ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章6話 21時24分 エルヴィス、念話する。(1)
3章6話 21時24分 エルヴィス、念話する。(1)
無礼、不作法、非常識であることなど百も承知。しかし、エルヴィスは自身の側近にある程度のことを任せ、建物の屋根を跳躍しながら星下王礼宮城にあるロイの自室を目指した。
闇夜を跳びながら、彼は先刻の続きを考える。
(イヴはアリシアに任せたが……ひとまず、ロイの安全を確保できたら、あいつの王族という属性、身分を利用して、ロイヤルガードであるエドワードのもとに行かせよう。もちろんオレも同行するが、万が一、エド、あるいはあいつ以外の何者かがロイやオレに不都合なことを言ったとしても、こちらには国王陛下がおられる。国王陛下はロイの事情、異世界の存在を知っているゆえに、基本的には大臣たちがなにを言ってこようと、どんな方法でもロイに不利益が被らない結論に、話し合いを誘導してくれるはずだ)
無論、エルヴィスはロイの嫁であるヴィクトリアのことも考えていた。言わずもがな、ヴィクトリアだってロイと同じ――否――彼よりも純血の王族だ。ならば必然、ロイ以上にロイヤルガードであるエドワードにもとに行かせやすい。
つまり、ヴィクトリアに対する配慮はロイよりも格段に
「敵の数と、目的――か」
エルヴィスは先刻から見えていた死神を改めて一瞥する。
確かに脅威だ。だが、死神の他に魔王軍の輩は見当たらない。騎士であるがゆえに魔術には詳しくなく、遠視の魔術は多少しか使えないが、それでも気配というモノは察知できる。精神論ではなく、現実的に。
他のことはともかく、これを考える時、重要なのは被害の規模ではなく、加害の数だ。
それは当然、何百人という死傷者が出ることになるだろう。想像に
畢竟、こういう時は加害、つまり攻撃、より厳密に言うならば、1人の敵兵が繰り返し攻撃をしかけることを想定して、攻撃そのものではなく、それが発生した座標の数を数えるのが定石だった。
赤子でも認識できる座標の数。
即ち、攻撃は死神という1ヶ所からしか発生していない。
もちろん未だ隠れている魔王軍の密入国者がいるかもしれないが……あの完璧に無造作で、敵も味方も判別していないようなただの死滅の権化を見てしまうと、アレが現れるより先に撤退していると考えた方が、よほど現実的だった。
ゆえに、重要かつ、次に考えるべきは、敵の目的に他ならない。
(国王陛下を狙うならば、死神があそこ……恐らく、職人居住区画に顕現するのはおかしい。七星団の武器の製造元を絶つにしても、あまりにもオーバーキルだ。こちらにも被害が及ぶのは当然だが、それ以上のコストを魔王軍は支払うハメになる。どちらの陣営もマイナスの結果になるだろうが、相対的には七星団がプラスの結果になるだろう。つまり、武器の製造元を経つという推測も成り立たないな)
次の瞬間、エルヴィスは重い溜息を吐いた。
「あの光の障壁、恐らくはイヴのモノだろうな。偶然にも死神が顕現した真下あたりにイヴがいたとは考えづらい。ならば、敵の目的がイヴと考えるのが自然な流れなのだろうが……判断を誤ったか? オレもイヴの方に――……」
いや、これでいい、と。
エルヴィスは頭を横に振ってその考えを打ち消した。
自分の身体能力ではイヴのもとに着くのに時間がかかる。先ほどアリシアと話し合ったとおり、イヴはアリシアに任せて然るべきだ。
建物の中にいたあの段階ではイヴの光の障壁が見えなかったから、この判断を誤ったかもしれない、という疑念は結果的なモノだ。
事実、アリシアが1人で死神を倒してくれて、エルヴィスがロイの安全を確保すれば、エルヴィスがアリシアに同行してイヴをどうにか助けるよりも大きい結果が得られる。
なにが言いたいのかというと――自明。やはりこの判断に間違いはない。迷いはただの幻想にすぎない。
紛うことなく王国最強の戦闘集団、特務十二星座部隊に相応しい判断だった。
しかし――、
問題があるとすれば――、
――特務十二星座部隊は最強であって全知全能ではない。
「――っ、着いた。ノックすれば開けてもらえるか?」
バルコニーに着地するエルヴィス。
流石の彼でもバルコニーから入室するのは初めての経験だったようで、とりあえず、彼はガラス張りの扉をノックする。
すると、窓の向こうでカーテンが開かれて、そこに現れたのは1人のメイドだった。
クリスティーナ・ブラウニー・リーゼンフェルト。ロイ、イヴ、マリアのメイドである、と、エルヴィスは彼女のことを記憶していた。
彼女はガラス張りの扉を開けると、すぐにそこに立っていたのは特務十二星座部隊の一員、ということを認識して、少し大き目な声をあげてしまう。
「…………ッッ、特務十二星座部隊のエルヴィスさま!?」
「一応、証拠を見せておこう」
一瞬にして
クリスティーナがそれを視界に入れて瞠目したことを確認すると、彼は他に、早々にやるべきことがある、と、そう雰囲気で伝えるように、聖剣を再度、煌めかせて自分の中にしまった。
「中に入らせてもらう」
「かしこまりました、どうぞこちらへ。ただ、ヴィクトリア王女殿下はただいま、魔術で強制的に寝かし付けている最中でございます。僭越ながら、そのご配慮を」
「あぁ、理解し、……、…………ッッ」
戦慄するエルヴィス。
クリスティーナには彼の今の表情の意味がわからなかった。
「クリスティーナ、だったか……?」
「はい、左様でございます」
「ロイは……どこに、行った?」
「? イヴさまのもとへ」
「バカな!?」
一度、落ち着いて考え始めるエルヴィス。
(落ち着け……っ! 動揺してもいいことはなにもない……っ! まず、ロイは聡明なヤツだ。この現状、窓の向こうに広がる惨禍を見れば、まず間違いなくアレに近付こうとは考えない。誰が進んで火災に突撃するものか。つまり、ロイにはイヴのもとに行く理由があった、ということ。ここで重要なのは2つ、自らの価値を理解しているのに、なぜ他の者に任せられなかったのか? そして、なぜ事態が収拾するまで待てなかったのか?)
……他の者に任せられない。
…………頼れる人がいない。
………………任せられない、頼れない理由、縛りがある。
……………………普通に考えるなら、それは重大なモノのはず。
「~~~~ッッ、クリスティーナ!」
「は、はい! なんでございましょうか?」
叫ぶようにエルヴィスはクリスティーナを呼ぶ。
彼女はビクビクしながら返事するので精一杯だった。
「ロイを生き返らせた時、オレはあいつの前世の事情を少し口にしたから、キミも察しているだろう! オレはロイが異世界出身であることを本人から聞いた! その上で訊く! ロイはもしかして異世界関連のことが起きて、イヴのもとに行ったんじゃないか? 恐らく、オレもキミも、あいつから聞いた異世界の情報の内容は一緒のはずだ。全て包み隠さずに答えてほしい!」
すると、クリスティーナはいきなりエルヴィスがバルコニーから現れた背景をある程度察したのだろう。
結果の動揺、戸惑いの表情から、真剣な顔付きになり、全てを告白する。話し始める。
「ご主人様はとある推測に行き着いたのでございます」
「とある推測?」
「イヴさまの頭には、異世界知識が詰まっている、という推測でございます」
「なら、この魔王軍の敵襲は……っ!」
「その可能性に辿り着いた結果、魔王軍はイヴさまを連れ去って未知の書物が眠る宝物庫として扱うか、異世界知識が七星団に利用されないように亡き者にするか、そのような敵の意図を察し、先刻述べさせていただいたとおり、ご主人様はイヴさまのもとへ行かれました」
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