ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章1話 31日16時 クリスティーナ、初々しい。(1)
3章1話 31日16時 クリスティーナ、初々しい。(1)
当然、魔術でも使わない限り、同一人物が複数の場所に存在するなんてありえない。
つまり、シーリーン、アリス、イヴ、マリアが学院の中庭で決意を固めていた時、彼女らが別の場所、即ち、ロイとヴィクトリア、そしてなにかあった時のために同行しているクリスティーナが歩いている王都のメインストリートには、いるわけがなかった。
そう、今、ロイとヴィクトリアは認識阻害の魔術を駆使して、お忍びデートしたいたのである。
ロイは紺色のズボンに、ブラウンの襟付きシャツという、シンプルながらも清潔感のある出で立ちだ。
一方、ヴィクトリアがゴスロリ調の服を着て、スカートを履いて、まるでお人形のようなファッションをしていた。
さらに一方、クリスティーナはハイウェストの紺色のロングスカートを履いていて、上は白のブラウスで決めており、かなり上品な感じに仕上がっている。
言わずもがなお忍びなので、(ゴスロリが庶民的か否かは謎だが)ヴィクトリアはドレスなんかを封印して、クリスティーナも、目立つのでメイド服は着ないことにしたのである。
「少し、シィたちに申し訳ないな……。隠し事をしているみたいで」
「別に事後報告しても大丈夫ですわよ? やましいことをするわけではありませんもの」
「でも、デートしているのは事実だから怒られそう……」
「もうっ、わたくしとデートしているのですから、もっとわたくしのことを考えてくださいまし! その……、……っ、ほんの少しだけ、ヤキモチを焼いてしまいますわ!」
「まぁ、そうだね。このデートには、きちんと、出会うのがみんなより遅かった分の遅れを取り戻したい、って理由があるし」
燃えるような琥珀色の空の下、ふと、ロイとヴィクトリアは歩きながら、ようやくここで互いに互いの手を繋いだ。
いわゆる恋人繋ぎというヤツだ。
「あっ、わたくしのことは無視して大丈夫でございます♪ わたくしはあくまでも護衛。まぁ、ご主人様よりかなり弱いのですが……ともかく、ご主人様と王女殿下の逢瀬に介入する気はございませんので」
と、パーフェクトメイドさんスマイルを浮かべるクリスティーナ。
まるで陽だまりに咲く健気なタンポポのように親しみやすい笑みだった。
しかし、ヴィクトリアは子どもっぽく頬を小さく膨らませて――、
「お断りですわ! 確かに本来、これはわたくしとロイ様のデート。クリス様の同行は、わたくしが王女で、どうしても外出の際に護衛が必要だったからですわ。でも! どのような事情であれ、一緒にいるのだから、仲間外れはいけないことだと思いますの! ねっ、ロイ様もそう思いませんこと?」
「そうだね。それに、いつもはシィやアリス、イヴは姉さんと遊んでいて、クリスはメイドだからか、少し控えてくれているけれど……せっかくだから、今日はクリスともいつもより仲良くなれたら、なんて思っているんだけど……迷惑かな?」
「い、っ、いえ! 滅相もありません! そ、それでは、えへへ……、僭越ながら、非常に僭越ながら、わたくしも……、その……、で、でで、デート……に、加わらせていただきます」
クリスティーナが頬を乙女色に染めて可憐にはにかむ。
そして直接ロイと手を繋ぐのが躊躇われたのか、彼の手ではなく、服の裾を、いじらしくチマッ――と、彼女はつまんで、そして恥ずかしさのあまり俯いてしまう。
が、ここでロイはいったん、クリスティーナの手をなるべく優しく振りほどいて、しかし、改めて彼女と恋人繋ぎをしてみせた。
ハッ、と、クリスティーナが顔をあげる。そんな彼女にロイは――、
「えっと……ほら、こっちの方がデートっぽいかな、って」
「~~~~っ」
クリスティーナは赤面しながらも、コクンッ、と、小さく頷く。
「にしてもロイ様、いきなり手を繋いで、拒絶されたらどうするおつもりでしたの?」
「まぁ、先にボクの服の裾をつまんだのはクリスだし、だから大丈夫かな、って」
「ぐぬぬ……、論破されてしまいましたわ……」
そんなやり取りをしながら、3人は仲睦まじく王都のメインストリートを闊歩する。
が、その途中で、ヴィクトリアはあることに気付いた。なぜかクリスティーナの顔が、未だに赤いままなのである。
(恐縮している、って感じではありませんわね。顔は強張っていない、むしろ、少し嬉しそうにニヤけておりますし。でも、やはり顔はほんのり赤いまま)
そして、ヴィクトリアはついに察してしまう。
が、別にそれを咎めるわけでもなく――、
(まぁ、アリス様が以前、ロイ様を好きという気持ちが同じなのに、わたくしの気持ちを理解できないはずがない、みたいなことを仰いましたが、それと同じですわね。わたくしもロイ様のことをお慕いしておりますのに、クリス様のロイ様をお慕いする気持ちがわからないわけありませんわ)
次に――、
(それにしても、身分差の恋ですわね。でも、それも仕方がないことですわ。いけないこととわかっていても、仮に相手がロイ様でなかったとしても、愛している相手にはそれを凌駕してしまう魅力あるんですもの。それにロイ様の場合、外見だけではなく、内面も優しいですし、明るいですし、親しみやすいですし、カッコいいですし)
続いて、最後に――、
(けれど――まだ、自覚はないようですわね)
そう、ヴィクトリアが察したとおり、まだクリスティーナには、自分がロイのことを愛しているという自覚がなかった。
そして、なぜこのタイミングでクリスティーナのロイに対する恋心が表層化したかといえば、当たり前だが、彼女は今まで、彼とデートしたことがなかったからである。
主人とメイドではない。
ロイとクリスティーナが初めて男の子と女の子として街を歩いたのが、今日なのである。
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