1章10話 挑発のあとで、決闘を――(3)



 魔術を使えない状態にすれば、魔術師が騎士に勝てないのは自明のことだ。

 しかしこの状況は、自分だけ魔術が封じられているのに、相手は魔術を使える状態である。両者が互いに魔術を使えない状態と言えるわけがない。


 それはつまり、ロイは今、肉体強化もヒーリングすらもできない窮地に陥ってしまった、ということである。

 無論、爆発ぐらいでアリエルの魔術を封じられるとは思っていなかったが、それでも詠唱零砕ぐらいは阻止できると踏んでいたのだ。が……これではロイだけが損をしてしまった形である。


「今度は私から往くぞ」


 再びアリエルは右手の親指と人差し指を鳴らした。

 そして顕現する【魔術大砲】。今度は5つものそれが真正面から飛んでくる。


 まるで飛翔する竜の突進のように迫りくる巨大な砲弾。

 肉体強化にしろ、魔術防壁にしろ、魔術を使えない状態で、ロイが岩雪崩のようなその攻撃を躱すのは非常に難しい。


 唯一、突破口があるとすれば――今、自分が両手握っている聖剣以外にありえない。

 だが、先ほどもエクスカリバーの飛翔剣翼で【魔術大砲】を相殺しているのだ。同じ手が2度通用する相手とも思えない。また砂煙を発生させようにも、同じ轍を踏むだけであるのは火を見るよりも明らかだろう。


(考えろ考えろ考えろ! 想像するんだ! 想像を反映する聖剣で、現状を打破する想像を!)


 瞬間、ロイの頭の中に1つの策が閃く。

 しかし、それは控えめに言ってバカのやることだった。失敗したらまず間違いなく自分が敗北する。


 だが、やればわずかにでも勝てる可能性が上がるのだ。

 なにも挑まなければ敗北は必然なのに、挑めば勝機が生まれる。ならば、挑まない道理はどこにもない。


 思いっきりやればいい。

 やらずに後悔するよりも、やって後悔した方が絶対にマシなのだから。


 ロイは聖剣を自分の真上に掲げて構える。

 ロイが使うのはエクスカリバーで放てる最強の技、アリシアとの戦いでもレナードとの戦いでも使った星彩波動以外にありえない。


 だが――、

 ――ただの星彩波動にあらず。


 想像するのだ。

 ただ星彩波動を撃つのではなく、それが当たったら、盛大に爆発するイメージを!


「エクス――ッッ、カリバアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 弩ッ、轟――ッッ! と、竜がそのあぎとから放つ爆炎のごとき極光が、エクスカリバーの切っ先から放たれた。

 大気中の魔力を燃やすように熔かしながら、聖剣の波動は5つの【魔術大砲】に向かって世界を鳴動させながら突き進む。


 1万分の1秒にも満たない時間のあと、星彩波動と【魔術大砲】が激突した。


 そして同時に王都のこの地域一帯を揺らすような爆発が起きる

 幸いにもその爆発は空中で起こったため、地上、ステージの上にいたロイとアリエルは無事だったが――、


「ロイ君、この私に、同じ手が通用するとでも?」


 悠然と語るアリエル。

 しかし、ロイはそれに応えなかった。


「しかも、1回目ですら失敗に終わった手を」


 すっ、と、アリエルは右手を構えてロイに向けた。魔術を使う気である。

 しかしその瞬間、アリエルの表情かおにこの決闘で2回目の焦燥が滲む。

 それを確認して、ロイは思惑通りとほくそ笑んだ。


「どうですか? 今度こそ魔術が使えないでしょう?」

「なん……ッッ、だと!?」


 何度指をパチン、パチン、と、鳴らしても、一向に魔術は発動しない。

 ロイがしたことは、火と酸素の関係を知っていれば誰でも思い付くモノである。


「爆風消火の魔術バージョンですよ」

「爆風消火……!?」


「――『油田火災』ってご存知ですか? これは、言ってしまえば油の海が炎上する火災なのだから、当然、普通の火事よりも規模が比べ物にならないほど大きいです」


 事実、ロイの前世のイラクでは、3ヶ月以上も鎮火できなかった油田火災も存在した。


「そんな油田火災で普通の消防手段よりも効果が見込めるのが『爆風消火』という消火方法なんです。火事の現場で意図的にダイナマイトを使い爆発を起こす。結果、酸素が急激に消費されて、酸素がなくなれば火は消えるので、瞬間的に鎮火してしまう。かなり、本当にかなり端折はしょって説明すれば、それが爆風消火」


「馬鹿な……、そんな技術が存在したのか!?」

「ボクはそれを魔力に応用した。聖剣の波動に爆風消火 ver. 魔力のイメージを流し込んだんです。結果、聖剣の波動の余波にキャストされた爆風消火 ver. 魔力によって、周囲の魔力は急激に消費されて、その周辺にいる者たちは魔術を使えなくなる」



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