ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章10話 晴天の下で、リベンジマッチに――(4)
3章10話 晴天の下で、リベンジマッチに――(4)
(ふざけんな……っ、ロイのクソ野郎が立っているのに、この俺が立てねぇだと!? 身体張って笑えねぇ冗談やってる場合じゃねぇんだよォオオオオオオ!)
が、いくら身体に力を込めても立つことは叶わない。
そもそも、レナードは今、立てるか否かを気にするような軽傷ではなく、死ぬか否かを気にすべき重傷を負っているのだ。どこからどう考えても立ち上がることは不可能だろう。
(せめて、あのクソ親父の魔術発動の原理さえわかれば……ッッ! ぶっちゃけ、もう『身体の部位を鳴らして魔術を発動させていること』はわかっている。だが――)
陰から覗いていたロイとアリエルの戦い、そのあとにした自分とアリエルの戦い、そして今。思い返せばアリエルの魔術はいつも、彼が身体のどこかの部位を鳴らすことで発動していた。
恐らく本人としても、隠すつもりがなかったのだろう。なぜなら――それに気付いたところで、それ以上の謎が待ち構えているのだから。
(――ッッ、意味がわかんねぇ! なんで身体の部位を鳴らしただけで魔術が発動するんだよ!?)
戦場で突っ伏しながらも、レナードは必死に戦い続けるロイを睨みながら考え続ける。
ロイは今、もう戦えないはずのレナードが立ち上がるのを信じて、2人のアリエルを相手取って決死の覚悟で時間を稼いでくれていたのだ。
「ク……ッッ」
「もう諦めたまえ。察するに、君はレナード君と犬猿の仲なのだろう? 彼を守らず、切り捨てた方がまだ、私に勝てる可能性があると思うがね」
ふと、攻撃を中断してアリエルがロイに問う。
不可解だったのだ、彼の心が、価値観が。
レナードはもちろんだが、ロイだってすでに満身創痍の状態だ。とても味方のサポートをできるような身体ではない。
だというのに、彼は犬猿の仲であるレナードのために剣を振るい続けた。自分だけ逃げに徹して肉体強化とヒーリングをした方が、まだ少しは長生きできるはずなのに。
「生憎ですが……ッッ! この人を斬り捨てるのは今じゃないんだ!!!」
(………………ッッ!)
「ボクたちはこのあと、約束しているんです!」
(アァ……ッッ! そうだ!)
「先輩を倒すのはあなたじゃない! このボクだ! だからこの人には、こんなところで死なれちゃ困るんですよ!」
(…………舐め腐りやがって……ッッ! あと少しで俺も立ち上がってやる!)
「それに……ッッ!」
「――なにかな?」
「あなたは自分の分身とタッグを組んでいる! つまり、自分の短所を仲間が補えない! 先輩を見捨てたら、どの道、ボクたちは負けます! だから勝つために、ボクと相反しているからこそ、先輩が立ち上がるのを待っているんです!」
何度も本人が言っているように、ロイはレナードのことがとにかく気に喰わなかった。
だが、彼の実力と覚悟は信じていた。
信頼と呼べるそれを向けられていることを察して、レナードは情けなさで奥歯を軋ませた。
自分から言ったことなのだ。俺を甘く見んじゃねぇよ、と。今回の戦い、俺は頭脳労働に回るから、テメェは肉体労働だ、と!
(…………ッッ! 考えろ! 考えろ考えろ考えろ! 術式進行っていうのは、よく音楽のコード進行にたとえられるぐらい複雑なモノだ。普通の詠唱なら声で、零砕された詠唱なら脳波で、空間に存在している魔力場に波を立てている。だが――身体の部位を鳴らすだけじゃ音としてシンプルすぎる! 声道で共鳴を起こしてようやく成立する声、従来の詠唱と同じことができるわけがねぇ!)
つまり、どういうことか――?
(だったら、前提が間違っている!? 指を鳴らしたり溜息を吐いたりするのは、別に詠唱の代わりでもなんでもなく、ただの合図? ……ッッ、まさか、最初からある程度成立しているモノを利用しているのか?)
ということは――?
(そうだ……っ、俺はなに寝惚けていたんだ!? 勉強をサボっても現時点である知識を駆使するのが俺じゃねぇか! 俺の仮説が正しければ――ッッ)
そして――、
次の瞬間――、
「
「「――――ッッ!?」」
その瞬間、レナード本人にはもちろん、アリエルと戦っていたロイにもヒーリングが発動する。
そしてロイはアリエルの隙を衝いてレナードの方に駆け寄った。
これで奇しくも初期配置と同じように、ロイとレナードが並んで、2人のアリエルと対峙している状態に戻ることになった。
「先輩! 気絶していたんじゃ……っ」
「してねぇよ! 声さえ出せなかっただけだ!」
この期に及んで、レナードはロイにまだ意地を張っていた。
しかし、先にやるべきことがあったので、レナードは血反吐を吐いて喉の調子を整える。
「エルフ・ル・ドーラ侯爵、アンタの魔術発動の原理は完璧に暴いた」
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