ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章9話 2人きりの自室で、ロイに秘密を――(1)
4章9話 2人きりの自室で、ロイに秘密を――(1)
しばらくして、ロイは寄宿舎の自室に戻ってきた。
当然だが、自室にはロイしかいない。
他の人は誰もいない自分だけの領域だ。
ゆえに、我慢してきたモノをここでなら爆発させられる。
「ふざけるな! なにが聖剣使いだ!? なにがゴスペルホルダーだ!?」
みっともないことだということは百も承知だった。ロイは自分で自分を滑稽だと強く思う。
だとしても我慢してきたモノを堪えることができず、彼は荒っぽく机とセットになっている椅子を蹴り飛ばした。
我慢してきたモノ。それは怒りように運動すれば解消するモノでもなく、悲しみのように時が解決してくれるモノでもなく、そして本当は、無力感のように気怠さが取り憑いているようなモノでもない。
外に働きかけても解消されず、周りが変化しても解決せず、しかしダウナーなストレスというより激情に支配されるようなクオリア。それは「なんでお前はなにもできないんだ!」と自分自身を罵るような自罰的な憤りだった。
「ジェレミアの時もそうだった……っ! 前回は別の方法で上手くいったけど、ボクは結局、肩書きに相応しい中身が伴っていないんだ……ッッ!!!」
武力では権力に勝てない。『強さ』では『偉さ』に負けてしまう。
チカラがほしい。戦いに使える能力、名前があってわかりやすい能力ではなく、自分の大切なモノ全てを守れる実力が、ゴスペルや聖剣ではなく、それらを使いこなせる持ち主としての実力が!
ようやく、ロイは自分を知った。
自分も、いつか、貴族のようになりたいと。
「……ッッ」
ロイは奥歯を激しく軋ませる。
いささか彼の反応は過剰だ。確かにアリスとは友達ではあるが、普通の友人関係ならば、友達が各々の家庭の事情に首を突っ込むなどありえない。他の家の都合に介入しようなど、友達という枠を超えた行動だ。
なぜキミはここまでしようと思ったんだ?
良い方に転がっても悪い方に転がっても関係ない。仮に介入したら、どちらにせよ、こう呆れられるのは必然だろう。
悪い言い方になるが、言ってしまえば常識的ではない。
だが、ここまでロイがどうにかしようと抗おうとしているのには、理由があった。この世界にではなく、前世の出来事に彼が彼たる
「ボクはもう、不本意な離別なんて……っ、理不尽な現実なんて……ッッ、ホントは認めたくはないんだよ!」
現実なんて、思いどおりに進む方が珍しい。
教育機関の入学試験や、就職活動なんてまだまだ優しい方なのだろう。人間が人間である以上、あるいはエルフがエルフである以上、人間が人間であることそのもの、エルフがエルフであることそのものが、世界一、思ったように物事が進まない、上手くいかない壁として立ち塞がる。
たとえば、原始の人々は効率的に生きるために群れ、つまり社会を作った。そして鍛冶や料理、医療や建築、様々な技術が効率化され過ぎた結果、生存戦略の1つに過ぎなかった相互補助、役割分担をやめることができなくなった。
仮に今さら1人で自給自足しようとしても、みんなの暮らしより圧倒的に質が劣るのは火を見るよりも明らかだろう。
とどのつまり、ある程度の知能を持って生きているがゆえに、逆に世界は思いどおりになんてならないと気付けてしまう。
もしかしたら、教育機関の入学試験や、就職活動のような目に見える競争より、目に見えない共存共栄の強制の方が恐ろしいのかもしれない。
しかしロイは――、
「~~~~ッッ、それでも、納得できるわけがないだろ……ッッ! 生きていく以上、他人と関わるのは必然だけど、だからって全てに踏み込んでいいわけじゃない! なんでアリスの方が気を遣わなくちゃいけないんだ!!!」
ロイも流石に、心が疲弊してきたのだろう。
ほんの先刻までは荒々しく、苛立たしげに喚ていたのに、今、ロイは意気消沈してその場に蹲ってしまった。
「せめて、アリスのお父さんの動向や、スケジュールさえわかれば……」
アリスをなんとかしたい。
してあげるのではなく、してあげたい。
たとえ自分に全く関係がなかったとしても。
たとえ自分がどんな目に遭ったとしても。
それでもだった。
「くそぉ……」
もはやロイは理論ではなく感情を口にする。
(――嗚呼、この世界にきても結局、ボクは前世の鎖から解放されないのかな?)
もう声を出すこともなかった。
体力の問題ではなく、心の力、気力の問題だった。
状況はかなり詰んでいる。
他人に協力を求めるという手もあるが、それは即ち、アリスの事情を全て説明するということだ。
だがしかし、それは論外だった。
アリスを助けるのに彼女の意思を無視したら、それは恩の押し売りになってしまう。
「頼むよ、神様。なんとかしてほしい、なんて、そんな人任せなことは言わない。でもせめて、ボクがどうしたらいいかだけ教えてほしい。そこから先は、ボクがするから――」
ロイの声が虚しく自室に響く。
彼の部屋には彼1人しかいないのだ。誰かにその祈りが届くわけがない。
ふと、ロイは窓の外に視線を送る。
もう、夜だ。
こんな時間に、明かりも灯さずに、床に蹲っているなんて、ハタからみたら痛々しすぎるほど孤独だろう。
「――――?」
だがもし、この部屋にロイしかいない。それが、彼の勘違いだったら?
急になにもない虚空が揺れた。なにもない空間に、水が揺れるような波紋が広がった。
それを認識した瞬間、ロイはバッと慌てて立ち上がる。
数秒後、そこから姿を現したのは、1人の幼女だった。
「あらあら、随分と疲弊していますわね」
「アリシアさん!?」
王室直属の特務十二星座部隊、その序列第2位の【
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