1章7話 返信、そして皮肉な話(1)
1週間後、シーリーンたちからの手紙が返ってきた。
ロイ側からシーリーンたちに届くのに3日、返事を書くのに1日、シーリーンたち側からロイに届くのが3日、という感じだろう。
で、それを聞き付けた『あの男』は――、
「死ね」
「お断りです」
「自信がないなら手伝ってやろうか?」
「一度ボクに負けたクセに……」
「アァ!? ボソッ、と言っても聞こえんだよォ! ハッ、上等だこの野郎! 今度こそ斬り刻んでやる!」
「とりあえず座ってください。周りの視線が痛いです」
呆れながら促すと、ロイの目の前の男、レナードはイライラしながら仕方がない、と言いたげにドカッと椅子に座り直した。
今は夕食時で、ロイとレナードは七星団の要塞の食堂にいた。
ちなみに夕食は完全にイメージどおりで、ロイが栄養バランスが取れている物を食べているのに対し、レナードは肉のオンパレードである。
「ケッ、まぁ、アリスと仲がいいようでなりよりだ。俺から強引に奪ったくせに、それでもアリスのことを悲しませていたら、本気でぶっ殺すところだしな」
「強引に奪ったですって? そもそも最初から今まで、一瞬たりともアリスは先輩のモノじゃないんですが?」
「ぐっ……確かにそうだが、そもそもテメェが入学してこなきゃ、俺だってアリスとゼッテー付き合えたね!」
「だったらボクが入学する前に告白しておけばよかったんですよ!」
「アアァ!?」
「なんですか!?」
ロイは先刻、周りの視線が痛い、と、レナードを注意したが、2人はもう2~3週間近く、こんな他人からしたらくだらないやり取りを毎日している。
ゆえに周りももう慣れており、本人たちが痛いと感じるような視線を送ることはなくなっていた。
「で? 手紙にはなんて書いてあったんだ?」
「なぜそれを先輩に……?」
「単純に世間話だろ! 流石に今の発言にテメェを苛立たせる要素はねぇぞ!」
確かに今のやり取りはロイよりもレナードの方が正しかった。
レナードに「死ね」と言われたのは、その美少女7人からの手紙が理由なのだから、会話の流れというか、自然なやり取りの行く末というか、なにが書いてあったか訊くのは、別にまったく不思議なことではない。
「まず、全員に共通していたのは挨拶と、私たちのことは心配しないで。みんな仲良くやっています。って感じの内容。さらに軽い近況報告が書いてあって、そしてボクも頑張って、って。あと、シィとイヴに関しては、ロイくん、お兄ちゃん、大好き! って」
「クソがッ、サラッと惚気んじゃねぇ」
「可愛い恋人と妹がこんな手紙をくれたんですよ? 惚気るのがシィとイヴに対する礼儀じゃないですか。なにを言っているんですか?」
「それを聞かされる俺にも礼儀はねぇのか? アァ?」
「まだ初対面もすませていなかったのに、あんなゴミみたいな手紙を送る人は言うことが違いますねぇ?」
「決闘中だろうと初対面だったのに、人の恋愛感情を真正面から散々貶した人も言うことが違うなァ?」
会話開始の早々に、レナードは苛立ち交じりに口調を荒くしてロイに静かに怒りを込めて反論する。
好きな女の子を奪った相手が、別の女の子との仲睦まじさを主張したのだ。それはそれは、レナードからすればぶった斬りたくなるほどムカつくことだろう。
「で、ボクのメイドのクリス、ブラウニーのクリスティーナからは、一言でまとめると、わたくしがいなくても規則正しい生活をできているでございましょうか? わたくしがいなくても大丈夫でございましょうか? とか、ボクの私生活を心配している感じ」
「会ったことはねぇが、そういやテメェ、恋人2人、姉妹2人の他にメイドがいたんだったな。死ね」
「先輩が死ね。で、リタとティナちゃんからは、早く帰ってきて遊びたい! 早く帰ってきてまた散歩したいです。って。ちなみに遊びたい、って書いた方がリタで、散歩したい、って書いたのがティナちゃんですね」
「オイ」
「それで――」
「待て」
「――なんですか?」
「この前は特務十二星座の面々の前で流石に訊けなかったが、テメェ、いつの間にハーレムメンバー増やしやがった? 学院にいた時、こっちに来る前には、リタってヤツとティナってヤツはいなかったはずだが?」
「妹の友達ですよ?」
本気でレナードはロイを斬ってやりたいという激情に駆られた。
自分はまだ恋人いない歴=年齢だというのに、目の前の男は自分のことを好いてくれる女の子を7人にまで増やしたらしい。
ダメだった。やはりどう考えてもレナードはロイのことを認められない。受け入れられない。
氷炭相容れずってのはこのことかよ、と、レナードはますますイライラする。
「まぁ……いい、続けろ」
「姉さんのマリアからは、身体に気を付けてくださいね、って。つらくなったらいつでも戻ってきてくださいね、って。クリスが心配したのが私生活なら、姉さんが心配したのは無茶しすぎないことかな?」
「ロイの姉貴も大変だな。弟が1回頑張るたびに1回死にかけるなんて」
レナードもロイがガクトと殺し合って、死ぬ寸前まで身体がボロボロになったことは知っている。ロイのことはまるで大変とは思わない、七星団に入団したなら当然と考えているが、流石のレナードもその家族の心中は察して余りあった。
一応、ロイが死んだら張り合いがなくなるな、とは、レナードも少しぐらい、わずかに、ギリギリ1mm程度は認めているのだが。
「で、妹のイヴからは、わたしも頑張るからお兄ちゃんも頑張るんだよ! 傷付いたらダメだけど、お兄ちゃんのことを応援しているよ! って」
「妹と姉貴、思いっきり真逆のことを言ってねぇか?」
「別に、無茶しすぎない程度に頑張りますよ」
「まぁ、それもそうだな」
「で、アリスからは――……」
と、そこでロイは少し黙りこくった。わずかに視線を逸らし、斜め下を向く。
喋らないものの、その表情は雄弁に、どうしてこうなったんだろう……? 少し、いや、かなり困った……。と、間違いなく語っていた。
その上、言葉を濁したのはシーリーンでもイヴでもマリアでもなく、よりにもよってアリスのターンだった。
無論、レナードが訝しむには充分な反応である。
「からは、なんだよ?」
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