロイは長年一緒だったイヴとマリアに訊いてみようと、ずっと前から決めていた。
それが最低限の誠意だと思ったから――。
「では、まずはわたしから、ですかね」
言うと、マリアは静かに目を伏せた。このように複雑なことに対する思いを、妹に先に言わせるわけにはいかないという優しさだろう。
しかとそのことを強く認識してから、マリアは目を開き、ロイに向けて語り始める。
「――正直、わたしはそのことを上手く消化しきれていませんね」
「そう、だよね……」
「でも」
「でも?」
「弟くんの思っていることとは違います。わたしは決して、今、弟くんが思っているように、宇宙人が家族なんて認められないよね、なんて思っていません。そこだけは、安心してほしいですね」
瞬間、ロイの胸に仄かな温もり、優しい微熱が宿った気がした。
まだまだ、マリアの話は続くだろう。そして、その話の続きでなにを言われるかはわからない。
だがひとまず、宇宙人でも家族として、弟として認めてくれる。それだけでロイは9割ぐらい、もう満足できた。
ロイは目頭が少し熱くなるのを抑えられない。
「アリスさんの騒動が終わったあと、わたしは弟くんから自分の正体について語られましたが……その時、わたしは少し寂しかったんですよね」
「寂しい……?」
「自分の弟が元とはいえ宇宙人で動揺しました。――でもですよ? 宇宙人であることが、今さら別のコミュニケーション方法を取る理由にはならないと思ったんですよね」
「えっ?」
「だって今まで、特に何事もなく接して、過ごして、絆を深めてきたわけですし」
そこは感情的ではなく、理屈っぽく考えてもマリアの言うとおりだった。
コミュニケーションが困難になるわけでもないのに、その方法を変える必要はないだろう。今でも普通に、ロイとマリアはコミュニケーションが取れている。
別に、ロイは最初からロイなのだ。中身が入れ替わったとかなら話は別だが、彼のどこかが変わったわけではない。
強いて言うなら、コミュニケーションの方法が変わらなくても、態度が変わるぐらいだろう。無論、この2つは似ているだけで同じではない。
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