4章2話 問答で、【獅子】の目を見て――(2)



 ほんの数分後、エルヴィスはロイとレナードの前に立ち塞がった。

 ロイとレナードはなんとか遅刻ですみ、欠席にはならないタイミングで王都に戻ってくることができたわけだが……試験会場に到着すると、早々にエルヴィスが2人のことを問い詰める。


「なぜ遅れた?」

「「…………」」


「もう一度だけ訊こう。オレの目を見てキチンと答えろ」

「「――――」」


「なぜ遅れた?」


 エルヴィスの目には言葉にできない凄みがあった。

 仮にウソを吐いたら、バレた瞬間に殺させる。そして吐いたウソは100%見破られる。ロイもレナードも誇張抜きでそう直感した。


 命の危機さえ感じるほどに凄絶なエルヴィスの双眸、それはまさに歴戦の猛者にしかできない目だった。

 アリエルの時にも感じたが、彼ではエルヴィスの比較対象にさえなり得ない。アリエルの数十倍以上、エルヴィスは『別格』だった。


 だがしかし。

 だがそれでも、と。


 2人はエルヴィスの目から視線を逸らさずに、迷いなく真っ直ぐな瞳で答えた。


「「人助けをしていました」」

「それは、誰かに頼まれたことか?」


「違います。あくまでもボクたちが助けたかったから助けたんです」

「正直、ホントは確かに頼まれましたが……頼まれなくても、間違いなく俺たちは勝手にやっていました」


 エルヴィスは2人の後方、ウェディングドレスを身にまとった1人のエルフの少女に視線をやった。

 自分に怒られている2人を見て、とても申し訳なさそうに身を縮こまらせている。


 エルヴィスも、実はアリスのことも少しだけ知っていた。

 アリシアの妹で、追加情報によると、ロイの友達で、レナードの意中の相手とのことらしい。


 そのアリスがウェディングドレスを着ている状態で、3人が揃って帰還してきた。

 どうやら、ロイもレナードも譲れないモノを貫いてきたのだろう。


 青い。

 だが、エルヴィスはその青くささをバカにはできなかった。


「最後に1つ。なにが、とは訊かない。成し遂げたか?」

「「はい!」」


 即答だった。

 1秒の間もなく、2人はエルヴィスの質問に早押しのように答える。


 一方で、エルヴィスは2人の目を見た。

 とても感覚的な話だが、いい目をしている。


 実はエルヴィスはロイだけではなく、レナードの方とも以前、ルーンナイト昇進試験のことを伝える際に会ったことがあった。

 そしてその両方が、以前とは比べものにならないぐらい、見違えるほど精悍せいかんな顔付きになっている。


 1つ、場数を踏んだらしい。

 ゆえにエルヴィスは(オレは本当に、こういうのにはつくづく甘いな)と内心では微笑みながら――、


「充分だ。オレはお前たちを許すから、早々に決闘場のステージの上に行け。そして、オレ以外の者に対する謝罪は試験が終わったあとだ。スケジュールが押しているからな」

「「はい! ありがとうございます!」」


 いっせいに頭を下げるロイとレナード。

 立場上、2人の青春にほだされたことを察せられても困る。エルヴィスはなるべく無愛想に2人に対して背中を向けて、決闘場のステージに向かい始めた。


 で、エルヴィスが少し離れてから2人は頭を上げる。

 そして互いに顔を見合わせて、やったな、と、言葉ではなく表情で伝えるように笑い合った。


「なにをしている? 早くこい! オレが直々に審判をしてやるのだからな!」

「「はい!」」


 大人に叱られて、なのにどこか嬉しそうな2人の少年。

 その背中を見てアリスは少しだけ彼らのことを微笑ましく思った。


(ところで……)

(あら……)


(あの子は誰かしら? 迷子?)

(エルヴィスさんに付いてきましたけれど……それは当然、アリスもいますよね。幼女の姿でよかったです)


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