ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章9話 役者が揃う場所で、その役者たちは――(2)
2章9話 役者が揃う場所で、その役者たちは――(2)
勉強ができるクセに、直線的な戦い方をする。
落ち着いているように見えるクセに、誰よりも感情的なところがある。
そして一見、爽やかな優男にしか見えないクセに、頑固で、こだわりが強くて、心の中に譲れないモノを秘めていて、なのにそれを貫くためなら、どこまでも泥臭くなれる。
あぁ、やっぱり、こいつには負けられない。
レナードは内心でロイのことを認めて、その上で――、
「ロイ、テメェ、俺のこと舐めてんのか?」
「……ッッ」
――ドスを利かせた声で、レナードはロイに一歩、乱暴に足を踏み出した。
怖かったわけではない。しかし、責められているのには変わりない。ゆえにロイは身体をビクッと震わせる。要するに良心の呵責が起きたのだ。
「不戦勝だァ? この俺がンなチンケな結末を許すとでも思ってんのかよ」
「それは……その……」
「確かに不戦勝なら、俺は楽々ルーンナイトに昇進できる。けどよォ、ンな白けたやり方で昇進するなんてなァ、俺のプライドが許さねぇんだよ。それを認めちまったら、俺の人生にとんでもなく大きい後悔を残しちまう」
そこでレナードはさらに一歩前に出て、ついに今、ロイの胸倉を強引に掴んだ。
まるで不良の手本のようなガンを飛ばし、ロイに対して強く苛立つ。
しかし、ロイの決意は固かった。
ロイはウソ偽りなく、レナードに申し訳なさを覚えていても、その上で彼から目を逸らさずにエゴを叫ぶ。
「すみません……ッ、だとしても! ボクはアリスのもとに往く!」
「なぜ?」
「先輩との戦いよりも、アリスの方が大切だからです!」
「ハッ、言うじゃねぇか」
確かに昇進試験の方が公で、正式なイベントだし、政略結婚の妨害をするなんて、どこからどう考えても非常識的だ。
しかし、行って正しいのが前者でも、どうしても行きたいのは後者なのである。
他人に迷惑をかけるだろう。シーリーンやイヴやマリアに心配もかけるだろう。犯罪にも問われるかもしれない。そうでなくても、責任は必ず発生する。
つまり、責任さえ取ればいいのだろう? なんて、ロイはそのようなことを言ったりはしない。
ただこれは――、
――周囲から見える自分、形を気にし続けていた自分がようやく辿り着いた、自分が望んだ自分、剥き出しの想いなのだ。
「……結局、ボクはとても稚拙な人間なんだ」
「アァ?」
「見栄えの良さを気にして、今までお利口さんを演じてきた。今も、そして昔も。あんまり弱音を吐いたことはなかったけど……それは裏を返せば、助けを求める声を上げなかったことにもなるって、わかっていたはずなのに」
「――――」
「因果応報、言葉にしなかったんだから、気付かれなくて当然だ。でも……今度こそ言葉にする!」
ジレンマだった。
少なくとも今回に限れば、理知的に物分かりがいいふりをすればロイのストレスになるし、感情的に騒ぎを起こせば第三者の迷惑になるのだから。
しかしそれでも――、
ロイは大きく空気を肺に取り込んで――、
「いいですか!? 正直、先輩に殴られてもかまいません! それでも昇進試験なんて、アリスの件に比べたらどうだっていい! それがロイ・モルゲンロートの本心なんです!」
ロイの叫びが夜空に木霊し、そしてレナードは彼の目を覗き込む。
嗚呼、間違いなかった。逸らすことはもちろん、揺れることさえない。ロイの目は端的に言えば、覚悟を決めた男の目をしていた。これは間違いなく、
レナードはこの目を知っている。
先刻も、鏡で見たばかりだったから。
ことをジッと見据えた。
そして数秒後――、
――レナードはロイの真意を推し量り、突き放すように彼の胸倉から手を離しす。
「ケッ、テメェは建前とか、ウソじゃねぇけど真意でもねぇ言い方とか、関係を上手く回すためのウソってモンを知らねぇのかよ。バカ正直にも限度があるぞ」
「ゴメンなさい……。でも、ボクはこういう人間なんです」
「――心は優しいが、自分勝手。逆を言えば、自分勝手だが、心がある程度優しい分、周りに迷惑をかける機会が滅多にない、か。人間味に溢れてんなァ」
「ボクが?」
「他に誰がいんだよ? 人は生まれながらにして良心を持っていて、そして同じく、人は生まれながらにして自分本意な生き物だ。それに折り合いをつけようとした結果、少なくともここに1人、自分の信念に恥じない人間ができあがった。正直よォ、俺には眩しすぎるぜ」
ハッ、と、レナードは面白そうに――否、あるいは自虐するように笑った。
ふと考えてみれば、ロイは彼のことをまったくと言っていいほど知らないのだ。
ゆえに訊いてみたい気持ちが芽生え始めなかったわけではない。
しかし、それを察したのはどうか、レナードは急に、あまり関係なさそうな話題を切り出してくる。
「ロイ、蒸気機関車って知っているか?」
「? えぇ、まぁ」
「なら踏切は?」
「知っていますけど?」
「なら、踏切を、みんなで渡れば、怖くない、っつーガキの頃によく使った屁理屈は?」
「――――っ」
その刹那、ロイはレナードの意図を把握する。
この男には、これだから意地でも張り合わなければならないのだ。
「ハハ、ハハハ……知っているに、決まっているじゃないですか!」
ようやくロイは好青年らしく爽やかで快活な笑みを浮かべた。
対してレナードも上等と、そう言外に伝えるように笑ってみせる。
それが互いにとって必然の反応だった。
そうこなくては、ロイにしても、レナードにしても、微塵も面白くないのだから。
「今さらだけどよォ、俺もアリスの方に行くぜ! 俺とロイ、2人揃って昇進試験に遅れようじゃねぇか!」
「ふっ、先輩、そうすれば開始時刻が後ろ倒しになるって腹積もりですか?」
「ハッ、一々わかりきったことを聞いてくんじゃねぇよ。野暮ってモンだぜ、それは」
「でも、いいんですか?」
「アァ?」
「2人揃って遅れても、昇進試験が後ろ倒しになる絶対的な保証はありませんよ? 後ろ倒しになる可能性もあれば、同じように、2人揃って不合格になる可能性もあるはずです」
「オイオイ、それがどうしたってんだ?」
「わかっていると思いますが、先輩は残るだけで勝ちが確定するんですよ?」
「違うな。俺は確かにテメェに勝ちたい。だがそれは騎士としてじゃねぇ。男としてだ」
「――――ッッ」
「結婚式に乱入して花嫁を奪い返すだァ? そんな美味しい役を、テメェばっかにやらせっかよ! テメェの友達はよォ、この俺が惚れた女でもあるんだ!」
言うと、今度はレナードの方が大きく息を吸って、空気を肺に取り込んだ。
そしてまるで子どもが意地を張るように――、
「好きな女を奪い返す! 男として、最ッ高にカッコいいじゃねぇか! それがレナード・ローゼンヴェークの本心だ!」
敵ではないけれど気に喰わない。
しかし、友達ではないけれど、互いに互いを認めている。
好きではないけれど憎んでおらず――、
――嫌いではないけれど性格が正反対。
ケンカばかりの友情、憎しみを持ち込まず清々しい気分で戦う関係。
2人とも、もう否定しようとしても否定できなかった。この男と自分はライバルになったのだ、と。
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