ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章8話 アクアマリンの月21日 アリシア、気付いていた。(1)
1章8話 アクアマリンの月21日 アリシア、気付いていた。(1)
2日後――、
七星団の王都に位置する中央司令部の屋上にて――、
国民にも誤解されがちだが、星下王礼宮城と七星団の中央司令部、この2つは隣り合わせになっているだけで別の建物、別の敷地に存在する。
星下王礼宮城が王族の住む城だとするのならば、中央司令部は軍事力を持つ組織である七星団の本拠地で当然、キチンと敷地は分けられていた。
で、だ。
とにかく、アリシア・エルフ・ル・ドーラ・ヴァレンシュタイン(幼女バージョン)は中央司令部の屋上に、1人の同僚の女性を呼び出した。
「どうしたんや、アリシアさん? せっかくの昼休みにこんなところに呼び出して」
屋上にあがってきたのは特務十二星座部隊の序列第10位、【
雲ひとつない青い空の下、高所ゆえの少しだけ強い風に2人の美人は髪を揺らしながら、互いに視線を逸らさずに相対する。
背景には王都の西洋風の街並みがジオラマのように広がっており、まるで演劇のワンシーンのように物語的なシチュエーションと言えるだろう。
「前回の魔王軍との大規模戦闘について、お話しておきたいことがありましたので。しかし、わざわざせっかくの昼休みにお呼び立てしまったのも事実。申し訳ございません」
「ええって、ええって。同じ特務十二星座部隊のヨシミやしなぁ。いや、それがなくとも、わざわざ呼び出すってことは必要なお話なんやろ?」
「えぇ、そのとおりです」
「それで、話っちゅーのは?」
イザベルが訊くと、わずかにアリシアの
そしてアリシアは少しだけ吐き捨てるように――、
「前回の魔王軍との大規模戦闘で、いくらなんでも私は間抜けすぎました」
「間抜けっちゅーと?」
「言い換えれば
「いやいや、特務十二星座部隊の序列第2位が無能やったら、この世界の99%の人間が無能以下の生き物ってことやで?」
「だから、私は前回の魔王軍との大規模戦闘で、落ちぶれた理由を自己分析してみました」
「いやいや、そもそも、自分が無能って思うように至った根拠はなんなんや? まさか理由もなく自嘲しているわけじゃあらへんやろ?」
イザベルがわけがわからない、という疑問を抱いている感じで問う。とはいえ、確かにそれはイザベルの言うとおりだった。根拠がないのに自分を無能と感じるようになったなど、単なる被害妄想にすぎず、そこに議論の価値はない。
同時に、アリシアも同じことを考えていたからこそ、イザベルの問いには簡単に答えられた。
「そう、ですね。たとえば、演説の最中に心臓に銃弾の形をしたアーティファクトを撃ち込まれたのは想定内――というより、未来を視るのが得意なシャーリーさんが予め教えてくれていたことでした」
「なら、それはノーカンやろ」
「えぇ、流石に私もこれはカウントしておりません。それに実際、彼女は撃ち込まれた弾丸を逆手に取って相手にお返しすれば、もしかしたら今回の戦いで、魔王軍の幹部の1人を倒せるかもしれない、とも教えてくださり、本当にそのとおりになりました」
「全て計画通りだったちゅーことやろ? どこに問題なんかあるんや?」
イザベルに改めて問われて、アリシアは
「私が問題視しているのはこの後の話です。イザベルさんも知ってのとおり、未来を視たら『未来を視なかった未来』はなくなります。つまり、特に複数人の魔術師が未来視をしている場合、未来は不変ではありません」
「せやな。相手にも未来視が得意な魔術師がおるやろうし、魔術の妨害に特化した魔術師もおるやろう。シャーリーさんから未来を教えてもらっても、イレギュラーな事態なんて、起きる時には起きてしまうのが戦争や」
「そして私は――――重大な局面で時を巻き戻す魔術の使用を制限されました。相手の立場になって考えてみれば、真っ先に制限すべき魔術なのに、それに気付いていませんでした。そしてその結果――」
「――――」
「――よりにもよって、ロイ・モルゲンロートを死なせてしまった」
ロイの前世のことを知らないゆえに、イザベルは彼の重要度を正確に推し量れていない。
しかしロイがエクスカリバーの所有者というのは流石に知っていて、たとえそれだけしか情報を持っていなくても、彼が戦争において重要な人物、ということは伝わるはずだった。
「それで? 確かにそれはウチの目から見ても、普段のアリシアさんらしくないミス、鈍感さと思ったけれど、実際に起こったことは起こったんやろ? それは否定できひんはずやが?」
「そうですね。でも同時に、私はこうも感じたんです」
「――――」
「どこか
「ご都合主義っちゅーと?」
「この世界には運命というシナリオが存在して、そのシナリオのとおりに物事を進めるために、あんな私らくしないミスをしたのかなぁ、と」
「運命、ねぇ」
「そう、占星術師であるあなたの得意分野でしょう?」
「もしかして、ウチを疑っているんですか?」
ここで初めて、イザベルはアリシアに敵意に近いモノを含ませた視線を送った。
しかしアリシアは特に気にした様子もない感じで、
「答えを先延ばしにして恐縮ですが、まぁ、普通ならば魔王軍の方にも占星術師がいて、そちらの運命操作がこちらの運命操作を凌駕して、向こうにとって都合がいい展開に世界が書き換えられてしまった、と、そう考えてしまいそうなものです」
「ならなんや? ウチが後方支援で手を抜いた、あるいは、裏切り者の可能性を疑っている、と?」
「単純に、お粗末だと思ったんです、私を貶める、あるいはロイさんを亡き者にする計画にしては」
「――なるほど、ね。仮にアリシアさんのミスを誘導した何者かがいた場合、そいつの本当の目的は別にある、と?」
「えぇ、まず、私を貶める計画だった場合、普通にスパイをもっと潜り込ませておいて、あと10発ぐらい不意打ちを喰らわせておけば、いくら私でも殺せたはずなのに、結局、スパイは2人しかいなかった」
「せやなぁ、資料で読んだ死霊術師の性格を鑑みるに、自分の手で直接殺す、って結末にこだわっている感じもせーへんかったからなぁ。結果が全て、過程など結果を出すための手段にすぎない、とか言い張って、不意打ちでも殺せるなら殺しておく傾向の悪人やろうし」
「次に、ロイさんを亡き者にしようとした計画だった場合、運命を操作できるならば、最後の最後で
「それにも同意や。スパイが数人とはいえ存在が確認されている以上、こちらの新聞や法律全書を読まれていて然るべきやろうし。【聖約:生命再望】を知られている以上、相手は可能性が0・1%未満でも、それを発動されないように、細心の注意を払うのが道理やろな」
「まぁ、まさか敵も、一国の姫君が英雄とはいえ死体と結婚する、なんて思わなかったでしょうが」
「同感や」
少しだけ視線を逸らして、下手なことを言わないように短い言葉で返事をするイザベル。
その反応を察して、しかしスルーして、アリシアは続ける。
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