2章1話 国王、そして勅令(1)



 馬車に揺られてもう30分ほど経っただろう。今は傾斜の森を進んでいる最中だった。

 だがしかし、未だに王国七星団の最終防衛ラインの要塞には到着していない。


 先刻、ロイを迎えにきた七星団の騎士3人。

 馬車の御者は別にいるようで、ロイはその彼らと馬車の中で相席していた。


 居心地が悪くない、と言えばウソになってしまうが、かといって居心地が最悪、というほどでもない。

 緊張でソワソワしてしまうぐらいの感覚が一番、今のロイの精神状態に近いだろう。


「そういえば――」


 ふと、思い出したかのように、3人の騎士のうち、リーダー格の1人が口を開いた。

 必然的にロイと、そして残りの2人の視線が彼に集まる。


「まだ自己紹介をしていなかったな。すまない。こちらはすでに君のことを知っていたから、すでに紹介し終えたような気分になっていたようだ」

「いえ、そんな、滅相もありません」


 ロイは3人のリーダー格である騎士――ダークな緑がかった髪の男性に向かって首を振る。


 その男の背丈はロイと同じぐらいで、年はマリアよりもほんの少し上ぐらいだろう。

 エルヴィスのように筋骨隆々きんこつりゅうりゅうという感じではなく、極限まで無駄な肉を削ぎ落したシルエットをしている。細身とはいえども、見た感じ体重は60kg後半で、しかし体脂肪率は十中八九、10%を切っているはずだ。まるで節制の極みのごとき肉体を持った男である。


「私の名はガクト。王国七星団で、第37騎士小隊の隊長を務めている。クラスは君と同じルーンナイトだ。年は25で、実は王国七星団学院の卒業生でもあるため、ロイ、君の数年ほど上の先輩ということになる」


 七星団の一員なのにロイと同じくルーンナイト、と、侮ってはいけない。

 そもそもロイがルーンナイトに昇進したのが異例なほど早すぎるだけであり、25歳でルーンナイトというのは、全然劣っていることではなかった。


 むしろ、注目すべきはよわい25で小隊といえども隊長を務めているというところだ。

 最年少のキングダムセイバーとか、最年少の特務十二星座部隊とか、そういう下手に凄すぎる肩書きよりも、よほど堅実で、現実味のある立場である。


 実際、アリスの姉であるアリシアは若くして特務十二星座部隊に所属しているが……あそこまでいくと、もちろん本当に充分すぎるほど強いし、それは普通にいいことなのだが、もう、才能とか運命とかが関わってくる雲の上の話のように聞こえてしまうのだ。

 一方、ガクトはどこか身近に感じる強さを持っている気がする。否、気がするのではなく、そういう確信がロイにはあった。


「――――」


 同じルーンナイトといっても、やはり年季というモノがある。ロイはルーンナイトとなってからまだ3ヶ月も経っていないが、ガクトは恐らく、最低でも1年は経っているはずだ。

 ゆえに、やはりそこには実力差が歴然とあり、同じルーンナイトでもボクには勝てない、と、彼は3人に気付かれないように下唇を噛む。


「なら次は私たちだな」

「ええ、そうですね」


 続いて、今度は残りの2人、黒髪のツーブロックの男性と、男性にしては少し長めのダークブラウンの男性が自己紹介を始める。

 2人はジョーとキヨシといい、互いにガクトが率いる第37騎士小隊の隊員とのことだ。


 そして自己紹介からさらに30分後、ようやくロイたちを乗せた馬車は対魔王軍の最終防衛ラインの要塞に着いた。

 もしかしたら将来、七星団に入団したら再びここにくるかもしれない。ロイもそう考えたこともあったが、まさかここまで早く再び訪れることになるとは思ってもいなかった。


 御者の男性が馬車の扉を開けて、扉に近かった順に馬車から下りていく。


「では、往こうか――」


 ガクトが先導する形で、彼の後ろをロイとジョーとキヨシが付いていく。

 厳かで重厚感があり、巨人の身長よりも高そうな門扉をくぐると、その先には先日きた時と同じように、最終防衛ラインの広大な要塞があった。


 さらに敷地内の道を直進して、4人は要塞の内部に入る。


「ガクトさん、いったい目的地は――」

「君も知っているであろうところ、最上階だ」


 その言葉の証明のように、ガクトは階段を上っていく。

 そしてロイは前回きた時もこの道、この階段を通ったので、どこに向かっているのかも、なんとなく察することになる。


 ガクトの言葉を信じるならば、向かう先はロイの知っているところらしい。

 しかも、それは最上階に位置している。


 これを理解した瞬間、ロイは自分の背筋がゾクッ、とする感覚に侵される。

 緊張が先ほどよりも増加して、一歩、また一歩、足を動かすたびに、さらに重ねるように増加し続ける。わずかに目に入った冷や汗がとても目に染みた。


 と、そのタイミングで――、


「――――ッ、謁見の間」



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