1章6話 手紙、そして質問(2)



「ちなみに、ロイ様にとって戦いってなんですの?」

「生きることだよ。生きることは常に、全身全霊の真剣勝負だからね」


 シーリーンは前回のスライムとの戦いで、生きることは戦うこと、と、言い張った。

 一方でロイも今、戦うことは生きること、と、言い張った。


 もしこの場にシーリーンが揃っていたら、きっと互いに笑い合うぐらい、似た者同士だと思うだろう。

 好きな食べ物が被ったとかではなく、人生観というとても観念的なところが被ったのだからなおさらに。


「なら、イヴ様は?」

「ボクのことを励ましてくれる妹、上を向いて、生きることを頑張ろうと思う理由」


「なら、マリア様は?」

「ボクのことを癒してくれる姉さん、下を向いた時、生きることを諦めないと思う理由」


「一々認識が重いのが少し不穏ですが……それはアリス様の支えるとどこが違うんですの?」

「なんていうか、アリスはボクを、まぁ、少し言い方が変になっちゃうけど、生かし続けてくれる。そこに、変化を与えるのがイヴと姉さんなんだ」


「そう、なんですのね――」


 シーリーンを救う時と、アリスを救う時、ロイは2人とって白馬の王子様のような活躍を見せた。

 だが、ロイはイヴとマリアに、これからのことは不明だが、現時点でそういう活躍を見せていない。


 でも――、

 見ているだけで、近くにいるだけで元気になれる人。

 喋っているだけで、そばにいるだけで癒しになってくれる人。


 簡単な話だ。イヴとマリアがロイにとってそういう感じの相手で、理想的な家族だった、というだけのことだろう。


 だからこそ、劇的なイベントがなくても、そういうふうに想うことができる。

 まぁ、家族なら、互いに元気にし合って、癒し合うのが理想的だからね、と、ロイはヴィクトリアにバレないように口元を緩めた。


「それで、ですわ、ロイ様」

「それで?」


 ロイが感慨に浸っていると、彼をハッとさせるようにヴィクトリアが呼ぶ。


「優しい雰囲気になっているところ申し訳ありませんが、ここまでの話は、実は前振りにすぎませんの」


「そうなの!?」


「いや、わたくしはロイ様ほど人生に哲学とか思想性を求めていませんので……」


 軽くショックを受けるロイ。

 それに対して少し、クスクスと微笑んだあと、ヴィクトリアはベッドの上で寝転んだ体勢から起き上がり、彼に真面目な顔を向ける。


「今、わたくしはシーリーン様、アリス様、イヴ様、マリア様のことを訊きました」


「うん」

「なら、今度はわたくしについて答えてくださいまし」


「ヴィキーについて?」

「えぇ、ロイ様の親友であるわたくしは、あなたにとってどういう女の子なんですの?」


「ふむ」

「わたくしは最初からこの質問がしたくてこの話題を出したのに、ロイ様が思った以上に観念的なことを言い始めてビックリしてしまいましたわ」


 訊かれて、ロイは考える。

 シーリーンとアリスと出会ってから半年も経っていないが、それ以上に、ヴィクトリアと出会ってからの方がより短い。


 恋人なのはシーリーンとアリス。家族なのはイヴとマリア。

 そして、ヴィクトリアは友達だ。


 以前、ロイはレナードに「アリスはボクの友達だ!」と叫んだのに、結局そのアリスと恋人になった。

 でも、ヴィクトリアの場合、彼女の方がロイのことをロイ以上に友達と認識していて、友達であることに頑なだ。


 それに気付いた瞬間、ロイの中で答えの方向性が決まる。

 結果論、あとから気付いたらそうなっていただけだが、シーリーンとアリスに対する印象が恋人らしいモノになったように、イヴとマリアに対する印象が家族らしいモノになったように、ヴィクトリアに対する印象は、やはり友達らしいモノにするべきだろう。


 恋人の2人が生きるために必要で――、

 妹と姉がそれを彩り豊かにしてくれるなら――、

 それを踏まえて友達に求めるモノは――、


「ヴィキーは、ボクにとって、ボクと並んでくれる女の子、かな?」

「並んでくれる、ですの?」


「うん、友達として、ヴィキーには一緒にいてほしい。隣にいてほしい。なにか嬉しいことがあったら一緒に嬉しがって、喜ばしいことがあったら一緒に喜んで、でも、泣きたくなるようなことがあったら、それを2人で半減させるような――喜怒哀楽をともにするような女の子、かな?」

「いかにも友達って感じがしますわ!」


「まぁ、かなり昔どこかで読んだ本の受け売りっぽくなっちゃったけど、でも、うん、それが紛うことないボクの本心だ」

「別に受け売りでもかまいませんわ! それがちゃんと本物なら!」


 ベッドの上で発育良好な大きい胸を張るヴィクトリアに、ロイは微笑ましくなって、事実、微笑み返す。


 対して、ヴィクトリアもかなりご機嫌な感じだった。

 嬉しそうに笑顔を浮かべ、かと思いきや、今度は楽しそうにベッドに寝転んで、ふかふかの枕をギュ~~、と、抱いて右から左にゴロゴロする。


 よほどロイの答えが気に入ったのだろう。

 で、少ししてベッドの上で悶えるようにゴロゴロするのをストップすると――、


「にしてもロイ様、意外と出会ったばかりの友達に、友達ではなく親友と言っても差し支えないようなイメージを望むのですわね」


「え? いい意味でだけど、一番友達に幻想を抱いているヴィキーがそれを言うの?」


「いい意味で幻想を抱いているって、どういう意味ですの!?」


 ロイが突っ込むとヴィクトリアはプンプン、という擬音が頭上に見えそうなほど、可愛らしく幼い感じで憤慨する。

 しかし、ロイはヴィクトリアに言い返されてガーン……としているが、ヴィクトリアの方は(これはこれで友達らしいやり取りですわね)と、言葉にも出さないし顔にも表さないが、しかしロイに対する好感度を上げていた。


 やはり、ロイと一緒にいると楽しい。やはり、ロイと接すると自然と笑みが浮かぶ。

 そんな乙女心を知らず、ロイはヴィクトリアのツッコミ兼質問に答えることに。


「どういう意味、か……。一言でいうなら純真無垢ってことかな?」

「褒められているはずなのに、バカにされている気がしますわ」


「いや、本当に褒めているんだよ? 少なくともボクの認識では」

「そうなんですの? ふむ、なら、ロイ様の問題ではなく、単純にわたくしがもっと大人になりたいと思っているのが原因ですわね」


 どうやら声に込められた言外のニュアンスを察するに、ヴィクトリアは少なからず、自分のことを幼いと思っていて、大人になりたい、精神的に成長したい、と、考えているらしい。


 それは立派なことだとロイは思う。

 自分自身の至らないところを自覚して、それを克服しようと思うのは、人間として素敵な在り方だろう。


「? こっちを見てどうしたんですの?」

「いや、ヴィキーは素直で素敵な女の子だなぁ、って」

「~~~~っ、突然なんなんですの!? 恥ずかしいのは禁止! ですわ!」


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