1章14話 決闘のあとで、さらに決闘を――(3)



「ハァ……ハァ……」

「なるほど、そういうことか」


 息を乱れさせるレナードに反して、アリエルは涼しげな表情かおでなにかを納得した。

 そしてレナードが躱したことによって遠くに飛んでいったアリエルの【魔術大砲】が数秒後、遠くで爆音を轟かせる。


「私は最初、【零の境地】を使って君の肉体強化を無効化した」


「――――」

「なのに君は意に介した様子もなく、無効化する前と同じ速さで【魔術大砲】を躱してみせた。私の【零の境地】は100%発動したのに、だ」


「……それで?」

「わかってしまえば単純そのもの。ただ単に、君は肉体強化の魔術を二重奏デュオで使っていただけだね?」


 アリエルは肩をすくめると、その場で左足を2回足踏みさせる。

 そしてその刹那、再び【零の境地】が発動した。


 傷だらけ身体がもとの強度に戻ったのだ。

 その証明のようにレナードは苦し気に「かは……っ」と咳き込み、アスカロンを杖のように地面に立ててなんとか踏ん張る。


 だが、それでも――と。

 なぜか、レナードは愉快そうに笑ってみせた。


「エルフ・ル・ドーラ侯爵、アンタ今、索敵魔術を使っただろ?」


「――――」

「だから目眩ましの中でも俺を捕捉することができた」


「――それで?」

! 索敵魔術を使うということは目が見えていないということ! そして索敵魔術は敵影を感知する魔術だから、不可視の攻撃まではわからない!」


 轟ッッ! と、レナードはアスカロンを振るった。

 なにも斬っていないように見えるが――違う。


 レナードがアスカロンで斬ったのは大気だ。その瞬間、アスカロンのスキルが発動して、剣を扇の代わりにしただけで風の大砲が吹き荒ぶ。

 これをアスカロンを数回振って、彼は何発も量産しまくり攻め続けた。


「喰らいやがれェェ……ッッ!」

「チッ」


 再度、アリエルが舌打ちする。

 そして瞬間的に魔術防壁が展開された。


「オラ、オラ、オラ、オラァァッ!」


 ドッ、ドッ、ゴッッ、ドッ、ゴオオオオオオ! と、竜の咆哮を連想させる轟音を響かせて、風の大砲が何発もアリエルが展開した魔術防壁に、激しい音を立てて激突する。

 その衝撃で地面は盛大に抉れ、大気は魔獣のように唸り、大気中の魔力が乱れ狂った。


 まるで地鳴りのような轟音が響いてもなお、レナードは攻撃の手を休めない。

 が、しかし――、


「なんだァ……あれは!?」


 恐らく、両者の間にある魔術防壁のせいだろう。

 詠唱は聞こえなかったが、アリエルの頭上に超々巨大な【魔術大砲】が出現した。


(――【魔術大砲】を多重発動して、それを1つのまとめたのか!?)


 その直径、おおよそ3m以上。

 これに直撃したら下手したら死ぬかもしれない。


「ハッ、【光り瞬く白き円盾】と索敵魔術、そして明らかに複数の【魔術大砲】を1つにまとめ上げた【魔術大砲ヘクセレイ・カノーナオイサースト】ッッ! クソが……ッッ、どんなに少なく見積もっても五重奏クインテットじゃねぇか!?」

「確かに、今の私は目が使えない。しかし風の大砲は常に、その聖剣から一直線に撃たれるのだろう。そして、その聖剣を手に持っているのは君だ」


 と、ここでアリエルは一呼吸、置く。


「ならば広範囲攻撃を君に向かって放てばいいだけの話だ。風の大砲が見えずとも、索敵魔術で君の位置は把握している。今からその地点から走ってきて、果たして撃たれる前に防壁を斬れるか否か――試させてもらおう」


 言い終えると同時に、レナードに向かって【魔術大砲】が放たれた。

 まるで巨星が地上に落ちるかのような迫力に、思わずレナードは次の一手について逡巡してしまう。


 幸いにも【魔術大砲】は威力を重視したために1発しか放たれていない。

 実はアスカロンで充分に対処可能である。スキルの許容限界を超えるということもないだろう。


 だが――、


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る