4章4話 アリスの前で、ついに――(1)



「「――ッッ、Ich凱旋 bete目指し um我は Kraft in果てなく den Armen渇望する, Geschwindigkeit腕には強さ in den Beinen und脚には Stolz darauf速さを, den Feind意志には im Willen zuを討ち往く besiegen気高さを! 」」


 流水のごとく舞い、雷光のごとく閃く斬撃。

 試験が開始すると2人は早々に【 強さを求める願い人 】クラフトズィーガーを使い距離を詰め、聖剣を仕掛けて相手に戦術を考える刹那さえ与えなかった。


 2人が地面を踏むたびに放射状に罅割ひびわれがはしり、聖剣と聖剣を撃ち合うたびに火花が弾ける。

 ウソ偽りなく、今回の戦いでも2人は命を懸けていた。


「オオオオオオオオオオッッ!!!!!」


 轟――ッ!!! と、ロイは咆哮のような風切り音を鳴らしながら聖剣を振るい続ける。最初から全身全霊の速攻であり、神さえも斬り伏せると言わんばかりに、尋常ではない双眸で、彼は当たれば確実に死に至る斬撃を繰り返した。

 まさに試験序盤から熾烈の一言であり、激越にして至高の一閃、それは間違いなくレナードの首を目掛けていた。


「させるかァァァアアアアアッッ!!!!!」


 対して、レナードの方も舞踏のように流麗な聖剣を振るった。そこに込められているのはやはり無謬むびゅうの全身全霊であり、古竜すらも斬り捨てると言外に伝えるような裂帛の気合いを彼は吼える。

 まさに勇猛果敢の体現であり、誰もがその的確さに絶句するような鋭い一閃を、意地の張り合いのごとく、彼はロイの聖剣に撃ち合わせた。



「「――――ッッ!!!!!」」



 聖剣と聖剣。

 スキルとスキル。


 異なる2つ斬撃が激突したその瞬間――、

 ――互いの能力チカラを互いの能力チカラで打ち消し合い、その剣戟けんげきは逆に、シンプルに騎士の実力で決まるだろうと両者は察した。



(…………っ、アスカロンのスキルを使おうとしても、エクスカリバーに『いつものエクスカリバー』、つまり『なにも異常が起きていない状態』のイメージを流し込まれて無効化される……ッッ!!!)


(――――ッッ、エクスカリバーに万象切断のイメージを流し込んでも、それが失敗するように確率を操作されている! かと言って、『いつものエクスカリバー』のイメージを中断したら、万象切断が当たる前にボクが斬られるはずだ――ッッ!!!)



 1回、2回、3回、4回、5回……。

 繰り返される死に至る斬撃。それを撃ち、弾く、逆に撃ち返す、そのような息を吐く間もない怒涛どとうの殺し合い。


 やはり踏み込むたびに地面には縦横無尽な亀裂が奔り、聖剣同士がぶつかるたびに、腹の底にまで響く重い金属音が鳴り爆ぜる。

 その剣戟は爆心地さえ連想させて、刃が撃ち合わされるつど、そこを中心に真剣の火花が舞い散った。


 火花が散り往くその光景は、まるで2人がおのが命を目に見える形で削り合っているようにしか見えない。

 しのぎを削るというのはまさにこのことだろう。2人の若き聖剣使いは絶対に譲れない意地を胸に、互いに何度も、幾度も、一心不乱に刻み合う。



(やっぱこいつ……ッッ、優男のクセに馬鹿力かよ!?)

(クッ、ゴリ押しできるうちはいいけど、テクニックは向こうの方が上だ……ッッ!)



 すでにアリスには2人の太刀筋が霞んで見えていた。

 その軌跡は残像さえも見出す速さで繰り返されて、ロイとレナード、2人の少年の剣はいよいよ少年のレベルを超越し始める。


 ライバルより早く、風より速く、なによりも疾く。


 互いに振りかざす聖剣と聖剣、その舞踏のような命のやり取りが終わることはありえない。

 空振りしようが流されようが、勢いをそのままに次の斬撃に繋げ続ける。その結果、両者の刃は加速に加速を重ねて、もう本人たちであろうと、負けたくなければ斬り続けるしかない領域に踏み込んでいた。


 ロイもレナードも電光石火、疾風怒濤の殺意を紙一重のギリギリで躱し続けて、凌ぎ合う。

 いつの間にか互いに呼吸は敵に隙を見せないように、最小限度の回数になっていた。そして互いにそれを察して、負けるわけにはいかず、両者は自分の限界を突破しようと目の前のライバルに抗った。



(勝つためには、もっと上へ……ッッ!!!)

(戦いながら強くならなきゃ、負けるのは俺だ……ッッ!!!)



 全力で剣を振るい続けて、的確に躱し続けて、気迫でも負けていない。だが、それでもまだ勝てない相手が目の前にいる。

 エルヴィスのように今の自分では絶対に手が届かない相手では、断じてない。だというのに、目の前の男はこれでもかというほどに自分の剣に喰らいつく。


 騎士としての血がたぎり、少年としての心が燃え盛る。

 今、この瞬間の全てを、2人は生涯忘れることはないだろう。


「――――ッ、斬撃舞踏!!!」


 ロイだって考えなしに剣を振り続けていたわけではない。

 万象切断とニュートラルな状態のエクスカリバー。この2つをイメージしながら少しずつレナードよりもテンポを速めて、もう1つイメージを流し込める余裕を作ろうとしていたのだ。


 そしてこの瞬間、エクスカリバーの切っ先がスキルによって4つに分かれる。

 しかもその全てが首、心臓、右と左の両手首――レナードにとって致命的な身体の部位を狙っていた。


(……ッッ、今のロイにスキルは効かねぇ! なら――)


 ならば打つべき一手は1つ、戦略的な後退である。

 ロイを相手に後退なんて、レナードとしては不服極まりなかったが、それが戦略的であるなら話は別だ。そう、なぜならば――、


「もうすでに知っているぜ! 斬撃舞踏は切っ先を4つに増やすが、命中率が上がるだけで必中ってわけじゃねぇ! だったらシンプルに、後退して剣の間合いから離れればいいだけの話だッッ!」


 本人の言うとおり、レナードは大きく後方に跳躍したのでロイの間合いからついに外れた。

 そして、あのレナードが距離を取ったのだ。ロイは彼の次の一手におおまかな予想を付けて、表情かおを苦渋で歪ませる。


「く……っ」

「今度はこっちの番だッッ! 行くぜッ、アスカロン!!!!!」


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