ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章7話 この世界で、まだまだたくさんやるべきことは――(2)
2章7話 この世界で、まだまだたくさんやるべきことは――(2)
ハッとするロイ。
同じことを願うこと。
感情的に悩みに共感されなくても、論理的に言っていることを理解されなくても、それぐらいならば、叶うかもしれない。
現にシーリーンだって、ロイとは違う生まれで、別々の人生を経て今に至っているとしても、アリスと離れ離れになりたくない、その願いだけは同じである。
綺麗な関係だと思った。
一緒のことを願う仲。同じことを望む関係。
シーリーンの言うように、同じ人やエルフなんて誰一人として存在しない。
世界には共感できないことだって山のようにあるし、何事も話せばわかるというのは幻想だ。
繰り返しになるが、実際にシーリーンだってロイの心のうちを100%共感、理解しているわけではない。
だというのに、同じことを願っているという、ただそれだけのことで、ロイはシーリーンに背中を押されている感じを覚えた。
「シィ」
「なぁに?」
「ボクは不本意な離別、本人の意思を無視した終わり方が絶対に認められない」
「うん、さっきも聞いた。大丈夫、届いているから」
「理由は……2つある」
「うん、ゆっくりでいいよ? ずっと、聞いていてあげる」
「1つは単純に、怖いんだ。理不尽だと思う。残酷だと思う。なのに、抗うことができない。できたとしても、それを覆すことに成功するとは限らない。とっても、悲しいことだよね」
「そうだね。シィも、ロイくんと一緒だよ」
「前世で死ぬことが怖かった。父さんとも母さんとも、もっと一緒にいたかったのに……。幼馴染の子とも、もっと一緒に遊びたかったのに……。だから今回だって、こんなことになって、本当に、ただシンプルに、イヤなんだ」
「2つ目の理由は?」
「……悲しいんだ。人に限らず、生き物はいつか必ず死ぬ。死ななくとも、別れはいつか必ずやってくる。だから、離れ離れをイヤがるなんて、子どもっぽいとバカにする人もいるかもしれない。けど、別れを受け入れることが大人になるということなら、今は、今はまだ、ボクは別れをイヤがる子どもでいい」
「シィもね、それでいいと思うよ。そういうのは、自分のペースで。特にロイくんは、他の人と事情が違うもん」
「でもさ――悲しいっていうのは、ボクだけじゃないはずなんだ。自惚れかもしれないけど、ボクは前世の両親と幼馴染に、ボクが死んだっていう悲しみを置いてきた。っていうか、一度死んだボクが、今こうして悲しめていることの方が例外的だからね」
「そっ、か。だったら、今回のアリスは――」
「傲慢な考え方かもしれない。けど、きっとアリスも、ボクとこんな形で疎遠になるのはイヤだって信じている。ボクは、ボク自身が悲しくなるのもイヤだけど、相手の方を悲しませるのは、もっとイヤだ」
ロイが語った1つ目の理由は自分本意である。ロイ自身が別れることを怖がっているのだから当然だろう。
そして2つ目の理由は他人本意である。ロイは他人が自分と別れることで悲しむ様子を、見たくもないし、聞きたくもないのだろう。
ともすれば、2つ目の理由は思い上がりも
自分と離れ離れになったら、相手が悲しんでくれる。そのように確信しているなんて、よほど自分に自信があるのだろう。
しかし、違う。
察しのとおり、ロイに自信なんて代物はわずかにしかない。アリスは真面目な女の子だから、友達との別れを泣いてくれるはずだ。と、そのように、自分ではなくアリスのことを信じていた。
少なくとも――、
――ロイとアリスは友達、これだけは絶対に揺るぎようがない事実なのだから。
「ボクは、ボクを信じるんじゃなくて、ボクとアリスの絆を信じる」
「絆があるから、アリスなら悲しんでくれるってこと?」
「うん」
「その上で、アリスには悲しんでほしくないんだよね?」
「そう、だね」
さぁ、泣くのはヤメだ、ロイ・モルゲンロート。内心でそう呟き、ロイは自分で自分を激励する。
立ち上がるのは今しかない。今立ちあがらなくて、いつ立ち上がるというのだ。
抗う理由があるのだ。抗わないといけない理由があるのだ。
なら、そのための行動を起こさない理由はどこにもない。
その刹那、ロイの双眸に決意の光がついに宿る。
そして彼は本心から、自分の隣にシーリーンがいてくれてよかった、と、そう感謝した。
報われた。救われた。そして、自分は他人から愛されてもいい人間、この世界に存在してもいい命なんだと実感できた。
曇天から晴れ間が覗け、あっという間に光が差して空が晴れ渡るような感覚が心に広がる。もう、現世でロイと呼ばれている少年に迷いはない。
確かにそこまで、たとえば世界規模のやり取りをしたわけではないだろう。結局、ロイの葛藤は個人的なモノにすぎない。
しかし、こんな自分に、傍で支えてくれる最愛の女の子がいたことは、本当に幸いだった。
結論を出してしまえば、どうってことはない。
ロイは前世の記憶と、転生という世界規模の奇跡が原因で、離別というモノに異常なほどネガティブな感情を抱いていた。そして、現世こそはその奇跡に見合うほど、上手い人生を送るつもりだった。ゆえに、彼は貴族に決闘を申し込んでまで、アリスの政略結婚に異議を唱え続けてきたのである。
それに対して、シーリーンはただ、優しく言葉をかけて背中を押しただけだ。
しかし、これでいいんだと、ロイの顔にようやく微笑みが戻ってきた。
世界を変えるほどのなにか。
それが聖剣だろうとゴスペルだろうと、アリシアが使う
それは所詮、理想を形にするための手段だ。
何事も真に大切なのは、それらを扱う意志と、その強さである。ゆえにロイはこれでいいんだと、個人的な悩みが解消されただけで、理不尽に立ち向かうには充分だと微笑んだのだ。
「シィ、ありがとう。泣いて、喚いて、スッキリした」
「いいよ、好きな人が苦しんでいるんだもん。抱きしめてあげることぐらい、シィにだってできるんだから」
そしてロイは立ち上がって、今までずっと成り行きを見守っていたクリスティーナに振り返る。
彼女は主人の泣いている姿を見たというのに、一切の動揺を見せなかった。むしろお日様の下、道端に咲くタンポポのように、素朴で、なのに可愛らしい微笑みを浮かべて、ロイに一歩だけ近付いた。
「ご主人様」
「なにかな?」
「メイドというのは使用人でございます。本来、ご主人様のすることに一々、口を挟みはいたしません。自らの主人が良いことをしても、悪いことをしても、黙って与えられたことを淡々こなし、ご主人様のサポートをするのがメイドでございます」
「悪事でもサポートするの?」
「はい、まぁ、基本的には逆らえませんので。ですが――」
「?」
「世の中には必要悪というモノがあります。たとえば自分の信念を貫くために、夜遅くに寄宿舎を抜け出す行為。わたくしも悪いことだとは理解していますが、それを踏まえた上で正直、カッコイイとも思っております」
「クリス――っ」
思わず嬉しそうな声をあげるロイ。
そのまま、タンポポのような笑みを浮かべながら、クリスティーナは続けた。
「そして今回に限り、一点だけ、差し出がましいことを申し上げますと――」
「?」
「ありきたりなセリフですが、ご主人様は1人ではございません。わたくしはもちろん、シーリーンさまや、イヴさま、マリアさまが、ご主人様についています。そしてアリスさまも、ご主人様のことを、絶対に想ってくれているはずでございます」
「それがアドバイス?」
「えぇ、ですから、ご主人様?」
「――――」
「ご主人様はもう、悩まなくてもよろしいんです。心が繋がっているならば、あとは本人と再会するだけでございますよ?」
「そうだね。あぁ、そっか。別れはいつかやってくる必然だとしても……もう、ボクはとっくに1人じゃなかったんだ」
ふと、今度は自分の方から、ロイはシーリーンのことを思いっきり抱きしめた。
急にハグされて「ほぇ!?」とシーリーンが驚いているが、関係ない。
これだけ献身的に自分のことを励ましてくれた子が目の前にいるんだ。
理由はどうあれ、シーリーンは自分で言わなかったが、こんなに優しい子がいるのに自分は孤独だと思っていたなんて、酷い勘違いもあったものである。
反省して、二度を同じ過ちは繰り返さないと決意して、ゆっくりと、一度だけロイは目を瞑った。
そして数秒の時をかけて目を開くと、キッ、と、強い意志を双眸に宿す。
もう、自分がなすべきことはわかっている。
この意志の強さで、自分はまだ立ち向かえることを証明するのだ。
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