ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章13話 決闘のあとで、疲れ果てた少年は――(1)
3章13話 決闘のあとで、疲れ果てた少年は――(1)
決闘のあと、敗北したアリエルよりも、勝利したロイの方が重傷を負っていた。
いや、瀕死の重体と言っても過言ではなかった。
くるのがわかっているのなら痛みを我慢すればいい。我慢は事実上の魔術無効化。
最後の駆け引きもクソもない度胸と敬意のぶつけ合いにて、ロイはそういう無茶苦茶な理論でアリエルの【魔術大砲・改】を正面から喰らった。が、アリエルも言っていたとおり、それは我慢できるだけで痛みを感じないわけではない。
今の彼はまるで火だるまになったかのように全身の皮膚がボロボロに焦げている。そして左目は見えず、左耳も聞こえず、抉れたせいで脇腹からは肉の断面が見えていた。
咳き込むごとにタンのような血の塊を吐き出し、コヒュー、コヒュー、と、呼吸しようとしても、どこかからやたら空気が抜けてしまっている。
今、ロイは決闘場のステージの上で横になっていたのだが……彼の周りにはアリスとレナードが集まって、必死にヒーリングを施していた。
「ロイ……ッッ、ロイ!」
「アリ、ス……」
アリスは未だウェディングドレスのままだった。
ここにいるほとんどの者が(どうせエルフ・ル・ドーラ侯爵が勝つに決まっている)と予想していたので、「決闘が終わったあと、すぐ結婚式に戻れるように」と言われたからである。
とはいえ
むしろ彼は今、そのことを少しだけありがたく思う。花嫁衣装のまま泣くアリスの涙がまるで宝石のようにとても、とても綺麗だったから。
しかし――、
――その綺麗な光景に暑苦しいモノを混ぜてくる青年がいた。
「ロイ! しっかりしろ!」
「せんぱ……い……」
「テメェ! 俺との決着を付けねぇままくたばる気か!? 〜〜〜〜ッッ、冗談じゃねぇ! 俺はンなの許さねぇぞ!?」
ロイのことは気に喰わなかったが、人情には厚いのがレナードである。
彼も彼で、わずかしか残っていない魔力を振り絞って懸命に、そして涙さえ浮かべながらロイにヒーリングを施していた。
しかし無情にも、ロイの瞳からは徐々に光が消えていく。
すごく、すごく遠くで、アリスが泣く声とレナードの怒鳴り声が聞こえるが、嗚呼、そのようなモノ、もはや遠音だった。
死ねない。
死にたくない。
死ねるわけがない。
死んでたまるものか。
ロイはシーリーンの励ましを心の中で繰り返し思い出して、必死の思いで睡魔に抗う。
せっかく、自分は生きていてもいいのだと、許された想いになれたのだ。生きていてもいいんだよと、最愛の女の子に励まされたのだ。
だというのにこんなところで終わっては、シーリーンに見せる顔がない。
誰が死体になった自分の顔を、シーリーンに見せるものか。
ロイは全力で歯を食いしばり意地――否――執念とも呼べる粘り強さでなんとか意識を繋ぎ止めた。
だが、刻々と傷口から血が流れていく。そして、ロイは身体が冷たくなっていくのを自覚できた。
大量出血で意識が朦朧とする場合、その症状は貧血による目眩の悪い上位互換と言っても過言ではない。血を取り戻さない限り、執念で繋げる意識にも限度があった。
「ロイっ、イヤぁ……ロイ! 死なないで!」
「眠るんじゃねぇぞ!? 俺はテメェとの勝負、不戦勝なんて結末は許さねぇって言っただろ!?」
ヒーリングを施しながら、横たわるロイの胸部に縋りつくように泣きじゃくるアリス。
レナードの方もロイを絶対に寝かせないように、声を
幸いにも、ここには結婚式に参列していた貴族の観客が多数いた。その中には高度なヒーリングを使える者も多い。
現に今も、横たわるロイに数人がかりで多重のヒーリングが施されている。
しかし一向に、ロイの瞳が虚ろな状態から戻ることはない。
そして別の貴族によって、ロイと同じようにヒーリングを受けていたアリエルが彼の元に近付いた。
「――――っ」
確かに、アリエルはロイのことを本気で殺そうとした。しかも常識的ではないと自覚しながら、それが本人たちに対する最大の敬意だと思っていた。
ロイが敗北したならば容赦なく殺し、そのことに罪悪感を覚えても、本人たちが言い出したのだから仕方のないことだ、と、割り切るつもりだった。
だが――、
(これだけ魔術を重ね掛けすれば、傷自体はそれなりに塞がるはずだ。だが、治癒魔術を使ったとしても、時が巻き戻り失ったモノが戻ってくるわけではないのだ。つまり……流れた血液だけはどうにもならない)
――ロイはアリエルに勝利したのだ。
――だというのに死んでしまうのは、手にかけたアリエルですら本意ではなかった。
アリエルがロイの近くで沈黙を貫く。
端的に言って、いたたまれなかったのだ。
自分たちに勝ったのに死んでしまう少年の姿も。
その彼に泣きじゃくりながら抱きついている娘と、涙ながらに声を嗄らして叫び続けている彼のライバルの姿が。
後味の悪さを覚えて、アリエルが爪を皮膚に食い込ませるほど両手を握り締めた。
ちょうど、その時だった。
「――――詠唱、零砕――――」
ゾク……ッッ、そこにいた者たち全員に怖気が奔った。
全身の皮膚が粟立ち、身の毛がよだつほどの恐怖に吐き気さえ覚える。
なぜか今、自分たちは神様の領域に土足で足を踏み入れたに違いない。
恐れ、
この悪寒は確実にヤバイ。
自分たちは今、蛇に睨まれたカエルなどだ、と。
爵位でも、魔術師としての実力でもない。生物としての格上がこの刹那、自分たちの一挙手一投足を見つめている、と。
「――――
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