4章3話 アリスの前で、2人は剣をかまえて――



 数分後――、

 ロイとレナードは決闘場のステージの上にいた。


 今度は隣に並び合うのではなく、対峙する両者。

 2人は秋風に髪と制服の裾をなびかせながら、真剣な顔をして相手から決してそれを逸らさない。


 懸けるのは互いのプライド。斬り合うのは互いの全力。

 いかなる邪魔もなく、いかなる言い訳もない。これから行われるのはそういう戦いだった。


「前回の続きですね」

「アァ、ンで、この騒動の終わりでもある」


 2人が向かい合って立つステージ、その近くの観客席の最前列には、関係者が座っていた。そしてアリスも邪魔にならないように少し後ろの席に座っている。

 ちなみにアリシアはというと、決闘場はステージを一周するように、観客席はすり鉢状に並べられていて、観客席の下が建物になっているのだが、その建物の本来、人やエルフが座るべきではない屋上――とさえ呼べない危険な場所に、風を一身に受けながら座っていた。


「さて、改めて明言すっか」

「――なにを、ですか?」


「ナァ、ロイ」

「――はい」


「ここで、ロイに勝ったら俺はアリスと付き合える、なんて設定を持ち出したら……俺はあのクソ親父と一緒だ。なんせ、アリス本人の気持ちを無視することになんだからなァ」

「そう、ですね」


「だけどよォ、それとは別に、俺はテメェに負けられねぇんだ。俺よりアリスの隣にいるテメェが気に喰わねぇから、絶対に譲りたくねぇし――そして今はそれと同じぐらい、テメェのことをライバルだと思っているからなァ」

「奇遇、ですね」


「――――」

「前にも散々言いましたが、ボクも先輩が気に喰わない。仮に先輩がアリスと付き合えたとしても、男友達の存在さえ気に喰わないって……束縛男にも限度があります。ですがそれと同じぐらい、意地があるんですよ。これでも先輩と出会うまで、同年代の相手とは引き分けたことさえなかったんですから」


「なら、決まりだな」

「はい」


 互いにもうわかっていた。

 ここで、どうするのが正解なのか、を。


「俺もロイもここで勝てば――ッッ!」

「――アリスを心を無視するのではなく、心を自分の方に傾けて、なおかつ、意地を最後まで貫けるッッ!」


 笑ってしまうぐらい単純な話だった。

 アリスの意思、もっと突き詰めて言うならば心を、2人に強制することはできない。


 しかし強制できないだけであって、自分たちのカッコイイ姿を見せて、変えさせることは流石に可能だ。

 要するに特にレナードは、アリスを惚れさせる。ただそれだけの話である。


「 顕現せよ、エクスカリバーッッ!! 」


 その刹那、雪よりも純白な光が夜空に浮かぶ星々のように瞬き、そして黄金よりも輝く風が神聖な圧力を放出し始める。

 そして――ロイの右手に1本の聖剣、エクスカリバーが顕現した。


 芸術作品としても一級品で、もちろん剣としても至高の一言。

 気高く光る切っ先に、圧倒的に豪奢な柄。神々しく、美しく、涙が出そうなぐらい感動的な聖剣だった。


「 来やがれ、アスカロン――ッッ!! 」


 翻り、目に見える破壊の象徴と言わんばかりに、弾けるような紫電の燐光が周囲に舞い散り、夜明け前より蒼い炎が円を描くようにレナードの周囲で燃え盛る。

 そして――レナードの右手に1本の聖剣、アスカロンが出現した。


 まるで古竜の牙のように無骨、だというのにそれは剣として最高峰の切れ味を誇っている。

 鋭く閃く刃に、絶対に壊れない強固な持ち手。荒々しく、破壊的で、暴力的な聖剣だった。


「2人とも、語らいは終わらせたな?」


 と、エルヴィスが問う。


「はい」

「当然だ」


 そして――決闘場は氷雪のように静まり返った。

 張り詰めたような、肌の表面が痺れるような空気。


 目の前には、絶対に負けられない男が、ただ1人。

 観客席にいる関係者や、もはやあのエルヴィスでさえ、2人にとってはどうでもよかった。


 ただ、アリスさえ見てくれていれば。


 ロイは友達として、レナードにアリスを奪われたくない。

 レナードは異性として、ロイからアリスの心を奪い取る。


 理由も、目的も、互いに違ったとしても、2人は同時に聖剣を持つ手に力を込めた。

 そして――、


「今ここに、ボクの往く道が最強に至ることを証明する!」

「今ここに、俺の至る未来が幸せであることを証明する!」


「それでは――試験、開始ッッ!!!!!」


 音響式アーティファクトからエルヴィスのアナウンスが流れた瞬間、2人は互いに疾走を開始した。


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