3章9話 晴天の下で、リベンジマッチに――(3)



(最善策である必要はない……ッッ!)

(こいつを倒せるなら、苦肉の策だってなんだってかまわねぇんだ……ッッ!)


 しかし、ロイもレナードも、そのような苦肉の策ですら思い付かなかった。


(今試したとおり、片方を集中砲火するのは無理ゲーだ)


 かと言ってロイ対アリエル、レナード対もう1人のアリエル、と、このように1対1を2つ作っても、指摘されたとおりに同じ結末を辿るだろう。


(エクスカリバーの星彩波動が当たれば片方を一撃で倒せるかもしれないけど、敵は2人いる上に、躱されたらボクの方が危うくなる)


 また、レナードのアスカロンに関して言えば、難解なスキルを有しているがゆえに、シンプルに圧倒的な火力を誇る攻撃が特になかった。


(ってぇことはつまり……ッッ!)

(……聖剣使い同士で協力し合って、両方の敵を均等に相手にする。結局、そういう真っ当な2 on 2にしか勝機はない!)


「――次、往くぞ」

「クソが……ッッ」


 2人のアリエルはその場で2回、右足で足踏みをする。その瞬間、敵であるロイとレナードすら驚嘆する速度で彼らは2方向に別れた。

 そしてレナードを挟み撃ちにするように、2方向からの【魔術大砲】が発動する。


(2 on 2でも分が悪ィ! あっちは自分の分身と組んでやがんだ!)


 当然、レナードは聖剣を1本しか持っていない。

 畢竟ひっきょう、どう足掻いても片方からの【魔術大砲】は受けるしかなかった。


「ロイ! 気にすんな! 突っ込め!」


 レナードはロイに指示しながら、詠唱を零砕して【 光り瞬く白き円盾 】ヴァイス・リヒト・シルトを展開する。

 次にそれを早急にアスカロンで斬って、ロイと戦った時のように壊れないように細工した。


 が、次の瞬間――、

 ――古竜の咆哮、魔物の雄叫びのような轟音が決闘場に響き渡った。


「グァ……ッッ!!!!!」

「…………ッッ!!!!!」


 爆発による煙が少しずつ収まってくると、そこには左腕を危ない方向に曲げ、左の脇腹からドブドブと血を流すレナードの姿があった。

 幸いにも右半身はそれなりに無事だったが、この決闘ではもう、両手で剣を持つことは不可能だろう。


 しかし、だからこそ攻撃をやめるわけにはいかない。

 彼にあれだけの【魔術大砲】を撃ったのならば、今、アリエルには多少の隙が生まれているはずだった。


 ならばそこを衝かない道理はない。

 ロイは味方の負傷を奥歯を軋ませ耐え忍び、砂煙に紛れて何回も聖剣を振るう。そしてその分だけ、飛翔剣翼が発動して片方のアリエルに向かって突き進む。しかし――、


「馬鹿め」

「!?」


「大技を使った反動で次の魔術が使えないのなら、普通に身体で躱せばいいだけだ」


 まるで踊っているように、アリエルは優雅に数多の飛翔剣翼を全て躱し続ける。明らかに肉体強化の魔術を自らの肉体に付与していた。

 だが――ロイはそれを読んでいた。そもそも、アリエルの肉体強化は前回の決闘ですでに見ている。ならば対策していない方がおかしいだろう。


「爆散!」


 ロイの叫びが木霊す。

 その刹那、その聖剣は彼のイメージを汲み取って飛翔剣翼を爆発させた。


 先ほどの【魔術大砲】と比べても引けを取らない規模の爆発である。

 ステージの床はまるで国を挙げての戦争の跡のように罅割れが奔り、破砕した。まだ勝負の決着は付いていない。だというのに、この決闘の激しさを物語っているようであった。だが、再度しかし――、



「そんな……っっ、無傷……?」

「察しているだろう? 肉体強化の魔術を複数使い、さらに魔術防壁まで展開すれば、この程度の攻撃など児戯にも等しい」


「――――ッッ!」

「そして――――」


 そして、と、アリエルが言う前にロイは気付いていた。

 なにもないけど、背後から音がすることに!


(……【 硝子 の 心得 】ウィ・ エイン・ グラス! 前にアリスも使っていた透明化の魔術!?)


 マズいマズいマズいマズいマズいッッ! ロイの脳内にけたたましい警告音が鳴り響く。

 間違いなくもう片方のアリエルも肉体強化の魔術を重ね掛けしている。背後に回るために迂回したとしても、魔術で加速しているならもう目の前にいるはずだった。


 エクスカリバーに万象切断の能力を付与して振って、ロイは牽制を試みる。

 しかし――アリエルはそれを悠々と躱して、ロイの腹部に渾身の拳を叩き込んだ。


 それと同時に、ゴズッッ!!!!! という鈍い音がした。ロイの腹部に位置する内臓がダメになったのだろう。

 それを証明するように、ロイは口から大量の血液を吐き出した。このままヒーリングしなければ、まず間違いなく死ぬだろう。


「――これで終わりかな?」


 と、透明化の魔術を解除して、アリエルは空を仰いで呟いた。

 どちらがカールによって生み出された分身かはもうわからないが、もう片方の彼も落ち着いた様子で2人が息絶えるのを待っている。


 しかし、ロイは心の中で絶叫する。

 ふざけるな、これで終われるわけがない、と。


 ロイにしたって、レナードにしたって、目的を果たして生還したいからこそ、自らの命まで懸けたのだ。本末転倒だろうが、そこには譲れない想いがあったのだ。

 今にも死にそうだが、死んだわけではない。ロイは倒れそうになる身体を剣で支えて、光が消えそうな双眸でアリエルに真正面から視線をやった。


 殺すのではなく死ぬのを待ったことを後悔させる。

 そういう意地、執念を窺わせる凄絶な瞳だった。


 だがしかし――、

 ロイは戦えたがレナードは――、


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