ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章2話 34分51秒 シャーリー、死闘の末に――(2)
2章2話 34分51秒 シャーリー、死闘の末に――(2)
強く奥歯を軋ませるシャーリー。
自分が未来を知ったせいで未来が変わった。そしてその改変後の未来を相手に視られれば、また未来が変わる。この殺し合いはもはや、未来視という本来、世界に対してチート級の魔術を使えても、それだけでは決定打になり得ない
そこからさらに早く、速く、より疾く、2人は王都の
一等星のごとき光が煌々と弾け、ブラックホールのごとき闇が轟々と奔流し、マントルさえ彷彿とさせる業火の砲弾を撃ち放って、北極の氷さえ凌駕する氷をそれにぶつけ、シャーリーが黄金の雷撃を射出するたびに、【土葬のサトゥルヌス】は風の魔術をさらに深化させ、プラズマに変えて相殺。
まさに地獄絵図という言葉がふさわしい有様だった。
互いに魔術を繰り返した数は1000を超え、時はすでに両者の固有時で10分も経っている。一言で語るなら狂気に充ちた世界。このような頭のおかしい殺し合いに参加したら、常人なら10秒で現実逃避の幻覚を見ること必至だというのに。
だが、そのような狂気の中であっても、シャーリーは冷静に敵を殺す算段を整えていた。
時間停止は現在進行形で無効化されている。
未来の読み合いをいたちごっこするだけの未来視もダメ。
となると他に有力な魔術といえば――、
相対的に、世界と比較して自分の時間を加速させる【
もしくはシャーリーが保有する最新にして最強の魔術、未来改変なんて途轍もない効果を発揮する
――主にこの2つ。
(焦燥――前者はともかく、後者はいくら私めでも詠唱を唱えないと発動できない。当然だ。ストックがあれば話は別だが……今回は1つでもそれを用意する時間もなかった。しかも一種の世界改変なのだから、その詠唱もかなり長い。有象無象のザコが相手なら戦いながら詠唱できたが、相手が敵軍の最上層部の男だと、そんな隙が1秒もない。なら――)
シャーリーは覚悟を決める。
そういう
ここから先は特務十二星座部隊の自分でも経験したことがない未知の世界だ、と。
2つ以上の時属性の魔術の並行発動なんてよくしていることだし、現に今だって時間停止と、さらに止まった時間の中で未来視を発動したのだが……そんなレベルが低い次元の多重発動ではない、と。
最悪、この戦いに勝利しても死ぬ可能性がある――、
――具体的には、脳みその酷使によって。
だが、どちらにせよ敗北したら殺されるのだ。
ならば、せめて勝ってやろう。
敵軍の最上層部の1人を屠れるのならば上々だ!
そしてシャーリーは――、
「発動! ――【世界から観た加速する私、私から観た減速する世界】ァァッッ!」
刹那、シャーリーの動きが【土葬のサトゥルヌス】から観測してグン……ッ、と、加速する。
それはまるで小鳥の飛ぶ速さに対して、
加速した時の中で、シャーリーは凄絶に、好戦的に嗤う。
慈悲はない、死ね、と。
流石に焦燥する【土葬のサトゥルヌス】。零点エネルギーの密集は術者の時間の流れが制限される場合に真価を発揮するのであって、術者の時流が正常な場合、自らの弱体化ではなく敵の速度強化がされている場合にはなにも意味をなさない。
いったい、どのような魔術を仕掛けてくる……ッッ!? と、【土葬のサトゥルヌス】が思考を張り巡らせたその時だった。
加速のせいでやたら早口ではあるが、わざわざシャーリーの方から、詠唱が聞こえ始めた。
これを幸運と思うか否か。
自明だろう。【土葬のサトゥルヌス】には、加速しているのにわざわざ使う魔術を教えてくれてありがとう――なんて、口が裂けても言えなかった。
言えるわけがない。むしろ逆で、シャーリーの正気を疑い、自分が認識していた彼女の覚悟のレベルの誤認を嘆きたくなるほどである。
即ち――、
「…………ァ、ッッ、ァァァァァ……ッッ!
時属性の魔術の神髄をここに魅せる。
これこそが王国で最も優れた時属性魔術の使い手の全力。
全力で肉食獣のように嗤いながら、シャーリーは詠唱を締めくくった。
考えるだけならば、子どもでも思い付きそうな作戦である。
即ち、シャーリーが今行っているのは、未来改変には詠唱が必要で、相手がその隙を与えてくれないのなら、加速した状態で詠唱を行おう――という、まるで自らの命を勘定に入れていない暴挙に他ならない。
それを見て【土葬のサトゥルヌス】はここにきて初めて、興奮ゆえの叫びではなく、動揺ゆえの叫びを上げた。
「バカな!? 極限まで時を凍らせた世界で、おれより加速しながら未来改変の魔術だと!? 敵ながら死ぬ気か!? 正気じゃない!」
シャーリーの目が血走って、まるで血管を走る血液が沸騰するような気持ち悪さが全身を支配する。
脳内の毛細血管がいたるところで弾けまくり、口元からは血液を垂れ流した。心臓はまるで火山が噴火を1秒ごとに繰り返しているように、あまりにも強く鼓動を打ち、今なら身体で水を熱湯に変えることさえ可能かもしれない。
決死の覚悟。尋常じゃない精神力。
敵ながら【土葬のサトゥルヌス】はシャーリーに敬服した。この女には敵わない、と。
「見事だ、シャーリーとやら。おれは素直に負けを認める。が、しかし、死ぬのはお前だ」
すでに未来は改変された。あと何秒後かは知らないが、恐らく、【土葬のサトゥルヌス】はなにかで死ぬ。
心臓麻痺か、魔術の暴発か、あるいはさらに他のなにか。
いや、死霊術で復活することを相手も知っているのだから、死ぬことさえ許されない永久的な拘束だって充分にあり得るだろう。
ゆえに、切り札を温存している場合ではない。対抗できる手段があるのだから、対抗しないなど神が認めても魔王と自分が許さない。
「魔王様、アーティファクトを使わせていただきます」
言うと、【土葬のサトゥルヌス】は魔王軍の制服のポケットから1枚の石板を取り出した。
横に5cm、縦に8cm、厚さは1cmもないアーティファクトである。
が、それには魔王が直々に製造した禁断の魔術が組み込まれている。
その禁断の魔術とは――ッッ、
「な……ッッ!? 意味不明――未来構築が起こらない!? 魔術の無効化!?」
否――シャーリーが吐血しながら頭を横に振る。
『これ』は魔術の無効化なんて程度の低い現象ではない、と。もっと高位で、より鮮烈で、時属性の魔術の天才である自分でも到達しえない領域に存在する現象だ、と。
端的に言って――怖い。
生まれて初めて敵の使う魔術に恐怖を覚えた。もちろん、入団したばかりの頃は敵を相手に何度も恐怖を覚えたことがあったが――そんなモノ、これと比べれば虚無に等しい。
ゆえに、今ここに、シャーリーは自覚してしまった。
これが本物の恐怖なんだ、と。
「悪いね。
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