ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章6話 10時21分 シーリーン、心が壊れ、る……?(3)
4章6話 10時21分 シーリーン、心が壊れ、る……?(3)
「なん……でぇ……?」
「んぁ?」
「なん、でぇ……、えぐっ……、ジェレミア卿、がぁ……、スン、ひぅ、~~~~ッ、ぅぅ……七星団の……、ぐすっ……、入団試験にぃ……?」
「ふぅ、オレはロイのせいで評判が地に落ちたんだよねぇ。貴族なのは変わっていないのに。社会で通じる肩書きを失ったわけじゃないのに、たった1回の敗北で」
未だに肩書きばかりを前面に押し出して、中身がまるで伴っていない。
本人が微塵も反省、成長していなかった。
「男友達もいなくなったし、女の子もオレを遠ざけるようになった。特に女の子の方は最悪でねぇ、このオレの方からホテルに誘っても拒絶するんだぜ?」
「そ、っ、それ、が……ぁ……、なんで……、どうして……、入団に、繋がるんですかぁ……?」
「理由は2つある。1つは七星団に入団して、ロイの評判をあらゆる手段を使って落とすこと。つまるところ、復讐だ。オレは本来、ロイよりも優秀だからねぇ。ロイに言い訳の余地を与えないために、いずれオレが挙げる戦果と、今までのロイの戦果を比べて、それで、やっぱりロイは大したことないな! ジェレミアの方が優秀だな! って、周囲の認識を変えるやり方でもいい。あるいは、たとえ言い訳の余地を与えても、代わりに疎外感を与えるために、貴族という立場を利用して、いろんな団員の事情に圧力をかけ、ロイと関わらせないようにする、っていうのもアリだ」
完璧に間違っていた。
まず魔王軍の幹部を倒すというのは、特務十二星座部隊の一員でも滅多に挙げることのできない戦果だ。大隊長クラスはもちろん、連隊長クラスの団員でさえ、魔王軍の幹部を討つことは運というか、巡り合わせに恵まれないとまず不可能である。
無論、いかに幻影魔術を使えようと、ジェレミアでも難しいことは言わずもがなだ。
加えて、ロイに疎外感を与えるというのも不可能だった。
なぜならば単純に、ロイはすでに貴族どころか王族だから。
だが、今に限って言えば、ジェレミアの発言の間違いなんて、特に意味を持たない。
間違っているか否かなど関係ない。ジェレミアはそれを大真面目に言っているのだろうが、どちらにせよ、シーリーンの心をへし折るのには充分すぎるやり取りだった。
「それで……、ぐすっ……、2つ目の理由は?」
「父さんの意向でねぇ。田舎者に負けて家の名前に傷を付けたから、それを帳消しにするほどの偉業を達成して、汚名返上しろってさ。まぁ、一種の罰かな」
「罰……」
「ア――ッハッハッ! 父さんもバカだよねぇ! オレは幻影魔術を使える天才なんだぞ? こんなの全然、罰のうちに入らないと思わないかい? 入団して初めて気付くこともあるだろうとか言っていたけど、この試験はもちろん、入団しても楽勝だよねぇ!」
哄笑するジェレミア。
完璧に軍事力を持つ組織というモノ――否――それ以上に人生というモノを舐め腐っていた。
彼の頭の中ではともかく、現実でそんなに上手くいくわけがない。
仮に合格しても、むしろ彼の普段の態度は上官や先輩からの反感を間違いなく買う。ゆえに、他の人の普通よりも厳しい生活が待っているというのに――。
「さて」
「…………ッッ」
「ご主人様を騙そうとしたお仕置きだ。幻影魔術を使う。まぁ、オレだって殺すつもりはない。だから逃げる必要はない。キミが生き延びようとしたのだって、本当は死体じゃなくて、温かくてやわらかい自分をオレに捧げたかったからだろう? そう言え。そう思い込め。もう一度言ってやる。安心しろ、殺しはしない。だから逃げるな」
「あ……、ぁ……、っ」
「
瞬間、ジェレミアの周囲に時属性の魔力と空属性の魔力が渦巻き始める。
魔力とは本来、目に見えるモノではなく、魔力覚という皮膚感覚の一種で認識するモノだ。
「
しかし、目の前のジェレミアが支配下に置く魔力は違った。
あまりにも濃度が高い魔力は唸るような音を響かせて、魔力は術式となり、術式は魔術となり、その魔術は――いざ、煌々と瞬き現実を侵食する。
「
脳が、神経が混線する。
まるで脳の発達が未熟な子どもに共感覚の傾向が現れやすいように、肌で感じるべきモノが視えて聴こえる。
「いや……、いや……気持ち悪い……、助けてぇ……ロイくん、助けてよぉ……」
泣いても相手の劣情を煽るだけで、命乞いしてやめてもらっても、それ以上に酷い未来しか待っていない。
助けてくれる人などどこにもいず、救いなど絶無の一言。願いも祈りも戦場ではなんの役にも立たず、勇気など闇に消えた。
悪夢よりも残酷で、地獄よりも悪辣。
希望を夢見る分だけ、シーリーンは否応なしに絶望的な現実を強く意識する。
それはジェレミアにとって極上の餌だった。
シーリーンの冷や汗も、涙も、血も、そして絶望も、彼にかかれば所詮、舌の上で転がすためだけのモノにすぎない。
絶望の楽園で悪名高い幻影のウィザードは
そして今――、
「…………っ、え、っ、詠唱、追憶!
「
ほとんど反射的に魔術を発動して、シーリーンは自分とジェレミアの間に壁を作った。
そう、【幻域】が完成する前に、シーリーンの魔術防壁が展開を完了したのである。
だが――、
――それはただの【光り瞬く白き円盾】ではなかった。
「なんだ!? この純白の【光り瞬く白き円盾】は!? 透明じゃないだと!?」
突如、目の前に現れた圧倒的な白い壁。それはまるで天使の羽のような純白だった。ではないか。
本来の【光り瞬く白き円盾】はガラスのように透明なのに、目の前のこれは向こう側を見せてくれない。向こう側の匂いはもちろん、音さえも遮断されていた。
「なるほどねぇ、簡単に取り返しがつきそうだし、流石にこれは正直に認めよう。オレのミスだ。馬車の中でアリスあたりが入れ知恵していたようだねぇ。いくら五感で捉えられる範囲が【幻域】の有効範囲とはいえ、人間の感覚の80%以上が視覚だ。聴覚は7%だし、嗅覚に至っては2%。そして視覚の感覚器である眼球は光を脳内の信号に変えて、生き物に世界を見るという方法で認識させてくれる」
つまり――、
「光に対する光の障壁……。この魔術が吸収よりも拒絶に向いている以上、色を付けるよりも、光を拒絶する方が本来の用途に近いからねぇ。まぁ、手鏡かなにかから着想を得たか? そして音、つまり物質の振動も遮断している……。ハァ、これじゃあ【幻域】を使えないねぇ」
目の前を壁で覆われて、音も聞こえない。
匂いもしないし、舌か肌で直接、触れないとなにも感じてくれない味覚と皮膚感覚は論外だ。
実質、ジェレミアの【幻域】は眼球に頼りきりである。
耳と鼻が活躍する機会といえば、背後や真上など、人間の絶対的な死角に【幻域】を使いたい相手がいる時だけだ。
と、珍しく自分の弱点を認めたところで――、
ジェレミアは――、
「普通なら求めない効果を【光り瞬く白き円盾】に付与して、その上で、この城壁のような大きさ。なら――
弩ォオオオ……ッッ! と、古竜が唸るような音を木霊させる圧縮された風の槌が――いざ、魔術防壁に勢いよく叩きつけられる。
そしてその結果、地響きのような轟音を響かせて魔術防壁は崩れ砕けた。
ジェレミアだって言動が支離滅裂なだけで座学が苦手なわけではない。
ゆえに、気付いたのだ。シーリーンの実力を考慮するに、このぐらいの特殊効果を付与させたならば、本来の耐久性は失われているはずである、と。
「このオレから逃げたということは……ロイめ。やはりシーリーンを洗脳したか」
破壊した壁を超えてみても、そこにシーリーンの姿はなかった。
恐らく――否――絶対に脚をヒーリングしてみせたのである。
ヒーリングなんて早熟なら5歳以下の子どもでも覚えられる初歩中の初歩魔術だ。
いくら不登校だったシーリーンでも覚えているのが普通で、彼女が使える5つの魔術のうち、1つはこれだと、ジェレミアは推測していたが、それが今、確信に変わる。
【魔弾】。
【光り瞬く白き円盾】。
【強さを求める願い人】。
そして
これでジェレミアはシーリーンの手札を全て暴いたことになる。
「正直、いい手だったよ、シーリーン。【幻域】には詠唱が必要。けれど、【光り瞬く白き円盾】は詠唱の零砕や追憶がたやすい。確かにそれなら、発動速度という一点に置いて、たった一度とはいえ、キミでもオレを超えられる」
そして、ジェレミアは内心で言葉を続ける。
奴隷じゃなくて苗床決定、と。
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