2章2話 国王、そして勅令(2)



「よくきてくれた、ロイくん」


 謁見の間に足を踏み入れ、4人が片膝を付き、こうべを垂れる。

 そして国王、アルバートがロイに寛大な感じでそう口を開いた。


 ロイは今、顔を下に向けているから見えないが、左右の壁の付近には端から端まで帯剣した騎士たちがズラリと一列に並んでいた。

 また、アルバートが腰をかける王座の左右には、数人の大臣と推測できる壮年の男性たちが揃っている。


 緊張しなくてもいい。

 と、アルバート本人はそういう態度を取っているが、ロイからしてみれば、これで緊張しないが無理である。


「さて、4人とも、おもてを上げよ」


 許しが得られたので、ロイたちは言われたとおりに顔を上げる。

 で、顔を上げてみたロイの視線の先には――、


(あっ、ヴィキーもいた)


 ヴィクトリアは白百合のように穢れを知らず、愛おしく美しく、見る者全員を魅了するような微笑みを浮かべている。そしてそのまま胸とウェストの中間あたりで、ロイに向かって親しげに手を振ってみせた。

 が、そこでアルバートが「ゴホン」と咳払いする。すると、ヴィクトリアは赤い舌をチロッと出してとぼけた態度を取りながらも、しかし流石に手を振るのを中断した。


「さて、ロイくん、この謁見の間に呼んだということは、他の誰でもない、国王である余から、直々に君に勅令を下したいことがある。ヴィクトリアがこの場に立ち会っているのも、それが関係しているのだが、な」

「はい。国王陛下から直々のご命令、光栄の至りです」


 ウソ偽りなく、ロイは本当にそう思っていた。

 もちろん、国王であるアルバートは王国で一番偉いのだから、敬うのは当然だ。が、口には出さないだけで、どうも、前世が日本人であるロイはそういう感覚に疎い。


 しかし、そこでロイは少し考え方を変える。

 前述のとおり、国王は王国で一番偉くて、つまり国の代表ということだ。


 なら、国家そのものに、多少なりとも自分のなにかをを認めてもらい、その上で勅令を下される。

 と、そう考えたならば、確かに王族関連とか貴族関連とかの感覚に疎いロイでも身に余る光栄だった。


 ゆえに少々、ニュアンスが違っても、しかし確かに、ロイはアルバートからの勅令を大変名誉に感じたのだった。

 再度になるが、そこにウソも偽りも存在しない。


「では――ロイ・モルゲンロート」

「はい」


「貴殿には、我が娘、ヴィクトリア・グーテランド・リーリ・エヴァイスの護衛を頼みたい。無論、入浴時やトイレの時、交代制で代理を立てる睡眠時を除いては完璧に付きっきりで」

「…………、…………はい?」


 今、アルバートはなにを言ったのか。一瞬、ロイは言われたことを理解できなかった。

 その上、失敬ながらも間の抜けた声を出してしまう。


 ヴィクトリアはこの国の姫だ。

 彼女の護衛にロイは力不足だし、それをいったん抜きにしても、ヴィクトリアだって年頃の女の子なのだから、一番近い護衛には同性が適任のはずである。


 こんなことを考えるロイをさて置いて、アルバートは厳かに次の言葉を続けた。

 即ち――、


「詳細は彼女から伝えてもらいたまえ」

「彼女?」


 瞬間、なにもない虚空から誰かが魔術を使い出現した。

 明らかに高位の空属性魔術を使ったのだが、『彼女』は高位の魔術師とは思えない幼女の姿を…………していなかった。


 見間違うはずがない。

 金色に瞬くゆるふわのロングヘア。エルフ特有の尖った少し長い耳。


 彼女こそ特務十二星座部隊の序列第2位、【金牛】のオーバーメイジである――、


「アリシアさん……っ」

「お久しぶりです、ロイさん」


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