中編 3番目のヒロインは銀髪のお姫様(中)

1章1話 表彰、そしてスクープ(1)



 数日前、ロイは魔王軍の一員であるリザードマンを倒すことに成功した。

 一般人の少年が軍人を倒すことは驚くべき快挙であるし、普通なら殺されるどころか、1回抵抗することすらままならないだろう。


 魔王軍と遭遇したら神に祈りながら逃げるしかない。そういう学校に通っているから自分も少しは戦えるはずだ、なんて間違っても考えてはいけない。

 実際にグーテランド七星団学院に限らず、他のどの教育機関でもそのように在校生を指導しているぐらいである。


 今回の件は要するに、ロイ・モルゲンロートはもう、中等教育の生徒としては最上位の実力を身に付けている、という証明でもあった。

 もしかしたら現時点で、上位に行くことはもちろん非常に難しいが、七星団に入団することぐらいなら可能かもしれないだろう。


 しかしそれとは別に――、

 年が明け、新年早々――、


「ロイ・モルゲンロート殿。貴殿はこの街、癒しの都と名高いツァールトクヴェレに潜む魔王軍の精鋭を倒し、街に平穏と安寧を取り戻すことに貢献した。このことを讃えて、貴殿に表彰状と、賞金、そしてこの街の別荘を授与する」


 ――ツァールトクヴェレの庁舎にて、ロイは先日のことで表彰式に出ることになった。

 そしてその瞬間、参列者たちからは盛大な拍手が沸き起こる。


 ロイの仲間ということで最前列に座ってもいいと許しを得て、実際にそこに座っていたシーリーン、アリス、イヴ、マリア、リタ、ティナ、クリスティーナの7人。

 彼女たちも彼に惜しみない拍手を送っていた。


「あはっ、流石シィのロイくん♡ ますます大好きになりそう♡」

「危険なのに1人で戦いに臨むなんて……まぁ、でも、立派であることには変わりないわね」


「なんたってお兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんだから、これぐらい当然だよ!」

「流石はお姉ちゃんの弟くんです! お姉ちゃんとして鼻が高いですね♪」


「センパイ、ちょ~っスゲぇ! 憧れるよなぁ!」

「うん……っ、本、当に、すご……い、よね……」


「お見事でございます、ご主人様♪」


 シーリーンは大好きな恋人が表彰されている姿に、勝手に頬が乙女色に染まってしまい、胸をキュンキュン切なげに締め付けられていた。

 彼女の隣に座っていたアリスも(危険なことを1人でしないでほしいわよね)と思いつつも、それでも誇らしいことをしたことには変わりないので(まぁ、カッコイイとは思うけれど)と、ツンデレ気味ではあるがロイをますます好きになっている。


 イヴは妹としてますます兄に甘えたくなっているし、マリアも姉としてますます弟を溺愛したと衝動に駆られる始末だ。

 そしてリタは目をキラキラさせてロイに憧れの眼差しを送っているし、ティナは瞳を潤ませ、頬を赤らめて、蕩けたように放心してロイから視線を逸らさない。


 クリスティーナに至っても、主人の活躍に、静かに目を伏せてウンウン、と、満足気に頷いていた。


(でも、これ、プロパガンダだよね。七星団が敵の侵入を許したって事実に目を向けてほしくないから、ボクを表彰台に立たせて、政治家や七星団のイメージダウンをできる限り防ぐ、っていう……)


 ロイがそう考える理由はいくつかあったが、その最大の根拠は今、自分の目の前にいる人物にあった。

 常識で考えるならば市長、あるいは彼が多忙なら副市長なのだろうが、今回は違う。


 まず、街の中に敵が潜伏していて、民間人がそれを倒した。

 これなら『彼』は間違いなく出てこない。


 次に、その民間人がまだ10代の若者で、しかも聖剣使いだった。

 これでも『彼』が出てくるには不十分だろう。


 だが、魔王軍はグーテランドの王女、ヴィクトリア・グーテランド・リーリ・エヴァイスにすでに接触していて、ロイは彼女を守るために聖剣を駆使して戦った。

 こういう国民にわかりやすいドラマチックなストーリーがあるなら、話は別ということになるのだろう。


「以上、グーテランド国王、アルバート・グーテランド・イデアー・ルト・ラオムが誉れ高き貴殿を讃える」


 そう、ロイを表彰しているのはアルバート、つまり国王陛下本人だった。

 しかも、壇上の来賓席には華やかで可愛らしい純白のドレスを身にまとった姫、ヴィクトリア本人まで座っている。


 アルバートが締め括って、彼からロイが表彰を受け取った瞬間、1つ前の拍手よりも殊更に盛大な拍手が起きる。


 国王が直々に国民を讃えるということは滅多にないことだ。しかも今回の内容は王女を狙う不届き者を倒したという功績である。

 余談ではあるがその結果、後日、ロイはまたまた新聞に載り、世界一恋人にしたい男子ランキングで1位を仕留めることになったのだった。


 そして数分後、ロイは控え室に戻ろうとするのだが、その最中に襲われた――、

 ――王国の報道機関の取材陣に。


「ロイさん! 魔王軍と交戦して、そして国王陛下が直々に称えられるという快挙を達成しましたが、一言、お願いします!」


「王国の民は全員、新聞でロイさんのお言葉を読めるのを楽しみにしております! ぜひぜひ、一言でもよろしいので!」


「今、最も女性から人気がある若者と呼ばれていますが、ファンの女性に対して、なにか一言!」


「えっ……いや、あの……っ」


 録音機能を持つアーティファクトを押し付けてくる取材陣に対して、流石にロイもしどろもどろになってしまう。

 一方でシーリーンやアリスたちは、壁となった取材陣の人たちがとにかく邪魔で、なかなかロイのことを救出できないでいた。


 が、その時だった。

 救助隊員が爆弾を抱え込んでやってきたのは。


「ロイ様! 控え室にいないと思ったら、こんなところにいらしたのですね!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る