ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章7話 茜色に染まる西洋風の川の岸で、感情が限界を――(2)
4章7話 茜色に染まる西洋風の川の岸で、感情が限界を――(2)
「イヤよ……っ、私、初めては好きな人に捧げたかったのに……。キスだって、本当はまだ、誰ともしたことがないのに……」
自分の身体を抱くようにしてアリスは
「私を差し出す代わりに、相手もキチンとエルフ・ル・ドーラ侯爵家に施しを与える。だから相手は必ずしも悪い人というわけじゃないわ……。でも、当たり前だけどその人のこと、好きでもなんでもないのよ! そして私は……好きな男性以外と結婚なんかしたくない!」
嗚咽を漏らしながらも、アリスは今まで溜めてきたストレスを吐き出し続ける。
「確かに私は毎日美味しい料理を食べて、綺麗な服を着て、豪華な屋敷でくつろいできた! でも! 正直! 私の全てが恩恵の対価っていうのは釣り合っていないでしょう!? お父様には感謝しているし、尊敬もしている。けれど、人やエルフの身体って、そのもの何物にも代えがたいモノじゃないの!?」
その点に関して言えば、ロイもアリスの言うとおりだと思った。
恩恵を受けた以上、それ相応の対価からは逃れられない。しかし彼女の言うとおり、優雅な衣食住の対価が本人の全てだというのならば、恩恵があまりにも安すぎる。
少しは貧しくてもいいから、自らの選択をより尊重される家に生まれたい。
もしも子が親を選べるのであれば、貴族になれたとしても、そういうことを言って平民に産まれる人もいるだろう。
ハッキリと言ってしまえば、貴族の娘に生まれたくなかった、というのは贅沢な悩みだ。
しかしだからと言って、悩みの対象が贅沢だから悩むな! なんて結論には至ってはならない。それがどのようなモノであれ、本人にとっては切実な問題なのだから。
「なのに……っ、なのに、なのに、なのにぃ、ッッ! なんでお父様の言いなりにならないといけないのよ! 貴族の娘であることが、私が私であることよりも大切なの!?」
感情的になってしまうアリス。
私が私であること。今のアリスは冷静ではないので、訊いても答えられないだろう。だが別に、これは
ただ、簡単なことで、当たり前のことで、ありふれていることで、あと少しでいいから、結婚に関することだけでいいから、自分の気持ちを尊重してほしい。
という、本当にそれだけのことだった。
アリスは毎晩、苦しいほど悩んでいた。
貴族の娘としての生まれる前からの決定は、本人の気持ちよりも大切なのか、と。
「結婚って、ウェディングドレスって、憧れている女の子、多いじゃない……? 私はッ、誰かに、たとえお父様だったとしても、エルフとしてごくごく普通の憧れを奪われたくない……っ、手を付けてほしくない……っ」
アリスの言うことは間違っていない。個人の夢や幸せ、そのようなモノに誰が無許可で介入していいのだろう?
夢を応援するのも、幸せを後押ししてあげるのも、親ならばありふれたことかもしれない。事実、アリスの父親だってそうだ。
しかし本人の意思を無視した応援や後押しは、逆に不愉快でしかない。
この社会水準の世界で暮らしてきたのだ。もしかしたらアリスの父親も、実は善意で政略結婚をさせようとしているかもしれない。
そう、押し付けた善意など、悪意以上に厄介な想いなのだ。
世の中には自己満足や、余計なお世話という言葉があるように、優しくしてあげるとか、世話してやるとか、そういう態度はただの傲慢なのだろう。
「アリス……その、結婚っていつなのかな?」
ロイは慎重に訊く。言葉のチョイスだけではなく、声のトーンや、早さ、声に込めるべき感情まで丁寧に選んだ。
アリスは彼の優しくて、そして慰めるような声に少しだけ落ち着きを取り戻して、これ以上は心配をかけさせないような声で答える。
「正直に言うと、わからないのよね」
「わからない?」
怪訝そうに繰り返すロイ。
彼の反応は当然だ。いくら政略結婚だとしても、自分の結婚の日程がわからないなど、どう考えてもおかしい。普通ならば、結婚式、入籍する日、そのどちらも知っていて然るべきだろう。
「きっと、お父様は私に準備をさせない気なのよ」
「準備をさせない? 準備をさせるじゃなくて?」
「心の準備をさせるよりも、駄々をこねる準備をさせない。まぁ、戦闘でたとえるなら奇襲みたいなものよ。もしかしたら、結婚の数日前、いえ、最悪の場合、結婚の前日に迎えにきて強制的に連れていく、なんてこともあるかもしれないわね……」
「連れていくって……」
「以前にも言ったけれど、爵位が上なのよ、相手の方が。だからこちらから出向く形になるわ」
「出向くって、まさか――っ」
「相手の貴族が国王陛下から与えられた領地は少しとはいえ王都から離れているのよ。だから馬車に乗って、そこそこ地方に、ね」
衝動的にロイはアリスの両肩を掴んだ。
そして彼女の蒼い瞳を真っ直ぐ見つめる。
「アリス、それじゃあ、学院はどうするの?」
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