ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章12話 夜の寄宿舎の一室で、アリスを呼んだあと――(2)
3章12話 夜の寄宿舎の一室で、アリスを呼んだあと――(2)
「花嫁は言わずもがな私で、花婿は上の階級、公爵家で、確か30代後半のお方だったわ。いわゆる政略結婚というヤツね」
「ちょっと待って! アリスは確か次女だったよね? お姉さんはどうしたの!?」
「お父様が仰ったのよ。政略結婚したくなければ、親である私を越えてみせろ、って」
「意味がわからないよ……」
「う~ん、シィとしてはちょっとこじ付けすぎる気も……」
「簡単なことよ。前提として、私たちの家は男子に恵まれなかった。そしてお父様は貴族でもあり、同時に魔術の学者でもあるの。だからお父様を越えるということは、魔術師として高いランクにいるということ。越えなければこのまま公爵家との繋がりをゲット。越えた場合は政略結婚させるよりも、魔術師として活躍してもらった方がエルフ・ル・ドーラ家のメリットに繋がる。どっちに転んでも得をするこれが、お父様の考えね」
「そんな……自分の子どもを道具みたいに……」
「私は道具じゃないわ、貴族よ」
アリスは投げやりな口調で、空っぽな瞳で続けた。
「お父様もお母様も、私とお姉様にたくさんの愛情を注いでくれたわ。で、子どもには将来の夢ってよくあるでしょう? 父親が騎士なら男の子も騎士になりたいとか、母親がお花屋さんなら女の子もお花屋さんになりたいとか。私の政略結婚も、それと似たようなモノよ。必ず、いいか悪いかは置いておいて、覆しようのない事実として、大なり小なり、子どもの将来には親の存在が関わってくる。私はそれが大きいだけよ」
「アリス……」
「たまたま親の影響力が大きすぎるから、アリスという私の意思が尊重されないだけ。理由は、貴族だから。そういう意味で、私は道具じゃないわ、貴族よって言ったのよ」
「シィは貴族の世界とか詳しくないけど……アリスはそれで納得していないんだよね?」
「当然でしょ? 相手は自分より20歳も年上なのよ? だけどね、シィ? 私は生まれた時から美味しい物を食べて、フカフカのベッドに寝て、他の人よりも圧倒的に裕福な暮らしをしてきた。貴族特有の恩恵を今までヌクヌクと受けておきながら、貴族特有のしがらみからは逃げ出したい。結局、2人を私のワガママに巻き込んじゃったけれど、これもこれでワガママ、筋違いなのよ。私に断る権利はないわ」
ロイは自分の無力を悔やむようにうつむいた。
シーリーンもいつの間にか寝転ぶのをやめて、ベッドの上で女の子座りをしている。
「道具っていうと、やっぱり語弊があるわね。こういうのは、貴族として生まれてくる子どもの宿命みたいなモノで、貴族っていうのはそういうものなんだ! って、割り切るしかないのよ」
「そもそも貴族としての生活は……政略結婚を前提にしている、ってこと?」
ロイは恐る恐る訊く。
彼だって言葉を選んで言いたかったし、事実、言おうとしたのだが、上手い表現が見付からなくて、こういう言い方になってしまった。
「特に女の子は、ね」
それにアリスは素っ気なく返す。
ロイの質問をイヤに感じたのではない。ウソ偽りなく本当に、そう返事するしか、アリスは選択肢がないように感じたのだ。
「それでアリス、お姉さんはどうしたの?」
ふと、シーリーンが先ほど出てきた情報を引っ張ってきてアリスに問う。
「それも簡単な話よ。お父様が私を越えてみせろと仰った。そして実際に、お姉様はお父様を超えた。それもまだ10代だった頃に」
「本物の学者を子どもが超える……っ」
ロイは焦燥感を覚える。それを騎士に当てはめるならば、今の自分が戦争を経験しているような『本物』と戦って勝つようなものだ。
自惚れていたのかもしれない。上には上がいるのは当然だが、もはや話を聞いただけで戦慄すら感じてしまった。
「私は今、5学年次生で、お姉様がお父様を認めさせたのも5学年次生の頃だったのよ。だからなのかは知らないけれど、私がお父様を超える期限も、今年中になってしまったわ」
「だから昨日、お姉様のように、早くお父様を超えないと、なんて呟いたの?」
「なによ、聞こえていたんじゃない」
この話が始まって、ここでようやく、アリスがクスクスと笑った。
「先輩には、本当に申し訳ないと思っているわ」
「今朝の告白のことだよね?」
「えぇ、片想いを続けても、私はどうせ別の人と結婚する。あの先輩、結婚相手が30代後半って聞いたら絶対にショック受けそうじゃない。それに……事情を抱えていることを察せられて、質問されたけれども、こんなこと、あまり他人に話したくなかった」
「「…………」」
「理屈なんてないけれど、感情的に、話すのがイヤだったのよ……」
「ゴメン、アリス。そこまでイヤだったなら、ボクも訊かない方がよかったよね?」
「……いいのよ。ロイには二重の意味で付き合わせた責任が、シィには一時的にとはいえ、ロイを奪ってしまった責任があるもの。確かにイヤだったけれど、だから説明の責任まで放棄する、なんて私は絶対に言わないわ」
そうして、深々と夜は更けていく。
ロイは自室に戻り、アリスのことはシーリーンに任せた。流石にアリスを自分の部屋に泊めることはできないし、この時間に女の子を帰宅させるのは危険だった。
アリスの事情は正直、重い。
政略結婚には重要なポイントが1つではなく2つあるのだ。
1つは当然、結婚相手の家との繋がりが生まれること。
そしてもう1つは、貴族と貴族の間で子どもを作ろうとすること。
この際、貴族同士が子どもを作るメリットは置いておとくとしても、子どもを作る、それだけで、アリスの絶望は計り知れない。
本人の言うところによると、結婚相手は30代後半らしい。対してアリスはまだ10代後半だ。もしそういうことをすることになったら、アリスの性的な嫌悪感は相当なモノになるだろう。
ロイに置き換えるならば、30代後半の女性と寝ることを実の親に強制されるようなものだ。
拒否なんてレベルじゃない。拒絶するレベルだ。
「自分に力がないのはわかっている……。それでも、なんとかしてあげたいな……」
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