ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章9話 アクアマリンの月21日 アリシア、気付いていた。(2)
1章9話 アクアマリンの月21日 アリシア、気付いていた。(2)
「とにかく、私を貶める、あるいは殺すにしても、ロイさんの方を殺すにしても、やり方が非常にお粗末。より的確な言葉に言い換えるならば、詰めが甘すぎる」
「確かに、わざわざ戦闘前にスパイを2人も使うなんて真似をしているのに、最終的には功績を挙げられてあらへんもんな。アリシアさんは魔術に制限がかかったけれど、ヒーリングで傷を塞いだし。ロイさんも最後の最後で王族になるってやり方で助かったし」
「魔王軍の連中は敵というだけで頭が悪い、というわけではありません。むしろ王国と長年にわたり戦争状態にあり、それでも体制が崩壊していないところを鑑みるに、それ専門の天才や秀才、軍師や政治家も多いと見て損はないでしょう」
「それで? そろそろ話が
すると、アリシアはコホン、と、幼女の姿に相応しい可愛らしい咳払いをする。
そして身長の都合で、イザベルを見上げる形で――、
「先延ばしにしていた結論を申し上げますと、私は1つの可能性に行き当たったんです」
「ほぅ?」
「即ち、イザベルさんは後方支援として手を抜いたわけでも、まして裏切り者でもないけれど、わざと、なんらかの運命操作をロイさんに施した」
「――――」
「恐らく、ロイさんを王族にするために」
以上こそ、アリシアが出した答えだった。
すると、イザベルは「ぷっ、っ、あは、はは……」と笑いをこらえきれなくなるも、しかし、流石にここで爆笑するのはどう考えてもヤバイと思ったのだろう。なんとか数秒をかけて笑いを噛み殺し、そして落ち着いてからアリシアに言う。
「正解や」
「――――」
「おや? ウチはアリシアさんに、悪意や敵意はあらへんでしたけど、結果的にはハメるような真似をしてしまったんですよ? 実際に殺さないどころか、殺意すら向けないんですか?」
「まぁ、確かに減給されそうになりましたが、私のところだけに魔王軍幹部が現れて、死者が出るのは免れなかった、ということで結局、お給料は減りませんでしたので。もちろん、階級にも影響はありませんでした」
「いやいや、そういうことを言っているんやあらへんで。実際に被害が出たか否かは問題ではなく、大なり小なり、なんらかのリスクを想定できて、なのに行動に移した、ということが問題じゃあらへんか? ちゅーか、アリシアさんはともかく、ロイさんには被害が出ていますし」
「私はともかく、アリスたちが知ったなら、どんなにあなたが格上でも殺しにくるでしょうね」
「おっかない妹さんやなぁ」
と、イザベルはロイに魔術を施した過程や理由はどうあれ、死をもたらした運命操作をしておきながら、愉快そうにケラケラ笑う。
また一方で、アリシアもロイのことを気に入っているはずなのに、イザベルに対して特に嫌悪感を抱いてはいなかった。無論、逆に好感を抱くこともなかったが……。
「イザベルさんはご自分の占星術に自信をお持ちですか?」
「当然や」
「自分の占星術が失敗するなどありえない、と」
「いや、失敗する可能性は常に付きまとう。それは魔術の基本や。けれどな、失敗することを言い訳に行動を起こさないってーことは、ウチはせーへん。無論、失敗しないように万全を期すのは当然やが」
「だからこそ――」
「――せや、ロイ・モルゲンロートに運命操作の魔術を施した」
瞬間、2人の間に風が吹き抜ける。
そして十数秒の時が流れた。
アリシアとイザベルは無言を貫く。
で、だ。
「イザベルさん、あなたのやったことは理解しました。少なくとも私はあなたのことを咎めません」
「ほぅ、怒られなくてひと安心やわ」
「しかし、です」
「うん?」
「やったことは理解しましたが、なぜ、どんな理由でやろうとしたのかの説明はまだ、ですよね?」
すると、イザベルは中央司令部の屋上から王都の青い空を見上げる。
そしてそのまま――、
「神様からのお告げや」
「…………ッ」
「? どうしたんや?」
「い、いえ、なんにも。ただ、アカシックレコードにずいぶんと簡単にアクセスできるようになったんだなぁ、と」
必死に動揺を押し殺すアリシア。
そんな彼女に対して、イザベルはキョトンと不思議そうな顔をするばかりだった。
神様、アカシックレコード、その他には大いなる世界の意思や、集合無意識や、万象の真理や、宇宙の根源と呼ばれている人智と超越した存在。
それについて、よく研究しているのはイザベルの方でも、親しみがあったのはアリシアの方だった。
アリシアは『それ』がしたことを知っている。
それがあのロイ・モルゲンロートを転生させたのだ。
その事実をイザベルは知らないだろうが、とにかく、その本人が彼女になにかを告げたらしい。
ならばきっと、そこに間違いはないのだろう。
「簡単なもんかいな。なぜかあの時は上手くいったんや。感覚としては、むしろ向こうから勝手にこっちにきてくれた感じやったな」
「なるほど……」
「こっちはアカシックレコード経由で、ロイ・モルゲンロートの重要性を漠然とやが察してきた。けど、アリシアさんの妹さんは確か、ロイさんと婚約なされておりましたよね? ということは――」
「――えぇ、私も大なり小なり、アリスからロイさんことを伺っておりましたので、こうして行動を起こしました」
アリシアはロイから直接転生のことを聞いたが、別にウソを吐いているわけではない。
アリシアはロイとアリスが結ばれた時、会話することはなかったが、手紙で彼女から彼のことを聞いていた。つまりこれだと、イザベルがウソを見破る魔術を使用していても反応しないことになる。
「それで、神様にはなんて言われたのですか?」
「ただ1つだけ、ロイ・モルゲンロートを王族の仲間入りさせろ、とだけ」
「!? 待ってください! ならイザベルさんは――っ」
「ハッハッハッ、なんや、今頃になって気付いたんか? せやで。ウチがロイさんに施した運命操作はたったそれだけ。運命操作っちゅーのは、強大すぎて、そこまで融通、小回りが利くモンやないんや。つまり、ウチはロイさんを王族にしたが、その過程にまでは干渉しておらへん」
「つまり、たまたまロイさんが死んで、彼を生き返らせるために姫様が彼と結婚したが、他の過程、異なるルートも可能性としては存在していた?」
「せや、流石にロイさんが死んだって報告を受けた時は、ウチが失敗した!? って焦ったが、すぐに死んだ状態のままお姫さんと結婚するって聞いて、ひと安心、ってな」
とんでもないことをしていた自覚が薄いのか。あるいは自覚があっても、それ以上にとんでもないことを特務十二星座部隊の一員として繰り返しやっているから、感覚が麻痺しているのか。
とにかく、イザベルはどこかぶっ飛んでいる。
話は通じるが、その話の端々から、常人なら、住んでいる世界が違う……ッ、と、動揺、狼狽すること必至だろう。
とどのつまり、特務十二星座部隊に席を持つこの女を見るのに、一般的な価値観を持ち出すのはナンセンスなことだった。
「ただ、まぁ……前回の大規模戦闘が茶番だった、というわけではあらへん。まず、ロイさんを王族にするという結果が、ウチの失敗がありえないと仮定して、絶対的なモノやったとしても、そのために他の騎士や魔術師の99%が死ぬ、ということも一応、万に一つはありえたわけやからな」
「極論、ロイさんを王族にするために、王国が一度敗北する、ということも?」
「せや。他には王国が無事、今回勝利した上で、ロイさんが無事に王族になれても、戦争の後遺症で廃人になるとか、そうじゃあらへんでも、戦いで腕とか脚を斬り落として、治せない状態で王族になるとか、そういう可能性も充分にあったわけや」
「それが、過程には干渉できない、小回りが利かない、ということの具体例ですか?」
「さらに言うなら、ロイさん以外の騎士個人や魔術師個人には数が多すぎて、なにも幸運や幸福を与えておらへんから、彼ら彼女らの戦いは茶番ではなく、命を燃やした本物やったし、今までそれとなく否定してきたが、ウチが発動ミスする可能性もあった」
「あまりにもリスクが大きする……というのは違いますね」
「一応、勘違いされても困るから言うんやが、仮に今回、ウチが運命操作を彼に使わなかったとしても、縁起でもないこと言うようやが、国なんて負ける時は負けるし、人なんて死ぬ時は死ぬんや。運命操作なんて言うから仰々しいが、ウチの能力は言ってしまえば、子どもたちの間で流行っている卓上演技遊戯でいうバフとデバフ。使わないよりは使った方がマシやろ?」
「そうですね」
「それで、結局、アリシアさんはなにがしたかったんや? ただの答え合わせか?」
「まぁ、そんなところです」
アリシアは暫定的とはいえ答えを出す。
そしてイザベルが去ったあと――、
「もしもし、エルヴィスさんですか? ――えぇ、私です。今、イザベルさんとお話したのですが――えぇ、暫定的にではありますが、彼女は白ということでいい気がします」
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