3章7話 挑む聖剣使い、そして迎え撃つ錬金術師(1)



「少年、君には今、国家反逆未遂の容疑がかかっている。もう一度だけ言う。一緒にきてもらおうか?」


 そう言われてロイが連れてこられたのは、温泉街の奥にある森の中だった。

 ロイを連行するのは背後の男、ただ1人だけだ。2人はひたすら無言に、鬱蒼と木々や雑草が生茂る薄暗い森を歩き続ける。


 その間、どういうことだ、と、ロイはこの現状について考えた。

 当たり前だが、ロイは王国に反逆しようなど考えていない。だというのに、背後の男は間違いなく、それを理由でロイを逮捕しようとしている。少なくともそういう理由で連行したのは事実だ。


 考えられる可能性は2つ。背後の男がウソを吐いているか、もしくは、あまり考えたくないが、ヴィキーに関わったことが原因か。

 たとえば、ヴィキーが王国に反逆する計画を立てていて、その彼女と一緒にいることで、自分たちも共犯者だと勘違いされた。後者の可能性についてはこれで説明は付く。


 しかしそれは、可能性の話ではあるが、ヴィキーが悪者という証明になってしまう。

 別にロイはプロファイリングの知識についてそこまで詳しいわけではなかったが、それだと少し――否――かなり自分の印象と本当の彼女が違ってきた。


「ボクをどこまで連れていく気ですか?」

「教えるわけだろう」


 ロイのこと見下して、冷酷無比に吐き捨てた、という感じではない。

 取っつきづらい無表情ではあるものの、ひたすら事務的に、淡々と、自分の仕事をまっとうしているだけの男のようにロイは感じた。


 さて――幸いにも、クリスティーナにこの温泉街の最寄りの七星団の詰め所の場所はすでに教えてもらっている。それついてはラッキーだった。情報として使えるから。

 しかし、すでに温泉街の最寄りの七星団の詰め所は通りすぎている。というより、今はもう、温泉街を出てしまい森の中だ。


(ボクを連行する目的――か。冤罪だけど、ただ逮捕するだけならば七星団の詰め所に行くべきだ)


 しかし、現実はそうなっていない。

 つまり逮捕とは別の目的があると考えるのが妥当だろう。


(仮に殺すのが目的なら……出会った時点でボクを殺しているはずだ。この人は気配を消す魔術を使っていたんだし。とはいえ野蛮な考えだけど、犯罪者を連行する場合、ボクの頭じゃ逮捕か処刑ぐらいしか目的が思い付かない。となると……逆か? 目的のために連行するんじゃなくて、連行すること事態が目的なのか?)


 森の中を歩きながら、ますますロイは思考を加速させる。


(連行することそのものが目的と仮定するならば、森に意味がある? いや、それは考えづらい。森に意味を見出そうとしても、候補が1つも浮かんでこないから。じゃあ、歩くということに意味がある? ――あっ、いやッ、違う! ボクは今冤罪だろうと犯罪者として認識されているんだ! だから厳密には、それに基づくなら――ッッ!)


 そしてロイは、答えを見付けた。


「 顕現せよ、エクスカリバーッッ! 」

「――――なに?」


 刹那、聖剣が世界に顕現する。

 しかも、ロイの手の中に顕現したのではない。するように顕現したのだ。


 別にロイはエクスカリバーを、柄が手の中に納まるようにだけ顕現させられるわけではない。

 自分の周囲ならば、自分の好きなところに顕現させることができる。


 が――、


「大人しくしていたと思ったが……抗うことにしたようだな」


 ――その1回しか使えない奇襲を、男は軽くバックステップしただけで完璧に避けてみせた。


 だが一応、男と距離を置くことには成功する。

 そしてロイは男を突き刺すことに失敗して、地面に刺さったエクスカリバーを引き抜き、男に構えた。


「あなたは、国家反逆未遂の容疑がかかっていると、そう言いましたよね?」

「ああ」


「実はそれ、冤罪なんですが、あなたはそれを信じない。なら――その認識に基づいて則って想像すればいい! あなたの目的はボクを極力、仲間から離れ離れにさせることだ!」

「意外と早く気付いたな。そうだ、君みたいな子どもでも、国家反逆未遂という罪状をかけられているのだから、油断はできない。否、むしろ相当な実力者と見て然るべきだろう」


 この少年に下手な言い訳は無駄と察したのだろう。

 男はそれを話し始めた。


「最寄りの七星団の詰め所に連行しても、留置される場所の候補として真っ先に挙がる。そして必然、逃走経路も調べられているはずだ。ゆえに、仲間と連携されないように、森まで連れてきた、というわけだ」


「そして出会った時点で殺さなかったのは――ッッ」

「――少年は反逆者だからな。自分の身体に、死んだ瞬間に発動する爆発魔術を施していてもおかしくはあるまい」


 ここでようやく、ロイは男を正面から見据えることができた。

 王国七星団の黒いコートを纏い、後ろでまとめた黒い髪を風になびかせ、同じく黒の瞳でロイのことを睨んでいる。


(やはり、ヴィキーなのか!? この状況、ヴィキーが反逆者で、昨夜の追っ手も実は七星団の人だった。それで関わり合いを持ったボクたちまで、共犯者と見做みなされてしまったのか!?)


 信じたくはなかった。だが確定というわけではないが、ヴィキーが反逆者という仮説が一番可能性として濃厚だった。それを理解して、ロイは自分でもわかるぐらい動揺してしまう。

 しかし、今は戦闘中だ。かぶりを振って、ロイはエクスカリバーを目の前の男にしっかりと向け直した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る