ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章2話 冬の始まり、そして両手に花(2)
1章2話 冬の始まり、そして両手に花(2)
「そろそろ政略結婚の後処理も終わったと思うんだけど――」
「後処理って……ロイとレナード先輩がぶち壊しにしたんじゃない」
「なら、壊さない方がよかった……かな?」
「…………んっ、ばか」
「――――」
「そんなわけ……ないわよ。……壊してくれて、本当によかったわ」
「よかった、改めてキチンと、そう言ってもらえて。あと、ゴメンね? 少しイジワルな質問だったかな?」
「まったくよ、もぅ」
やはり子どもっぽく、アリスは頬を小さく膨らませてわずかにいじけた。どうも拗ねたからかまってほしいと、そう言いたげな感じである。
しかしここで、シーリーンが会話に混ざるように、くいっと、自分を意識させるためにロイの腕を少しだけ引っ張った。
「それで、アリス、実際いろいろどうなったの?」
「当たり前だけれど私とお父様でユーバシャール公爵に謝りに行ったわ。まぁ、私の権利を無視したのは向こうとお父様だけれど、大勢の貴族の前で彼の顔に泥を塗ったのも事実だし」
なんだかなぁ、と、ロイは少しだけ口ごもった。
自分たちが派手に暴れた自覚があり、この王国のこの現在、自分の思想の方が少数派ということもわかっている。が、だからと言ってアリスが謝るのもなにかが違う気がしたのである。
「うんうん」
「でも公爵も、レナード先輩との賭け、外ウマに負けたでしょう? だから、あれこれ吠えても貴族として、自分の評価を下げるだけだ、って……まぁ、悔しそうにはしていたけれど、この結果を認めていたわ」
ノーリアクションを貫くロイの代わりにシーリーンが相槌を打つ。
で、アリスの返答に、改めてロイが再び会話に混じり続きを促した。
「うん、それで?」
「あと、私個人はお父様にも謝ったわ」
「ボクとレナード先輩も一緒に謝った時とは別に?」
「そうね……親子でようやく腰を据えて話し合ったけれど、結局、似た者親子だってことを察したわ」
「思ったより似ていたの?」
「そうね。私もお父様も、貴族にもなりきれないし、1人のエルフとして親や子どもにもなりきれない。だから、なんとなくわかったし、仲直りできたのよ。お父様もお父様で、責任と子どもの幸せ、どちらかを選ぶことができなくて、迷っていたんだ、って」
ちなみに本人の言うとおり、ロイとレナードは退院したあと、エルフ・ル・ドーラ家に赴いてアリエルに散々謝罪しまくった。
だがアリエル曰く――、
「これは純粋な決闘の結果だ。貴族だろうと、この結果に文句を言っていいわけがない。しかも、君たちは命を懸けていた。天秤はキチンと釣り合っていたと言える」
「まぁ、わざわざ貴族に不敬を働いて命を餌にするなんて、マッチポンプ気味ではあるが……それを含めて、私たちは倒されたのだよ」
「君たちは欲するモノを手にすることを諦めなかった。そしてそのために、文字通り全身全霊を懸けた」
「フッ、勝者が敗者に謝るなど、むしろ煽っているように見えるぞ。勝者なら、その勝利を誇りたまえ」
――とのことで、むしろ政略結婚を潰したあとの方が優しい対応をされたのだ。まるで憑き物が取れたような穏やかさだった。
で、それとは別にアリスはアリエルに謝っていた、ということだろう。
「それでね、ロイ?」
「ぅん?」
「お父様が、お家のことを抜きしても、孫の顔が早く見たい、って」
「普通結婚の方が先なんじゃないの!?」
「なんか、お父様の中ではロイと私、結婚しているのも同然らしいわ」
「た、確かに……花嫁強奪なんてしちゃったからね」
「ロイは……イヤ、かしら? 私と、結婚するの……」
悲しげな顔で、寂しそうな声を漏らすアリス。
やはり普段気高く振る舞っている人やエルフに限って、実はとても寂しがり屋で自信がないのだろう。
アリスは不安げに潤ませた瞳でロイのことを見上げて、珍しくオドオドした様子で、彼からの答えを待つ。
が、彼女はこのように不安げに訊くが、ロイの答えなど、訊かれる前から決まっていた。
「イヤじゃないよ。むしろ、アリスと結婚できるなんて、幸せなことだと思う」
「~~~~っ」
自分から聞いたクセに、アリスは頬をさらに乙女色に染める。そして声にもならない声を漏らしながら、嬉しさと気恥ずかしさでロイの腕に顔を埋めて、スリスリするように悶え始めた。
と、ここでまたしても、シーリーンがロイの腕を自分の方に引っ張った。シィともお喋りしよう、と、言いたげに。
「あはっ、ロイくん? シィとも結婚してくれるよね?」
「もちろん」
「えへへへ♡ ロイくん、大好き!」
ロイもだいぶこの世界に染まってきた。
いや、もう15年以上も住んでいるから染まるのが当然なのだが……より正確に言うならば、前世の常識よりも現世の常識に基づいてモノを考えるようになってきた。
もちろん、アリスの政略結婚のように、どうしても譲れなくて、前世の価値観を持ち出す場面もある。
しかしたとえば、この年で結婚を視野に入れて交際するのは、前世では現実味を帯びないが、現世では普通にありえる話だった。
日本で生まれた人間が渡米して、いつの間にか日本よりもアメリカの常識を優先するようになった。
という話がよくあるが、要するにこれの惑星別バージョンである。
「コホン、まぁ、いろいろあったけれど、政略結婚についての後処理は、数日前に全て終わったわ」
「そっか、ならよかったよ。ボクたちが実行犯なのに、一度謝罪に行ったあと、はアリスに任せっきりだったから、気が気じゃなかったんだ」
「気持ちはわかるけれど、ロイの場合、できることが謝罪ぐらいしかないでしょう? 私とお父様に任せっきりでいいのよ、少なくとも今回は」
「ぐぬぬ……」
唸るロイ。
後処理をしなくていいのは自分にとって得な話なのに、それでは筋が通らないと考えているのだろう。
で、ちょうどその時である。3人が降り積もった雪に足跡を作りながら、学院の門扉に辿り着いたのは。
そして、そこにいたのは2人の黒髪の美少女姉妹、イヴとマリアだった。
「むくぅ! お兄ちゃん、遅いよ! 寒くて死んじゃうかと思ったよ!」
「ゴメン、イヴ。それで、どうしたの?」
ここ最近、王都では頻繁に雪が降っていた。なので、雪が降っている日は無理して一緒に帰らずに、早く講義が終わった順に帰ろう、とみんなで決めていたのだ。
だというのに現に今、イヴとマリアは学院の門の前でロイのことを待っていたのである。
「少し買い物がしたかったんですよね」
「あぁ、荷物持ちが必要だった?」
「ゴメンね、弟くん?」
「ううん、大丈夫だよ、姉さん」
「それにしても――」 と、マリア。
「お兄ちゃん――」 と、イヴ。
「? どうかした?」
ふと、イヴとマリアがジト目になってロイのことを睨み始める。
いや、厳密にはロイではなく、彼の両腕に抱き着いているシーリーンとアリスを睨んでいたのだ。
「これじゃあ、わたしがお兄ちゃんと手を繋いで歩けないよ!」
「わたしは我慢できるけど、お姉ちゃん的には、少し寂しいですね。弟くんの姉離れが深刻で」
「イヴちゃん! マリアさん! ロイくんはシィの婚約者さんだから、ロイくんの隣はシィで決まりなんです!」
「ちょっと、シィ! ロイは私の婚約者でもあるのよ!」
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