ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章5話 アクアマリンの月27日 アリシア、今後の戦争について話す。(1)
2章5話 アクアマリンの月27日 アリシア、今後の戦争について話す。(1)
そうして後日、ジュリアスとカミラはアリエルとシーリーンの両親との会談を終えて、何事もなく故郷の村に馬車で帰っていった。
そして、1年が始まって3番目の月であるアクアマリンの月の27日、木曜日の夕方、ロイは星下王礼宮城ではなく、七星団の中央司令部のとある一室を訪れていた。
その部屋は学院の講義室と同じぐらい広い。
天蓋付きのベッドに、部屋の中央にはガラス張りのデスクと、まさかの7人がけぐらいのソファが3脚もある。床には紅のカーペットが敷かれていて、天井には豪華絢爛なシャンデリアさえあった。
中央司令部の上から数えた方が早い階層にある部屋ゆえに、窓の外には王都、オラーケルシュタットの街並みが広がっている。
そんな圧倒的な部屋の窓際で、椅子に座りながらロイと対面しているのは――、
「ふぅ、だいぶ闇の浸食が収まってきているようで、よかったです」
「うわぁ……、闇のチカラを宿した左腕に、それを抑えるための包帯を巻くって、すごく中二病っぽい」
「まぁまぁ、これにはちゃんとした理由がありますし、気にしたら負けですよ」
「っていうか、この国にもあったんですね、中二病って概念……」
――あの【金牛】のアリシアで、彼女は今、ロイの左腕に包帯を巻いてあげていた。
しかし、それは市販されているただの包帯ではない。
確かにもともとは市販されている包帯だったのだが、あのアリシアが光の魔術を内包させて、一種のアーティファクトと化したモノである。
アーティファクトとしての効果はロイの言ったとおり、闇のチカラを抑えるというものだった。
「なんか、すみません……」
「? なにがですか?」
と、幼女姿のアリシアが小首をキョトンと傾げた。
実年齢のままの姿ではない、ということもあってか、その所作はやけに
「いえ、特務十二星座部隊の方の直々の治療なんて、受けたくても受けられない人が山のようにいるはずですし……」
「お気になさらず。これは私の尻拭いでもあるのですから」
「尻拭い?」
「単純に、私はあの死霊術師に後れを取ってしまいましたから……。まぁ、結果的には勝てましたが、要はそのツケを少しでも返していかないと、ということです」
つまるところ、アリシアは悔しかったのだ。
たとえ20歳を超えていても、特務十二星座部隊の一員でも、人は人で、エルフはエルフで、それ以上でも以下でもない。
出し抜かれたら悔しいし、罠にハメられたら憤る。
その出し抜かれて、罠にハメられたことで発生した損害を、アリシアは今、1つでも補おうとしていたのである。
「それに……ロイさんには一番迷惑をかけてしまいました。戦場で死ぬ可能性がゼロということはありえませんが、それでも、私のミスで部下が傷付くのは、いつだってイヤなモノです。まして、ロイさんは一度、本当に死なせてしまいましたし……」
「ミス……。そういえば、スパイって結局、どうなったんですか?」
「近いうちに、七星団全体でスパイ掃討作戦が実行されます」
「はい」
「ですが、これはほんの一部の団員しか知りません。当然ですよね。七星団全体に、スパイ掃討作戦を実行します~、なんて告知したら、対策を打たれてしまいますし。というわけで、勝手に話しておいて恐縮ですが、ロイさんには例のごとく守秘義務を要求させていただきます」
「えぇ、理解しているつもりです」
「そして、その作戦で一番重要なのはやはり人選です。スパイ本人をこの作戦に参加させてしまいましたら、調べる側が、調べられる側にいるはずのスパイを見逃す~、ということも発生してしまいますので」
「前途多難ですね」
「ですので、今回の作戦の人選は少々特例になりそうではあります」
「と、言いますと?」
「七星団の中にスパイがいる。なら、新しく入ってきた人をこの作戦のメンバーにすれば、メンバーの中にスパイが紛れ込む可能性は低くなる、という理屈です」
確かに、その理屈は理解できる。中に問題があるから、解決してくれる人を外から呼ぼう、というのは理に適っている。
しかし問題がないわけではない。むしろ、問題は他の作戦と比較して多いとさえ言えるだろう。
「いいんですか、それで? ボクもまだまだ新入りですが、ボク以上の新入りに、そんなデリケートな任務を与えて」
「国王陛下、そして七星団に対する忠誠という意味なら問題ないということになっております。そもそも、入団テストを受ける時点で、国に尽くす相応の心を持っているはずですし」
「で、本当のところは?」
「キチンと試験の段階で調査して、ダメならそこで落とします」
「なら実力という意味でしたら?」
「それも問題ありません。作戦名に掃討という言葉が付いていますが、まずは調査しないことには始まりませんからね。黒を黒と、白を白とハッキリ認識、判別できた状態で、そこでいろいろと外堀を埋めてから、白が一斉に黒を潰す、というやり方を取るそうです。で、新入りに任せるのはその調査、と」
「なるほど、調査以降にメンバーを増やす。で、調査だけを新入りにやらせる、ということですか」
「そして、スパイ掃討作戦の次の作戦も、すでに参謀指令本部では思案中とのことです」
「次の作戦?」
「冷静に考えてみてください。ロイさんならわかるはずです」
期待を込めた目で、アリシアは座高の都合もあり、ロイに上目遣いをする。
対して、ロイは前から答えに勘付いていたので、別段、臆する感じもなく、シンプルに答えた。
「――逆、ですよね?」
「――――」
ロイの回答にアリシアは言葉を出さない。
ただ、ロイに視線で続きを促すだけ。
「スパイなんていたら、なにも知らない人は七星団を無能と思うかもしれませんが、それは大きな間違い。戦争なんですから、スパイなんて、まぁ、いないに越したことはありませんが、現実問題として、いて当然です」
「つまり?」
「次の作戦というのは、七星団の方が魔王軍にスパイを送り込む作戦、違いますか?」
確認を求めた割に、ロイの言葉は自信に溢れていた。
ここまで言い切られたら、アリシアも降参するしかない。
「流石ロイさんです。状況を落ち着いて分析できていますね」
「ありがとうございます」
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