4章12話 夜の教室で、風紀を乱して――(1)



 ラピスラズリの月の某日――、


 ロイはいったん、いつものメンバーと一緒に寄宿舎に帰ってきた。

 加えて、寄宿舎生ではないアリスも連れて。アリス曰く「少しでもロイと、好きな人と一緒にいたいから」とのことだ。


 で、みんなで遊び終えると、シーリーンとイヴとマリアが自室に帰るのに対して、ロイはもう日が暮れているので、アリスを自宅まで送っていくことにした。

 もちろん、シーリーンにはきちんと報告してある。


 結果、夜の王都の街を、ロイとアリスは恋人繋ぎで、2人きりで歩いていた。


「なんか……少し照れちゃうね」

「へぇ~? シィとはいつもイチャイチャしているのに? でも、私とだと照れるんだ?」


 アリスが意地悪そうに笑う。好きな男の子のからかわれて困っている顔を見たかったのだろう。

 で、ロイはアリスの思惑どおり、困ったように少し慌て始めた。


「いや、それは、その……アリスは真面目な雰囲気が強いから」

「クス、冗談よ」

「なんだ、ビックリしたよ」


 やり取りが楽しかったのだろう。

 アリスは身を揺らして、ロイの肩に自分の肩を寄せてくっ付いた。


 ロイはあまりよくないことだとは理解しつつも、少しだけ、シーリーンとアリスを比べてしまう。

 シーリーンは付き合うと、それよりも前と比べて、さらに甘々になった。が、アリスは付き合うと、少しだけイタズラっぽい笑顔を浮かべるようになった。


 身体の感触はシーリーンの方がやわらかくて、アリスの方が華奢、細い。


 そして――、

 ――アリスはシーリーンよりも背が高いので、キスもしやすいだろう。その分、シーリーンの方は抱きしめやすいのだが。


「ねぇ、ロイ?」


「ぅん?」

「ふふっ、なんでもない」


「そう?」

「でも強いて言うなら、あなたの名前を口にしたかったのよ」


「~~~~っ」

「それも、あなたの一番近くで、ね♪」


 満天の星々が瞬く紺青の夜空の下、ロイとアリスは初々しく、少しはしゃいだ感じで、石畳の街のストリートを仲睦まじくゆっくり歩き続ける。

 この時間、この時間をなによりも大切にするように。2人一緒にいられる時間が自分たちにとってかけがえのない宝物と主張するかのように。


 街灯にガスの明かりが灯り、辺りを優しくて仄かな感じで、そして幻想的な橙色に染め上げる。街を行く人々の雑踏も、今の2人には自分たちの雰囲気を盛り上げてくれる、小洒落たBGMのようにしか思えない。

 冷たい北風なんてもはや、互いに寄り添う名目にしかなっていないぐらいだった。


「ロイ」

「今度はなに?」

「大好きよ。世界で一番、愛しているわ」


 その時のアリスの表情かおは、まるでバラのような微笑みだった。

 美しくて、なおかつ上品、なのに親しみやすく、そしてとても愛らしい。


 アリスという少女、そのオリジナルの微笑みである。

 見る者全員を恋に落とし、思わず溜息を吐かせてしまうような、そういう魅力がそれにはあった。


「――ねぇ、アリス、恋人同士になった以上、ボクはキミに訊いておかないといけないことがある」

「? なに?」


「シィは種族柄、ハーレムを認めているけれど、アリスは、その……、えっ、と……、3人で一緒に幸せになっても、幸せと思えるかな?」

「当たり前じゃない」


 即答だった。

 思わずロイは目を丸くする。


「私が先でシィが後なら正直、もしかしたら認めなかったかも知れないわ。けれど私が後でシィが先なのに、どちらか1人を選ぶべき、なんて迫ったら、いくらなんでも自己中心的すぎるじゃない」


「た、確かに……」

「それにね? 以前、ロイには言ったはずよ?」


「?」

「誠実ならハーレムも許せる。誠実じゃないなら、1人とだって付き合うべきじゃない。恋愛っていうのは、少なくとも私にとってそういうモノだ、って」


「――うん、そう、だったね」

「そうよ」


「ゴメンね、変なことを訊いちゃって」

「まったくよ。――ん、――あっ」


 唐突、アリスは少しだけ大きな声をあげる。

 アリスが足を止めたので、恋人繋ぎをしていたロイも必然的に足を止めた。


「どうしたの?」

「教科書を忘れちゃった……。家で予習復習するつもりだったのに」


「なら、学院に取りに戻る? 少し遅いけれど、ボクが家まで送るし」

「ありがと、お言葉に甘えるわ」


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