ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ～願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む～

３章８話 ５日８時 シーリーン、悪夢と邂逅する。（１）

　あれからほんの十数分で、シーリーンたち４人は入団試験の集合場所に辿り着いた。

　そもそも、星下王礼宮城と七星団の中央司令本部は（同じ敷地内にあるというわけではないが）隣接している建物なので、移動時間が短いのは当たり前なのだが……。

　集合場所は中央司令本部の会議室の１つ。

　部屋の前方には黒板があって、それの方に向くように、横長のデスクが横に２脚、縦に１５脚、計３０脚と、そのデスク１脚につき、５脚の椅子が用意されている。

　そこにはすでに他の受験者も何人か揃っていて、中には女性も他に３人いた。

　で、シーリーンたちは仲がいいのに離れて座るのも変だったので、近くの席に座ることにする。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「ん？　どうかしましたかね？」

「確認なんだけど、戦闘テストでは、必ず相手を倒さないといけない、というわけじゃないんだよね？」

「えぇ。もちろん、倒せるなら倒すのに越したことはありませんが、相手が他の受験者ではなく、七星団の団員だった場合、素人がプロに挑むことにありますからね。本気で戦闘に臨むことは大前提ですが、あくまで、合否判定は勝敗ではなく実力そのもので下されます」

「うぅ……、５つしか魔術を使えないシィにはむしろ逆境……」

「とはいえ、それなら仮に私とシィが対戦する展開になっても、少しは安心ね。でも――」

　思わず、アリスはシーリーンのことをチラ見してしまう。

　その視線には『とある心配』が宿っていて、アリスはシーリーンを見て、その心配が杞憂に終わることを祈った。

　対して、シーリーンはその自分にだけ当てはまる心配、事情を、少なくともこの時は頭からどこかへ追いやったまま、アリスに向かって小首を傾げて――

「？　どうかした、アリス？」

「……いえ、なんでもないわ」

　と、ここでふと、シーリーンが黒板の方を見る。そこには『ここから各々、用紙を１枚ずつ取ってください』と、グーテランドの文字で書いてあったので、一度席を立ち、シーリーンは他の３人の分も取っておく。

　そして彼女が席に戻ると、全員でその内容を確認した。

「地図だよ」

「地図ですね」

「――この地図、戦闘テストで使用する山の地図だよね。縮尺は言わずもがな、崖や滝の地図記号もあるし、等高線や磁北線まで書いてあるもん」

　シーリーンの言うとおり、これは王都の城壁の少し外にある山の地図である。

　以前、花嫁略奪（第１部中編）騒動の時（４章６話）、アリスはフリーデンナハト川という川にて、ロイの目の前で泣いたことがあった。

　そして少し考えればわかることだが、川が存在するということは、その上流には山が存在して然るべきだろう。

　その山が、今回の試験で使用される戦場だった。

「ってことは、クマとか毒蛇とかの出現も想定されるわね」

「まぁ、アサルト魔術を使えば簡単に撃退できますし、根本的に肉体強化の魔術を使えば、人間でもクマ以上の身体能力を得られますからね」

「となると、やっぱり重要なのは対戦相手だよ……」

　改めてシーリーンは地図を確認した。

　だが、そこにはここがスタート地点です、みたいなことが書かれていない。

　本来なら、流石にスタート地点ぐらいは書いてあって然るべきだろう。

　しかし地図の下の方に――、

『これは一種のアーティファクトです。戦闘テストが開始され次第、受験者のスタート地点のみ光となって浮かび上がってきます。以降の座標はコンパスや太陽の位置などを参照して、各自で把握しておくこと。ただし、対戦相手のスタート地点、及び対戦相手のリアルタイムな座標は浮かび上がってきません。索敵魔術などを使用してください』

　――と、書かれてあったのだ。

　果たして、それなりの距離で対戦相手とそこそこ向き合って試験が開始されるのか。注意書きから推測できるように、別々の場所に馬車で下ろされたり、魔術で転移されたりして、索敵するところから試験が開始されるのか。

　否、そもそも――、

「どっちにしたって、索敵魔術は必要不可欠だよね。仮に向かい合って試験が開始しても、ずっと向かい合っているわけじゃないし。相手によっては、すぐに身を隠して遠距離攻撃をしてくる、って場合も想定できるし」

「ハァ……、索敵魔術は私が教えたけれど、それでもまだ、シィの使える魔術は５つなのよね……。もっと前から、私が不登校だった分の勉強を教えてあげればよかったわ」

「うぅ～～……、ゴメンね、アリス？」

　余談だが、索敵魔術以外に使える他の４つの魔術はスライム戦の時から変わっていなかった。

　初歩的なアサルト魔術である【 魔 弾 】（ヘクセレイ・クーゲル）と、同じく初歩的な魔術防壁である【 光り瞬く白き円盾 】（ヴァイス・リヒト・シルト）、そしてやはり初歩的な肉体強化の【 強さを求める願い人 】（クラフトズィーガー）と、治癒魔術の【 癒しの光彩 】（ハイレンデス・リヒト）の４つである。

「ところで、アリスさんはなんで【 黒より（シュヴァルツ・アルス・）黒い（シュヴァルツ・）星の力 】（ステーンステーク）じゃなくて、索敵魔術を教えたの？」

「まぁ、重要度が高いですからね。【黒より黒い星の力】は索敵魔術よりも覚えるのが簡単で、かつ、相手への攻撃にも使えますが、相手の位置がわからないことには、その攻撃すらも当てられませんし」

「えぇ、マリアさんの言うとおり。で、本当は【黒より黒い星の力】も教えたかったけれど、教える前に今日になってしまったわ」

　と、ここで、アリスがシーリーンに耳打ちをしてきた。

　超々々小声で。