ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章5話 ひとりで、抱え込んで――(2)
4章5話 ひとりで、抱え込んで――(2)
「そういえばお兄ちゃん、アリスさんとはどこまでいったのよ?」
「……言っていいの?」
「大丈夫、怒りませんからね?」
「……キスまで」
当然、ロイはアリスとキスなんてしていない。
が、先ほどレナードにキスまでしたと言ってしまったのだから、統一した方がいいとロイは考えたのだ。
とはいえ、そう言われてイヴとマリアがどのような反応をするのかはわからない。
ゆえにロイはかなり恐る恐る、2人の様子を確認した。
ウソとはいえ、そこまで進んでしまってよかったのだろうか?
しかし、そう不安がっていたロイの思いとは裏腹に、イヴもマリアも、本当に微塵も怒っているような感じではなかった。
「怒らないの?」
「怒らないよ?」
「怒らないって言いましたからね」
本当に怒っていないようだった。
だが、だからこそ逆にロイはなにかイヤな予感がした。。
前世の記憶があるぶん、ロイには昔から、年相応の生意気さがなかった。というのもあり、イヴもマリアも、彼に対してはかなりブラコンなのだ。イヴはお兄ちゃんが大好きだし、マリアも弟くんが大切で仕方がない。
確かに、自惚れているように思われてもやむを得ない。だが、ロイはなぜこの姉妹が、今に限った話だが、拗ねていないのかまるでわからなかった。
「ところで弟くん」
「な……なんでしょうか?」
「アリスさんとキスできるなら、お姉ちゃんともキスできますよね?」
「えっ……?」
「はい! じゃあ、まずはわたしからするよ!」
「はっ!?」
先にイヴの方が、ロイに抱き着いたまま「んっ」と軽く背伸びをして、彼の頬にキスをした。ほんのり湿っていて、小さくてフワフワな幼い唇の感触が、ロイの頬に押し付けられる。
それはともかく、どうやらこういうことらしい。
即ち、アリスにしたこと(に建前上なっていること)を、自分たちだってするぞ、ということだ。
「じゃあ、次はわたしですね」
「ちょ、っ、姉さんまで!?」
今度はマリアがイヴがキスした方とは逆の頬にキスをプレゼントする。
が、その時だった。
「イヴちゃん! マリアさん! シィのロイくんになにしているの!?」
ぷんぷん、という音が聞こえそうなぐらい可愛らしく怒りながら、後ろからシーリーンが介入してくる。
無論、彼女のさらに後ろには、顔を真っ赤にしたアリスもいた。
「ぅん? シーリーンさんはハーレムを認めていたはずだよ?」
「イヴちゃん、認めることは認めるけれど、シィに一言断ってからにして!」
「むっ、シーリーンさん! 確かに弟くんはあなたの恋人かもしれません。ですが、わたしたちにとっても弟くんは家族なんですからね? 今のは家族としてのスキンシップです♪」
「家族のスキンシップだとしても、人前でキスをするのはいけません! 公然わいせつ一歩手前です! それに、ロイが困っています!」
ロイはイヴに右腕を一生懸命、可愛らしく引っ張られて、マリアには左腕に大きく膨らんだ胸を押し付けられる。
そしてシーリーンには真正面から抱きしめられて、アリスには制服の首根っこを、ぷんぷんされながら引っ張られた。
四方から美少女に求められて、ロイにだって嬉しい気持ちはある。
しかし正直、女の子にもそれなりの腕力というモノが存在するので、流石に少々、ロイの身体は悲鳴を上げ始める。
「待って! ちょっと待って! ボクも男子だし、嬉しいことは嬉しい! けど、周りの人の視線と、ついでに身体も痛いから、みんな離れて!」
「イヴちゃんが離れたらシィも離れる!」
「シーリーンさんが離れてくれたらわたしも離れるよ!」
「アリスさんが離れるかどうか次第ですね!」
「マリアさんが離れてから考えるわ!」
1分後、ロイは噴水がある広場のベンチで少し休んでいた。
彼の隣には誰も座っておらず、ベンチを囲むように、4人が視線で牽制し合いながら立っている。
「うぅ、関節が少し痛い……」
「ゴメンね、お兄ちゃん……」
「最年長なのに、少し大人気なかったですね……」
「ううん、イヴも姉さんも、気持ちはすごく嬉しいんだ。家族として本当の意味で大事にされているみたいで。ただ、時と場所を選んでくれるともっと嬉しいかな?」
少しだけやつれた感じでロイは微笑む。
しかし、なぜかシーリーンは違和感を覚えた。ロイの表現というか、言い回しがおかしかった気がするのだ。家族として本当の意味で大事、とは、どういうことだろうか。
「でも意外だな、アリスまで赤面したのが」
「そういえばそうですね。アリスさんは弟くんとすでにキスぐらいしているでしょうし」
「そう言われればそうなのよ」
「まぁ、そういう意味で言ったんじゃないけど……なんていうか、意外とムキになるんだなぁ、って思って」
イヴとマリアは顔を見合わせて小首を傾げた。
意味がよくわからなかったのだろう。
しかし当然、アリス本人は理解している。
自分はロイと本当の意味で付き合っているわけではない。なのになぜ、ロイがキスされて、それも相手は家族だというのに、こんなにムキになってしまったのだろう? そんな疑問が、いつの間にか、アリスの頭の中に自然と浮かんでいた。
自分の行動だ。だから答えは必ず自分の中にある疑問なのに、答えがわからないアリス。
だがそのような彼女を見て、シーリーンはなんとなく、本人にもわからない答えがわかってしまった気がした。
「大丈夫、アリス? 顔が少し赤いよ?」
「な、なんでもないわ! ふん、ロイのバカ……」
「えぇ……なんでボク、罵倒されたの?」
「気にしなくていいよ。アリスはきっと、自分でもまだよくわかっていないだけだから」
楽しそうにニコニコ微笑むシーリーン。
彼女がそう言うのなら、と、ロイはひとまず、アリスの罵倒を気にしないことにした。
「ねぇ、ロイ、それにシィも、イヴちゃんも、マリアさんも、少しいいかしら?」
「なに?」
「ほぇ?」
「んんっ?」
「なんでしょうか?」
「異性と結ばれることって、本当なら、こんなに幸せなことなのかしら……?」
流石にイヴとマリアは鳩が豆鉄砲を喰らったような
2人からしたら脈絡がなさすぎるし、その上、唐突なシリアス発言なので意味不明だろう。
だが、ロイとシーリーンは違う。
十中八九、アリスは今のやり取りを経て不安になったのだ。今のようなやり取りを、自分は結婚相手とできるのだろうか、と。これが本物で、いずれ自分が正式にする方が偽物なんじゃないか、と。
当然、全ての政略結婚が、当事者の意思を無視しているというわけではない。政略結婚でも、もしかしたらお見合いのような形を経て、相思相愛の政略結婚をした。そういう貴族の夫婦もいるかもしれない。
だが恐らくそれは少数派だし、アリスがその少数派になれるか否かで言えば、きっと否だろう。
だから――、
すごく感情的だが、アリスは悲しくなった――否――より正確に言うのなら、ただひたすらに、自分の未来に虚しくなったのだろう。
「ゴメンなさい、なんでもないわ。気にしないで」
「アリス……」
「今日はもう帰らせてもらうわね? それじゃあ、また明日」
足早にその場から離れるアリス。
シーリーンは仮に追いかけても、かけるべき言葉が見付からなそうで。
イヴとマリアは友達として当然、アリスのことが心配だったが、正直、展開がよくわからなくて。
結局、誰もアリスのことを追うことができそうになかった。
ただ1人、ロイを除いては。
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