1章2話 表彰、そしてスクープ(2)
「あれ? ヴィキー!?」
ヴィクトリアが先ほどの衣装のまま、取材陣を掻き分けてロイの方に近寄ってくる。
流石に押しが強い取材陣でも、姫であるヴィクトリアの直進を邪魔することはできない。彼らは彼女に道を開けながら静かになった。
だが、ロイはここで1つ、ミスを犯した。
取材陣の前で、ヴィクトリアのことを愛称で呼んでしまったのだ。
そのことに気付いた取材陣。
彼らはヴィクトリアがロイのもとまで辿り着くと、人がどいて作った道を塞いで、改めて2人のことを包囲する。
「ロイさん! 今、王女殿下のことを愛称で呼びましたが、2人のご関係は!?」
「少なくとも2人は知り合いとお見受けしますが、具体的にどのような!?」
「王女殿下が自ら迎えにくるとは、どのようなご用件があったのでしょうか!?」
ロイがリザードマンを倒したことの方が本題のはずなのに、ヴィクトリアの登場によって先ほど以上に取材はヒートアップし始める。
かなりの収益に繋がる美味しいネタなのは想像に難くない。しかし、それにしたって冷静さを欠きかけている取材陣に向かって、取材慣れしているヴィクトリアが応じた。
「ロイ様はわたくしの一番のお友達ですわ♪」
ワァァァアアアアアアアアアアッッ!!!!!
と、まるで歓声のように一瞬でその場が盛り上がる。
さらに、ヴィクトリアもヴィクトリアで興が乗ってきたのだろう。彼女は生まれて初めてできた庶民の友達との仲を知ってもらえるのが嬉しくて、それを強調するようにロイの腕に抱き着いた。
ヴィクトリアのやわらかくて大きな胸が、ロイの腕に押し付けられる。彼女本人としては一切の他意がなかったのだが、それをどう解釈するかは取材陣の自由だ。結果的に取材陣にオモチャを与える形になるだろう。
「ロイさん! 王女殿下とお知り合いになられたのはいつ頃のことでしょうか!?」
「もうデートはされたのでしょうか!? あと、もしされていたなら、どちらからお誘いに!?」
「まさか、すでに国王に個人的にお話をなされたりは!?」
最初の質問の答えは、まだ1週間も経っていない、だ。
次の質問の答えは、デートはしたし、誘ってきたのはヴィクトリアから、だ。
そして最後の質問の答えは、一度だけだが、ヴィクトリアがこちらに迷惑をかけたので、国王としてではなく人の親として、だ。
つまりこれらをまとめると――まだ出会って1週間しか経っていないけれど、ヴィクトリアの方からデートに誘ってきて、ロイも応じて、国王としてではなく彼女の父親としてアルバートとも話したことがある――という答えになってしまう。
それは……マズイ。
バカ正直に答えられるわけがない。
ゆえにロイはなんとかヴィクトリアとのアイコンタクトを試みる。
で、ロイに視線に気付き、ヴィクトリアはそれに頷いた。十中八九、彼女も正直に答えるリスクに気付いているはずだ。姫ということもあり、そこまで頭は悪くないはずである。
そして、ヴィクトリアは艶やかな桜色の唇を開いて言った。
「ヒミツですわ♪」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお! スクープだアアアアアアアアアア!」」」」」
確かに真実を隠すことにはロイも賛成だ。
しかし、いくらなんでも言い方というモノもあるだろう。
「なんでそういう言い方をするのさ!?」
「ふふん、愚問ですわね。面白いからに決まっているからですわよ」
ヴィクトリアは昔から友達が少なく、もしかしたら1人もいなかった可能性すらある。
だからだろう。ロイたち一行と友達になれたのが嬉しいのと同時に、友達に対する距離感も量りかねていた。その証明のように普通、友達といえども異性の腕に抱き付くのはやりすぎなのに、彼女は未だに平然と胸をロイに押し付けている。
(話せる時間は限られているけれど……流石に友達として、少しは普通がどういうモノか教えた方がいいのかなぁ?)
「それでは皆様、失礼いたしますわ」
ここでようやく、ヴィクトリアがロイの腕を引いてエスコートするように取材陣を抜けて、2人は脱出に成功できた。
その後、シーリーンとアリス、イヴとマリアに拗ねられたのは言うまでもなかったが……。
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