ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章12話 晴天の下で、リベンジマッチに――(6)
3章12話 晴天の下で、リベンジマッチに――(6)
なるほど、確かに理に適っている作戦だった。
アリエルは先ほどから肉体強化の魔術を使っている。だから正直、剣を躱すのはそこまで難しいことではない。それは今しがた斬られた分身の方も同じだった。
しかし当然、肉体強化の魔術を使ったからといって、肉体的な構造を超越できるわけではない。
関節の可動域を無視した動きができるようになるわけではないし、そして、背中に目が付くわけでもなかった。
ゆえにロイとレナードはアリエルたちを挟み撃ちにしたのだ。
見えないところからの攻撃なら、一撃で片方を倒せるはずだ、と。
面白い、実に面白い。正直、アリエルはこの負けるかもしれない劣勢で、年甲斐もなく今を楽しんでいる自分を否定できなかった。
まだ10代の若者でありながら、自らの命を懸け、学者の領域に手を伸ばそうとする、その所業。ハッキリ言って感嘆の一言であり、称賛に値する。
だからこそ――、
――称賛というモノは目に見える形で送らなければならないはずだ。
「――君たちは、本当に素晴らしい」
「「――――」」
「だからこそ、私が貴族だとしても! 君たちが平民だとしても! 最上級の敬意を払って戦わせてもらう! さぁ! フィナーレといこうか!」
すっ――――と、アリエルは右腕を前方に突き出した。
そしていつでも右手の親指と人差し指を打ち鳴らせるように準備をすませる。
その刹那、ロイもレナードもそれが【魔術大砲】の構えであるとすぐに察した。
それと同時に、アリエルが本当に自分たちに敬意を払い、その上で勝利を収めようとしていることにも。
「察していると思うが、これは【魔術大砲】の構えだ。手の内が明らかになった今、この期に及んでまどろっこしい駆け引きをしようという気は微塵もない。ただ純粋に、ひたすら愚直に、全身全霊最大出力の【魔術大砲】で――ステージごと君たちを灼き尽くす」
それが君たち2人に対する最上級の敬意だ。そう言わんばかりの双眸で、アリエルは宣言通りに全ての魔力をこの一撃に注ぎ始める。
翻ってロイも、レナードも、最後のチカラを振り絞り、その傷だらけの両手で己が聖剣を握り締めた。
そして――、
ついに――、
「先輩」
「ロイ」
「勝ちますよ、ボクたち2人で!」
「アァ、1人じゃ無理でも、2人でなら勝てるはずだ!」
その瞬間、ロイもレナードも肉体強化の魔術を自身の両脚に
前進するたびに地面には放射状の罅割れが奔り抜け、2人は一歩ごとに地面を踏み砕きながら突き進む。
あと数秒でこの決闘の幕は引かれるだろう。
ロイとレナードは互いに先に出ようとするように、意地を張りながら突撃した。
1秒でも早く、前へ、前へと突き進め。
そう言葉以外のナニカで強く主張するように、ロイもレナードも紫電のごとく、全力全開でその戦場を駆け抜ける。
そして迎え撃つのは子どものレベルなど、とうの昔に超えている学者、エルフ・ル・ドーラ侯爵だ。
気迫で負けたら他の全てでも負けてしまう。
ゆえに、いざ――ッッ、
この刹那に、全身全霊を懸けるのだ!
「これが私の! フルパワーだ――ッッ!」
ついにアリエルは右手の親指と人差し指を打ち鳴らした。
それと全く同時に発動する特大の【魔術大砲】――否――厳密にはアレは【魔術大砲】ではなかった。
ロイとの初戦では披露せず、前回のレナードとの決闘でしか使っていない【
直径は信じられないことに、間違いなく5mを超えていた。ウソ偽りなく、術者本人の前方を全て包み込むほどの超広範囲攻撃だ。
熾烈にして激越、魔術師としての神髄を披露すると言わんばかりの渾身の一撃。そこまで言ってもまるで過言ではない。
それほどまでに、あの優勢だったアリエルもこの一撃に己が全てを懸けていた。
だが、それを――、
信じられないことにロイは――、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
「ロイ――っっ!?」
ロイの咆哮が晴天に響き渡った。
まるで魂を震わせるような雄叫びである。
正気を疑うべきだろう。
そう、レナードは【魔術大砲・改】を回避しようとしたのに、ロイはそのまま【魔術大砲・改】に突っ込んでいったのだ!
確かに、今のロイの脳内ではアドレナリンが過剰に分泌されていて、常人では届きもしない興奮状態にあった。
だがそれでも、冷静な判断ができなくなったわけではない。
攻撃は痛い、魔術は怖い。
ただそれを理解した上で、アリスを取り返せるならばそれぐらい、ロイに取ってはあまりにも安い対価だった!
弩々ッッ、轟ッッ! と、この辺り一帯だけではなく、領土全体に広がったのではないかという規模の揺れと爆音が発生する。
まるで煉獄を連想するような灼熱の爆炎が燃え広がり、まるで巨人の軍勢の行進を連想するような振動が今もなお、強く地面を揺らしている。
トドメと言わんばかりに鳴り響いているのは古竜の咆哮を連想するような轟音だ。
ここを中心に今日、世界が終わると言っても信じられそうなほどの衝撃が、【魔術大砲・改】に自ら当たりにいったロイを中心に世界に広がる。
なにを考えてロイが攻撃に突っ込んだのかはわからない。
だがアリエルは、まず1人は倒したと確信した。
しかし――ッッ、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「バカな!? ありえない! 昨日のただの【魔術大砲】とは、規模も威力も桁外れなのは見てわかるだろう!? 痛くないのか!? 怖くなかったのか!?」
「痛いさ! 怖かったさ!」
「ならば……ッッ!」
「だけど――どのタイミングでなにがくるのかわかっているなら! たった1回! 攻撃を我慢すればいいだけの話じゃないか! 思い知れ! 我慢は事実上の魔術無効化だ!」
「まさかそちらも駆け引き皆無でくるとはなァ……!」
最大火力の攻撃の反動と、あまりにも予想外な方法で突破され生じた隙。
それらが理由でアリエルは今、わずかとはいえども無防備な状態になってしまった。
(だが……こちらの肉体強化は健在だ! 【零の境地】でロイ君の強化を無効化すれば、今の彼なら封殺できる!)
ロイが自分で言ったことだ。痛いさ! 怖かったさ! と。そう、彼は我慢しただけでダメージを負っていないわけではない。
剣は簡単に躱せる。肉体の状態も今はこちらが上。
ゆえに【零の境地】さえ発動させれば!
それでロイは負けて――……
「先輩! 【零の境地】! 左足!」
「詠唱零砕! 【光り輝く白き円盾】!」
「なん――だと!?」
レナードが魔術を発動させる。
再三にわたり説明されたが、あくまでも【光り輝く白き円盾】とは空間に固定された壁なのだ。それが一般的というだけで、盾という役割は数ある使い方の1つに過ぎない。
ゆえにレナードは【光り輝く白き円盾】を、アリエルの左足を巻き込む形で展開した。
これで当然、アリエルの左足は動かせなくなる。どう考えても、これでは【零の境地】を使うことは不可能だった。
「まさか、この戦術は……!?」
くる攻撃がわかっているならば、その痛みを我慢すればいい、というロイの脳みそまで筋肉でできているような戦い方。
そのロイの戦い方さえも組み込んで、相手を論理的に追い詰めるレナードの戦い方。
ロイとレナード。
2人は初めてのタッグバトルで、互いの戦術すら、自分のことのように認め合っていたのだ。
そしてついに、ロイは聖剣を天にかざした。
アリエルは今、魔術を使えないし、左足を固定されて動くことができない。
嗚呼、これで――、
――この刹那、ロイとレナードは勝利を手にする!
「エクス――ッッ、カリバアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
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