ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章5話 人気がない学舎の裏で、手紙を――(2)
1章5話 人気がない学舎の裏で、手紙を――(2)
「ゴメンね、ロイ?」
「……なんで、アリスが謝るのさ?」
「ロイは今、ボクはアリスが望むなら、って言い方をしたわよね?」
「それが、どうかしたかな?」
「ロイは優しいから、私が退学することになっても、私の望まないという意思を、蔑ろにできないんでしょう?」
「そこまでわかっているなら、なんで……」
「ロイって強引なのか、そうじゃないのか、よくわからない男の子ね」
話すことで少しは気持ちが楽になったのだろう。
可憐に、アリスはクスクスと軽く微笑んだ。
それはともかく、ロイは自分で気付いておらず、そして、アリスも漠然としか理解していない。
しかし、ロイの強引さには一定の基準があった。
即ち、自分本意ではなく、他人本意であること。
気取った言い方をするならば、ロイは自分のためではなく、他人のために戦うのだ。しかし本人は、他人のために戦うのが自分のため、なんて言い張るだろうが――。
事実、ロイはジェレミアとの決闘で、シーリーンの涙を見て、彼に決闘を挑んだ。
そして、前回と今回、シーリーンとアリスのどこが違うかといえば、シーリーンがしていたのは『泣き寝入り』で、アリスがしているのは『諦め』というところである。
立ち向かわない、抗わないという意味では両者一緒かもしれない。
しかしシーリーンは現実を認められなかったが、対して、今のアリスは本意ではないが現実を一定ライン以上、認めてしまっている。
「…………っ」
ロイは奥歯を軋ませる。
せめて前回のシーリーンのように、口では否定しても心が助けを求めていて、それが涙など、なんらかの形でわかればいいのだが……アリスは口でもそうだし、頭がよくて真面目なぶん、助けを求める心さえ自分で論破できてしまうのだろう。
助けてあげる、という態度は誰が誰にしたとしても危険なモノだ。
とどのつまり、ロイが強引になれるか否かの基準は、救う相手が心から救いを求めているか否かだったのである。
「ロイ、ありがとね? でも、昨日言ったばかりでしょう?」
「――――」
「ロイはもう気にしないで、って」
「けど……!」
「そしたらロイは自分にできることを訊いてきて、私はそれに、最後まで、私の恋人役を貫いて、って言ったはずよ?」
確かにロイはそう言われた。
アリスとそのように約束した。
だからきっと、少しだけ浮かれてしまったのだろう。昨夜、アリシアから結婚式の日程を聞かされて。
アリスの父親のスケジュールがわかれば、もしかしたら、少しでも、なにか手を打てるのではないかと。
しかし心に熱をなんとか取り戻せたが、これではアリスによって冷や水をかけられた形だ。
いいか悪いかという議論は置いておいて、ただ純粋な事実として。
「そういえばロイ、お姉様から昇進試験の詳細って聞いていないの?」
アリスの口から昇進試験という言葉が出てくる。実は普段の日常会話の中で、アリスには昇進試験のことを伝えていたのだ。
無論、シーリーンやイヴ、マリア、それとクリスティーナもこのことは知っている。
「えっ?」
「お姉様は特務十二星座部隊の一員でしょ? なら運営に関わる権限はなくても、昇進試験の日程ぐらいなら知っていると思ったのだけれど……」
「う、うん、教えてもらった、よ……」
ロイは確かに、アリシアから昇進試験の概要、対戦相手と日程を教えてもらった。
そして、その日程はアリスの結婚式の日と同じ、ラピスラズリの月の1日だったのだ。どちらかに赴けば、必ずどちらかには間に合わなくなってしまう。
「アリシアさんから、教えてもらったんだ」
「日程を、かしら?」
ロイがあまりにも思い詰めた
「ボクの昇進試験と、アリスの結婚式は、同じ日に行われるんだ」
「なら――なおさら私のことを心配している場合じゃないわね」
「っっ」
即答だった。
アリスはノータイムでロイにこともなくそう言い切った。
そしてロイだってわかっている。察している。
自分がアリスのことを考えて駆け落ちを提案したのとまったく同じで、アリスも自分のことを考えてくれているからこそ、あえて素っ気なく突き放したことぐらい。
実際、昇進試験には落ちたところでデメリットはない。ただ悔しいだけだ。
しかし駆け落ちなり式場に乱入なりした場合、当然社会的な制裁を受けてしまう。当たり前ではあるが、試験を放棄したからといって、必ずしもアリスを救えるというわけではない。
感情的に納得できないだけで、頭ではわかっている。
そう言いたげに、悔しそうに震わせるロイの拳。それをアリスはそっと、自らの両手で包み込んだ。
結局、ロイもアリスも、情報が増えたところでなにもできない。
それを慰め合うように、2人は手を繋ぐ。
ボクたちは、私たちは、1人じゃないと、言葉以外のなにかで主張するように。
「今日も含めて残り9日、最後まで、偽恋を楽しみましょう」
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