ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章8話 役者が揃う場所で、その役者たちは――(1)
2章8話 役者が揃う場所で、その役者たちは――(1)
深夜3時、ロイは秘密裏に寄宿舎を抜け出して、学院の決闘場に訪れていた。
とはいえ、なぜ決闘場なのか? 答えはシンプルに、3つの線が交差するのがここしかないからである。即ち、その3つの線とは――、
「遅かったじゃねぇか、ロイ」
「あら、ほんの少し見ないうちに、ずいぶんと精悍な顔付きになりましたね」
――ロイと、アリシアと、レナードのことである。
まず、ロイは寄宿舎を出る時点で『役者』を考えてみたのだ。要するにアリエルが仕組んだアリスの政略結婚、これに首を突っ込んで異議を唱えるのは誰か、ということである。
とはいえ、答えなんて考える前から出ているようなモノだった。
ゆえにロイは自分自身と、アリシアと、レナードを答えに採用する。
そしてこの3人が、たった一度でも一堂に会したのは、この学院の決闘場だけである。
だからこそ、ここに『役者』が揃ったのだ。
「先輩も、アリシアさんから聞きましたよね? ルーンナイト昇進試験の対戦カードが、ボクと先輩の組み合わせだって」
「ったりめぇだ」
「予め謝っておきます。ボクはルーンナイト昇進試験に行きません。結果、先輩は不戦勝になるか、別の誰かと戦うことになるでしょう」
「ハッ、殴るのは後回しにしてやるから、サッサと続けろ」
「そしてもう1つ謝らせてください。実は……ボクとアリスは、付き合っていたわけではないんです」
深々とロイは頭を下げる。
ロイはレナードの気が収まらずに、彼が要求するなら、土下座だってする気構えだった。当たり前である。今まで自分とアリスがしてきたことは、明らかにレナードの心情を無下にしているのだから。
だがレナードはなにも言わず、ただ鋭い双眸で頭を下げ続けるロイを見続けるだけだった。
そしてアリシアも、流石にこの段階では口を挟もうとしてこない。
「詮索されたくなくて周囲を誤魔化すために、そして思い出作りのために、偽物の恋人を演じていただけだったんです」
「ケッ、やっぱりテメェは気に喰わねぇ」
吐き捨てるようにレナードはロイのことを罵った。
流石にロイも、今回ばかりは彼の罵倒を真正面から受け止める。それだけのことを自分はしたのだ。
しかし、ロイが本当に反省していることを察したのだろう。
ひとまずレナードは怒りの矛先を納めて、代わりに質問という形で話を進めた。
「で? なんでテメェはルーンナイト昇進試験にこねぇんだ? 理由ぐらいあんだろ?」
ここでロイは頭を上げた。
続いて真正面からレナードに視線をぶつける。
まるで意地っ張りな子どものようだが、ここで目を逸らした方が負けである。
勝ち負けの問題ではない、ということは関係なかった。どちらも年相応以上に、子どもというわけではないが、とにかく負けず嫌いだった。特に、互いに目の前の男にだけは死んでも負けなくなかったのである。
端的に言えば、舐められたくなかった。
本当にそれだけだった。
「ボクはアリスを助けることを優先する」
「――へぇ」
「ルーンナイト昇進試験とアリスの結婚式が同じ日に別の場所で行われるなら、たとえ先輩を無下にしても、ボクはアリスの方に行きたいんだ」
不意に、レナードはクツクツと笑いを堪えた。
あぁ、これは愉快、これは傑作だ。そう言わんばかりに我慢しようと思っても、勝手に笑いがこみ上げてくる。
「意外とテメェ、俺っつーか、ルーンナイト昇進試験っていう正式なイベントを無下にしているっつー自覚はあんだなァ」
「それでもボクは、自分のやりたいようにやります」
「俺が言えたことじゃねぇが、エゴだぞ、それ」
「――そうです、ね」
ふと、ロイは『過去の光景』『いつもの自分』を思い返した。
前世でのことや、この世界に転生してからのこと。そして学院にきてからのことや、なによりも、先ほどシーリーンに言われた言葉を。
これは離別ではない。決別だった。
ワガママを押し通せば、当然、その責任は自分に返ってくる。その意味を理解した上でなお、ワガママを押し通すことをやめない。
仮にアリスの奪還に成功しても、周囲にはなにかしらの反省を求められるだろう。
しかし、流石にそれは理不尽ではない。少なくともロイにとっては、自らの意志で過去の自分に別れを告げることは、成長とも呼べる決意だった。
「よく、みんなはボクのことを褒めてくれるし、それはそれで、もちろん嬉しいです。けど、本当のボクはそんな高尚な人間じゃないし、そうなれるとも思わない」
「……偶然、自分のしたいことと周りが褒めてくれることが、一致しただけか?」
「えぇ、そういう時もありましたし、そうじゃなかった時は、自分の気持ちを押し殺す方が多かったと思います。でも――」
「アァ?」
「ボクはもう迷わない。自分が満足できるように、そして死んじゃう時に、心から笑って死ねるように、ボクは自分の人生を使います」
「――――」
「それが
それを聞いて、レナードは獣が牙を見せるように、好戦的に笑う。
そうだ。こいつは、ロイ・モルゲンロートは、やはりこうでなくてはならない。
他の誰もが否定しても、レナードだけは心底強くそう思った。
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