4章11話 みんなの前で、ただ1人に伝えたくて――(2)



「――私は、ロイが好き。――私を、あなたの恋人にしてください」



 まるで魔法で時が止まったかのような感じだった

 果てしない時の流れ、その永遠からほんの一瞬だけを切り取って、さらにそれを永遠と同じ長さまで引き延ばしたような、不思議で、でもイヤではなくて、ほんのり淡くてそして儚い、特別な時間が流れていた。


 ロイはアリスの顔を見る。

 透明感のある白い頬をほんのり染めて、その表情で、告白の返事は二の次で、想いを伝えること、それそのものが大切だった、と、言葉以外のナニカを伝えてくるようだった。


 まさに、恋する乙女の顔。


 ふと、ロイはシーリーンとイヴとマリアの方に視線をやった。

 シーリーンはウィンクして、イヴはグッ、と、親指を立てて拳を突き出していて、マリアは静かに目を伏せて頷いている。


 どうやら、アリスは事前に3人に気持ちを明かしていたようだ。

 特に、シーリーンにも。


 それを察して再び、ロイはアリスのことを正面から見据える。


 そして動かせない右手の代わりに、左手で、アリスの頭を撫でた。

 髪がサラサラで、手の表面がとても心地よかった。


 それで、数秒経ってようやく――、

 アリスの頭から手をどけると――、


「どうして、アリスはボクのことが好きなのかな?」

「優しいからよ」


「シィならわかるけど、アリスなら――」

「ロイは私だけを特別扱いしないで、他の人にも、それこそシィにも優しい。だから、私だけに優しくしてほしいと願うようになったのよ」


「――――」

「誰か1人を特別扱いしないロイを好きになった。そして好きになったから、ロイに特別扱いされる1人になりたかった。ワガママ、かしら?」


「ううん、すごく、なんていうか、嬉しいよ」


 確かにアリスのそれはワガママかもしれない。

 恐らく10人に訊いたら7人か8人ぐらいはわがままと思うだろう。


 だが、可愛げのあるワガママではないか。

 実に、微笑ましい駄々っ子ではないか。


 そして、真剣なのに小さな、叶えてあげてもいいと許せるぐらいのエゴではないか。


「ボクは――、ずっとアリスのことを友達として見てきた」

「……っ」


 ふいに、アリスは切なそうに、手を胸の前できゅっと握る。

 そして不安で揺れるアリスの瞳。


「レナード先輩にも、友達としてアリスとの交際を認めるわけにはいかない! とか。アリスを好きな先輩のことが気に食わない! とか。そんなことを散々言ってきた」


「…………」

「でも、さ」


「? なにかしら?」

「普通、好きでもない女の子のために、そこまで必死にならないよね?」


「――えっ」

「普通、友達だからって理由だけじゃ、ここまで暴れる理由として足りないよね?」


「ロイ、それって――」

「それに、病院の廊下ですれ違った時、先輩にも言われたよ。結婚式ぶっ壊して、アリスを好きな俺をぶん殴って、それで責任を取らねぇなんて男らしくねぇよなァ? って」


 ハッ、とするアリス。

 対して、ロイは情けなさそうに笑って、左手の人差し指で自分の頬を恥ずかしげに掻いていた。まるで、面目ない、と、アリスに許してもらいたさそうに。


 その意味を理解した瞬間、アリスの目尻に、大粒の雫が溜まる。


「アリス。ボクもキミのことが好きだ」

「~~~~っ」


 嗚咽おえつを漏らしそうになるのを堪えるために、アリスは泣きそうになりながらも、自分の口を両手で覆う。

 その様子を見ていたシーリーンとイヴとマリアは、よかったよかった、と、3人で顔を見合わせてニコニコしていた。


 シーリーンは種族柄、みんなで幸せになれることを喜んでいる。

 一方でイヴとマリアだって、少し納得いかなくて、少し羨ましくても、幸せな瞬間をきちんと幸せと認識できて、他人ひとの幸せを自分のことのように喜べる、人として大切な感性を持っているのだ。


「アリス」

「――っ、はい」


 涙を浮かべて、震えた声でアリスはロイの呼びかけに応えてみせた。


「これからよろしくね、アリス」

「ええ……っ、ロイ、大好き――」


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