ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章10話 アクアマリン月の31日 シーリーン、アリス、イヴ、マリア、決める!(2)
2章10話 アクアマリン月の31日 シーリーン、アリス、イヴ、マリア、決める!(2)
ハッとシーリーンは息を呑む。
一方でアリスは(ついにこの時がきたのね)と内心で受け入れて、マリアは最年長者として、自分に直接訊かれるまで、話の成り行きを静かに見守ろうと決める。
そして、イヴはまず、すでに答えを言葉にしているアリスに会話の矛先を向けた。
「と言っても、アリスさんは――」
「えぇ、このとおりよ」
ここは学校だ。当然、勉強に必要な一式をカバンに入れて毎朝持ってきて、放課後になるたびに持ち帰っている。ゆえに現に今も、4人の椅子の脇には、4人の通学カバンが立てかけられていた。
そして、アリスはそのカバンから4枚の用紙を取り出した。
「七星団の入団試験の申し込み用紙よ。イヴちゃんは入団するって言ったけれど、それは決意の話。イヴちゃんなら合格は確実だと思うし、セシリアさんもそれを踏まえた上で誘ったんでしょうけれど、まずは試験を受けないことには始まらないわ。で、1枚には私の名前とか住所とかをすでに書いてあって、残りの3枚はイヴちゃんたちの分」
「やっぱり、持っていたんだね」
「個人的な入団する覚悟は前々から言っていたとおり、すでに固まっていたわ。でも、抜け駆けするような形になるのがイヤだったから、ちょうど、ここに集まった3人にも入団の意思を確認しようと思ったのだけれど……」
「……まぁ、普通は訊きづらいですよね。死ぬかもしれない組織に入る気はあるか、なんて」
と、マリアがアリスの発言を先回りして、言葉を濁しそうになった部分を代わりに言ってあげた。
色恋沙汰の延長ではすまされない。七星団に入るということが本来、どのような意味を持つのかを、キチンと共通の認識にしておくために。
「で、問題はシィよね」
「うぐ……、だ、だよね……」
「シィは使える魔術、4つしかないんでしょ? 反対しているから、その根拠を挙げているわけじゃない。戦うにしても待つにしても、決断する以上、認めなければならない事実、判断材料として――不登校だったから知識も少ない。講義で対人戦闘、実戦演習の単位を取得できたわけでもない。魔術が4つしか使えないのは今言ったとおりだし、かといって、レイピアやサーベル、バスターソードはもちろん、初心者向け、子ども用のナイフだって、戦闘行為で使えるほど扱えるわけじゃない」
「アリス……」
「反対しないのは今言ったとおりよ。シィの意思はシィのモノだから。でも――親友だもの。死んでほしいわけでもない」
「――――」
「シィが試験を受けたいって言うのなら、一緒に申し込むし、私もできる限りシィとは切磋琢磨したい。けれど――――ゴメンね、シィ。今から言うことは私のエゴだけど、嫌われることを承知で言わせてもらう。仮に試験に受かって、そのまま入団するのは正直、一言でいうならば、無謀。そのことを、知っておいてほしいの」
別に、アリスはシーリーンのことを突き放しているわけではない。
むしろ、シーリーンにとって過酷な現実を突き付けてはいるが、彼女のことを心配してこう言っているのだった。
無論、シーリーンだって子どもではない。
アリスの厳しい言葉の裏に秘められた優しさには気付いている。
そして、シーリーンは無言になる。
と、そこで、アリスに続いて声をかけたのはイヴだった。
「言うまでもないことだけれど、徴兵を例外として、試験に受からないと正式な入団はできないよ? その徴兵にだって一定の基準があるし、お兄ちゃんは戦場で最大級の戦果を挙げたから、例外として正式に入団できただけ。でも、その試験だって充分に過酷なモノになると予想できる。とはいえ、少なくともわたしは落ちることを別に不幸なことだとは思わないんだよ」
「不幸なことじゃない?」
「なんたって、正当に判断されてそういう結果が返ってきただけだからね」
「――――っ」
「そりゃ、自分から進んで試験を受けて、それで不合格になったら、落ち込むようなことだとは思うよ? でも、これは学校の入試や、なんかの免許の試験じゃない。実力が足りていないのに戦場に行くよりは、よっぽど幸せなんだよ。不幸なことというよりは、後悔するようなこと、だと思うよ? もっと試験に向けて頑張っておくべきだった、って」
「それは、シィにもわかるよ……。戦争なんて、本当は誰もしたくないんだし……」
「だから、シーリーンさん。少なくともわたしは無理強いしないよ。アリスさんが言うように抜け駆けしたくなかっただけだから、断ってもいい。それに、わたしもけっこう好き勝手に言っているけれど、申し込んで試験を受けても、絶対に合格できる、あるいは絶対に落ちるって断言はできないよ。だから、一度受けてみて、正しい判断は試験官にしてもらう、っていうのでもいいよ思うよ?」
「つまり、なにが言いたいのかな?」
「つまり、重要なことは1つだけ」
「――――」
「――シーリーンさんがシーリーンさん自身の意思で決めなければならない。他人の意見を参考にするのは全然いいし、わたしだって、お兄ちゃんやお姉ちゃんに相談した。でも、他人の言葉を自分の答えにしちゃいけないと思う。命の奪い合いをする戦場に出るんだもん。責任を他人に押し付けちゃいけない、ってことだよ」
すると、シーリーンはフッ――と、口元を緩ませた。
責任を他人に押し付けてはならない? おかしくて笑いが出そうだった。
誰が責任を他人にやるものか。
入団に関する責任が全て自分のモノだからこそ、自分は最愛の人のためにここまでやってきたんだ! と、胸を張れるのではないか。
戦場に出る以上、シーリーンだって誰かを殺す時がくるだろう。
というより、彼女はすでにスライムを、キチンと言語で意思疎通できた相手を殺している。
人殺しなんて本当は当然、社会を成す生き物としてやってはいけないことだ。
だが、だからこそ、やるならやるで自らの意思でやらねばならない。命令を下す上官がいる作戦行動中ならいざ知らず、「そもそも試験の時点で本当はイヤだったけど、周りに言われたから申し込みました」では、シーリーンはロイに顔向けできなくなってしまう。
ゆえに――、
「ここまで心配してもらってアレだけど、シィの答えは変わらないよ」
「「「――――」」」
「シィも入団試験を受ける!」
「シーリーンさん――――」
「それに、ホラ、イヴちゃんもいろいろな可能性、発生しうることをできるだけ提示してくれたでしょ? たとえば、シィが実力不足でも、それはシィの主観だから、正当な判断を試験官さんにしてもらう、とか」
言うと、シーリーンは「えへへ」とはにかんでみせた。
ということで、これで4人中の3人は決まったことになる。
となると、最後に覚悟を問うべきはマリアだけだった。
「それで、お姉ちゃんはどうする?」
「――――」
「入団試験を受ける? 受けない?」
実の妹が真剣な目で自分のことを見てくる。マリアには逃げることが不可能だった。
が、そもそも別に、逃げようとは思っていない。目を逸らすのは『前回』だけで充分だった。
「わたしは1つ……自分でも情けないなぁ、ってことを、ツァールトクヴェレで経験したんですよね」
「情けないと思うこと、ですか?」
シーリーンの確認にマリアが頷いて肯定する。
前々から、それこそ王都に戻ってくる前から、自覚していたことだった。自分は情けない。自分はカッコ悪い。自分で自分を見ていられない。
一種の劣等感のようなモノだろうか。しかし、その劣等感は他人に向けられたモノではなく、自分に向けたモノである。
あいつばかり強くて妬ましい! という八つ当たりに近い気持ちよりも、わたしはなんてダメなんだ! という自分を責める気持ちの方が強かった。
もう、見ているだけは、イヤだった。
自分が弟と妹よりも劣っていることなんてわかっている。ただそれでも、いつかキチンと2人を守れるお姉ちゃんになりたかったのだ。
「魔王軍の手先が弟くんの別荘に襲いにきた時、わたしは……、姉は……っ、実の妹が戦っているのに、別荘で指を咥えて傍観しているだけでしたからね……ッッ」
「お姉ちゃん……」
「もちろん、わたしよりもイヴちゃんの方が強い、っていうのは理解しています。それも僅差ではなく、次元が違うと言っても過言ではない圧倒的な差が、いつの間にか、わたしとイヴちゃんの間に生まれています」
「「「――――」」」
「それでも、自分で自分を情けないと思ってしまったんですよね。戦力で劣る自分が前線に出るべきではない。あれは確かにお利口さんな判断でしたが、二度としたくありません……っっ! わたしだって、戦場に出られるぐらいには強くなりたい!」
「なら――っ」
イヴが身を乗り出してマリアに続きを急かす。
そしてマリアはこの話で決まったことをまとめるように――、
「えぇ、わたしも入団試験に申し込みますね。ここにいる全員で試験を受けて、叶うのなら、全員で弟くんの待つ戦場へ行きましょう!」
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