ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章4話 21時13分 ロイ、親の心、子知らず。
2章4話 21時13分 ロイ、親の心、子知らず。
約1時間後――、
当初の部屋にきた目的どおり、ジュリアスとカミラの2人はシーリーンとアリスと談笑をして、そしてそれを終えた。
無論、2人の子どもであるロイ、イヴ、マリアの3人も会話に混じったし、先ほどは国王陛下の前で萎縮してしまったが、ヴィクトリアとも、夕食の時よりは義理の娘として親しげに会話することに成功している。
そしてシーリーン、アリス、イヴ、マリア、ヴィクトリアに見送られながら、ロイはジュリアスとカミラと一緒に部屋を出て、2人に用意された寝室まで案内することにしたのだった。
いつの間にか部屋の外で控えていたクリスティーナが「わたくしがご案内いたします」と言っても、ジュリアスとカミラが「ロイに案内してもらうから大丈夫です」とやんわり断ったのだ。
そして件の用意された寝室の前で――、
「ロイ、1つ、母親としてあなたに、言いたいこと、明確にしておきたいことがあるわ」
「? 言いたいことって?」
訊き返すロイ。
特に自分が改まって言われるようなことに、心当たりがなかったからだ。
しかし、カミラはゆっくりとロイに近付いて――、
また、ジュリアスの方は別段、カミラのしようとしていることに口を挟まないで――、
――パンッ、と、他の人は誰もない廊下に、その乾いた音は響いた。
「なん、で……?」
ロイは呆然とするしかない。彼が自分は母親に頬を叩かれたんだと気付けたのは、数秒も経ったあとだった。
見ると、カミラは悔しそうに涙を一筋、流している。
「ようやく、誰もいなくなったわね……」
「――――」
「ずっと我慢してきたわ。本当はずっと、再会したら真っ先に言おうと思っていた……っ」
「――――ぇ」
「……っ、ロイ? 確かにあなたは王国の国民として、誰よりも素晴らしいことをしたと思うわ。敵国の幹部を討つなんて、実際に英雄と褒め称えられても、なんら不思議なことではないと思うわ」
「なら……」
「ッッ、でもね? でもね? わたしたちにとって、あなたは七星団の騎士である前に、わたしたちの息子なのよ? あなたの上官は、人である前に七星団の騎士、なんて、わたしたちとは真逆のことを言うかもしれないけれど――わたしたちにとってはそうなのよ」
「母さん……」
震えた声で、しかし気丈にカミラは言い切った。握りしめた拳は、爪が痛々しいほど肌に食い込んでいる。
しかしそれだけで、親なのにロイになにも手助けできなかった自分の無力感を、カミラは上手く発散できない。
「そうだな、ロイ。あまり手を挙げるのはよくないが……母さんの言うとおりだ。息子に死んでほしい親なんてどこにもいない。オレも、そして母さんも、お前が一度死んだって聞いた時、膝から崩れ落ちて、自殺を考えるほど泣いたんだからな?」
「父さん……」
「確かにロイは世界のためになることをしたのかもしれない。でもな? 人の親なんて、世界よりも、自分の子どもの方が大切なんだ。大きいんだ。重いんだ。ロイがいなくなったら、ロイのいるオレたちの世界はもうなくなってしまうんだ」
「…………っ」
「頼む、ロイ。身勝手なことは百も承知だ。世界よりも個人の方が大切なんて、バカげているのは言われなくなってわかっている。それでも……っ、理屈じゃないんだ。感情なんだ。お前が死ぬぐらいだったら、世界なんて救えなくてもいい。そんな酷いことを、平気で思えてしまうから、親は親なんだ」
カミラのように泣きはしない。声も震えていないし、拳を握りしめているわけでもない。
だが、それは男親としてのプライドだった。ここで、息子と妻の前で、自分まで情けない姿を見せるわけにはいかない。そういう類のただ父親として当たり前の強がり、虚勢で、それ以上でも、それ以下でもなかった。
「父さんと、母さんは、ボクに七星団を抜けてほしいの……?」
なんて、彼にしては珍しく察しが悪いことを、ロイは訊く。
それに首を振って答えたのは、カミラではなくジュリアスだった。
「そうは言っていない」
「なら――」
「オレたちはロイの親として、ロイにはカッコよく育ってほしい。
「それは、わかるけど――」
「なら、単純だろう? 七星団で活躍すれば、最初の5つは全てクリアされる。あとは、絶対に死ななければいいだけの話だ。いいか、ロイ?」
「? なに?」
「誰かを助けることは確かに立派だ。だが、自分の安全さえ確保できないヤツに、その資格はない。決して忘れるなよ? お前は昔から真面目だからこそ、こういうところで物分かりが悪いんだ」
と、ここでようやく、ジュリアスがニッ、と、笑った。
ロイがカミラの方に確認の意味を込めて視線を送ると、彼女も、ようやく落ち着いた雰囲気になっていて、静かに頷いて夫の言うことを肯定する。
「まぁ、散々言っておいてアレだが、オレたちだって、七星団で活躍することの凄さを理解してないわけじゃないんだぞ?」
「本当に?」
疑っているわけではないが、軽い確認の意味を持たせてロイが問う。
すると、今度はジュリアスではなくカミラが――、
「二律背反という言葉、ロイも知っているでしょう?」
微妙に矛盾ともジレンマとも違うその言葉。
つまりカミラは、同じくジュリアスは、ロイに死んでほしくないのに、死ぬ可能性のある職業を素晴らしいと思っていて、息子には頑張ってほしい、そんな無茶苦茶なことを感じているのである。
とにかく、カミラから二律背反という言葉を聞くと、ロイは困ったように笑って――、
「ゴメンね、そんなややこしいことにしちゃって」
一応、謝罪するロイ。
しかしすると、ジュリアスはロイに近付いて、彼の頭を強引に、しかし親しみを込めて、ワシワシと撫でてあげた。
「気にするな! 子どものことで矛盾を抱えるのは、親にとって当たり前のことだ! ロイはただ、死ななければいい! 生きていればいい! この戦争の時代に、それ以上は望まない! あとは七星団で活躍するにしても、分野を変えてマリアみたいに魔術の研究をするにしても、好きにすればいい!」
「あはは……、姉さんにも最初からそう言ってあげればよかったのに」
「いいのよ。今日、最終的には認めてあげたんだから」
と、最後にカミラがロイに突っ込んで、3人の会話はひと段落する。
続いて、ロイは両親が寝室に入ったのを確認して、そして廊下を歩き始めてから思いを馳せた。
やっぱり、最強にならなくちゃ、と。
最強とは即ち、最も強い、ということ。
世界で一番強ければ、誰かに倒されるということもないのだから。
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